ゲーマー二人
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)
ネモ(ニュウの妹・山賊の頭・プレイヤー・8歳(外見年齢18歳くらい))
テルヒロが御者席へニュウに連れていかれたことで、俺は図らずもネモと二人きりになってしまった。そもそも、テルヒロが御者できるのか……?ニュウも到底そういうスキルを持っているとは思えないんだけど。
そんな不安を感じて、御者席の方に目をやっていると、ネモが口を開いた。
「ああ、大丈夫だよ。馬車の御者はリズムゲームみたいな感じになってて、難しい者じゃないし。お姉ちゃんは音ゲー得意だから、問題ないよ」
「あ、うん。そうなんだ……」
ああ、うん。じゃあ御者は問題ないね。御者は。
問題は俺なんだけどな。テルヒロもいないし、ネモは隣りにいて話しかけてくれるし。でも、俺は彼女と目線を合わせられないで、忙しなく視線を彷徨わせてしまう。
そもそも人の目と言うのは苦手だ。昔からよく「目線を合わせて話をしろ」と言われてきたが、そういう行為が俺は苦手なんだ。意味もなく緊張感やら圧迫感やらを感じるし、何より酔ってくる。
まるで、目の前の人の顔が大きくなったり小さくなったりと勝手に距離感が動き出す感じがしたり、顔を合わせているだけで地面が傾いているような感覚すらしてくる。何も話していないと、こちらが話さないといけないのか、と言う焦りも出てくるし。
……何が言いたいかと言うと、俺は人と話すというより、人と顔を合わせるのが苦手なのだ。
テルヒロくらいの付き合いがあれば、いい加減慣れても来るのだが。
いや、それだけじゃない。俺が話せば、俺のふとした一単語で、相手がどれだけ失望されるか、怒りを覚えるか、傷つけるかが判らないので、話すことも苦手だ。
まして、口にしたことが意味を変えて判断されたり、それで言った言わないの押し問答だったり、そもそも話している内容がいつの間にか変わっていたり、口頭で話すということの非効率さが尋常じゃない。
全部メールでくれ。後ログをくれ。
そういう理由もあって、俺がネモと目線を合わさないで口を噤んでいると、ネモが苦笑するような口調で話し出した。
「……あー、初対面が初対面だから、あんまり気分良くないかもだけど。でも、シオさんは"そう"じゃないでしょ?
私たちを助けてくれたり、元の世界に戻る手がかりを見つけたり色々動いてるみたいだし。"あれ"って全部シオさんでしょ?」
俺は、その言葉に驚いてネモを見た。全部、テルヒロを矢面に立たせていたはずなのに。
俺の動揺を見て取ったか、ネモは、にぱ、と笑った。
「わかるよ。戦った時はテルヒロさん、明らかに場慣れしてなかったもん。でも、シオさんは私の初見の一撃も軽く受け流しちゃったし。
それに、シオさんが人と話すのが苦手、ってより口下手っていうだけなのも分かる。私の友達にもそういう人いるし」
そう言って、ネモは虚空に手を伸ばした。その瞬間、俺の目の前にシステムウィンドウがポップアップした。
<ネモ:こっちで話そ?>
それは、目の前の人物からのプライベートメッセージ――つまり、チャットのお誘いだった。
ああ、うん。本当によくわかってる。俺もこっちの方がありがたいわ。本当に、ありがたい。
<シオ:こっちなら大丈夫
ネモ:タイプ早!
ネモ:あ、そうだ。最初に聞きたいんだけど
シオ:何?
ネモ:シオさんとテルヒロさんって恋人?
シオ:気持ち悪いことを言わないでいただきたい>
*--
陽が落ちる寸前。ギリギリ門を閉じる前に、俺たちは遂にフォウニーの街へとたどり着いた。
野営所からここまで、幸いにも盗賊もモンスターとも出会わず、順調に進む事ができたおかげだ。……まぁ、盗賊に関していえば、そもそも出てくる予定の盗賊を身の内に引き入れているのが大きい要素である気もするけど。
「お疲れさまでした。今後ともご贔屓にお願いします」
「ええ。こちらこそ。この度は、荷物を助けていただき、ありがとうございました」
「お疲れ様」「おつかれー」「お疲れさま」
ギルドの前で、無事依頼の完了の処理を行ってキンカーさんのキャラバンは解散した。途中で盗賊退治と言う突発的な依頼が入ったこともあり、俺たちの懐は、予定よりも潤った。
そのおかげもあって、この日の内に俺とテルヒロはクラン立ち上げの申請をした。申請が通ったものの、時間が遅かったので諸々の手続きが終わりクランとしてギルドに認証されるのは、明日になってしまうことになってしまったけれど。
「テルヒロ、シオ!お前らも打ち上げに来いよ!」
トネラコさんが、片手に金の袋を掲げて、こちらに声をかけてきた。
このギルドは、一階に酒場を併設している。俺たちが二階でクランの立ち上げ申請を終えて一階に降りてくれば、すでに出来上がったタイガーファングの面々が、大声で俺たちを呼んでいたのだ。
あー、うん。打ち上げ……打ち上げ、ね。お酒の席って面倒そうなんだけどな。
とはいえ、依頼も終わったし、手に入れた金でパーッとやるのが冒険者の矜持なんだろう。ファンタジーの世界で冒険者と言う職業なら、そういうものなのだ。古事記にも書いてある。
テルヒロは俺を見て、「どうする?」と訴えてきた。俺は、「しゃーない、行こう」と苦笑しながら答えた。その時。
「テルヒロさん、行こう!」
と、俺の横を通り越して、ニュウがテルヒロの手を取って新緑の眼とタイガーファングの面々が座ったギルドへと連れ去っていく。残されたのは、その様子を見送る俺とネモだ。
なんだ、あれ。
俺がネモの方を見ると、彼女は困ったような笑顔を返してきた。
「……お姉ちゃんが、ごめんね」
「いや、うん」
申し訳なさそうな表情のネモに毒気の抜かれた俺は、ただ、そうとだけ答えた。まぁ、ネモが謝ることじゃないんだけどな。
そのまま俺もネモに手を引かれて、トネラコさんたちの机に着いた。テルヒロとニュウは、ラルドさんたちの机に着いている。……いや、向こうがもう椅子埋まってたからね。しょうがないね。
この机に居るのは……うへ。この卓はどう考えても野生じみた面子が並んでるよ。トネラコさん、タイジュさん、アミィさん、デネブさん……タイジュさん、こっち側なのか。
「よぉし、駆け付け一杯だ!ガハハ!」
同席している面子に頭を抱えていると、俺とネモの前にジョッキ一杯、"なみなみ"と注がれたエールを叩きつけるトネラコさん。うわ、跳ねた泡がちょっと頬にかかってしまった。
「あはは。トネラコ乱暴すぎィ!シオちゃんがびっくりしてるじゃんン!」
「んが?おおっと、すまねぇ!ガハハ」
……既に、卓の全員出来上がっているようだ。怒っているようなことを言いつつも緩んだ顔が戻っていないアミィさんに、全く悪びれることなく馬鹿笑いするトネラコさん。
くっそ。これだから酔っ払いってのは苦手だ。誰もがそのノリで行けると思うなよ?
「はーい、いっただっきまーす!」
「おおっ」
「へっ?」
隣で能天気な声がしたかと思えば、トネラコさんとアミィさんが嬉しそうに声を上げた。隣に目をやれば、ジョッキを片手にグイグイとエールらしき中身を一気飲みしていくネモの姿があった。
……おいおい。中身は未成年だろ。肉体年齢は20超えているのは間違いないだろうけど。
「んぅ、んっ……っぱぁは~~~~っっ!!」
「うおぉ!イけるねぇ!よぉし、飲め飲め」
「はっは!あざーす!」
一気飲みでジョッキ一杯のエールを飲み干したネモは、さながらサラリーマンのおっさんのように、酒に感嘆の声を上げる。そのようにさらに盛り上がる卓の一同。
……お前。なんでそんな呑み慣れてるんだ?山賊か?山賊クランの賜物か?
そんな盛り上がる卓の連中の一方、俺はと言うと、完全に陽キャの雰囲気に呑まれて肩身の狭い思いをしていた。
俺には、ちびちびとエールを飲み進めていくしかできない。
今、俺は空気だ。空気なのだ。なんとかおとなしくこの場を何事もなく乗り越えるのだ……。それが俺の使命。しかし、ぬるいなこれ。あんまりおいしくない。味もなんというか、あれだ。ミネラルウォーターの炭酸水みたいな苦味しか感じない。どうしようかな、これ。
そんなことを考えながら無難に過ごそうと思っていたところ、とんでもないキラーパスが飛んできた。
「ところでよ、シオってテルヒロとヤってんの?」
「ぶほぇ」
「うわァァ!?」
俺は、エールの毒霧を質問者にぶちまけた。俺は悪くぬぇ。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
改めまして、この作品はフィクションになっております。
ネモちゃんがお酒を飲んでおりますが、カラダが成人していることともありますが、ゲームの回復アイテムにお酒類があるので、この作品のプレイアブルキャラクターは全員、肉体は成人している設定になっております。悪しからず。
現実の皆様はお酒は20を超えてから、お願いいたします。
2020/05/21 追記
毎度、誤字報告ありがとうございます。わかりにくかったようで申し訳ありませんが、シオくんの「悪くぬぇ」は誤字ではなく、ふざけた質問をしたトネラコさんに託する憎まれ口演出であります。ご了承ください。




