地球に戻るための一つの冴えた方法
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)
ネモ(ニュウの妹・山賊の頭・プレイヤー・8歳(外見年齢18歳くらい))
答えるのは俺じゃない。テルヒロだ。すでに、その手順については話してあるので、淀みなく説明してくれるはず……だ。
「ダンジョンに潜るんだ。目的地は『闇界の洞窟』の地下100階」
そう言って、テルヒロはちらり、と俺を向いたそう、答え合わせしなくても合ってるよ。大丈夫だ。
「闇界の100……?――あ、そうか!『未来の扉』!裏インスタンスなのね!」
おー、これだけのヒントで正解にたどり着くとは、さては妹ちゃんも設定厨か?
『闇界の洞窟』は、俗に言う【ID】――プレイヤー個人向けではなく、パーティ戦を前提としたダンジョン――というコンテンツに属する場所だ。
version 3.7で追加されたこの『闇界の洞窟』は、version 4.4で大幅な変更を受けた。【メイン】職アビリティの【銃使】の追加要素が増えたのだ。
『闇界の洞窟』自体は、適正レベルは55。最大レベル100だったRBDにおいて、小慣れてきたプレイヤー向けのダンジョンだった。そこに、新規追加要素の銃使にクラスチェンジするためのアイテムをドロップするエンドコンテンツの入り口が追加されたのだ。
【銃使】は、失われた技術である【銃】を使うための前提アビリティだ。そして、元々『闇界の洞窟』の最奥だった50階に、追加されたダンジョンを進んだ更に奥、100階層に【銃】の技術を復活させるための場所へ行くワープポイントがあるのだ。
そのワープの先にあった世界は、それまでファンタジー然とした世界とうって変わった、近未来の名残の見えるフィールドだった。
大地はアスファルトで固められ、木々や山の代わりに高層ビル群が立ち並ぶ。
『闇界の洞窟』の地下100階にあるワープポイント『未来の扉』とは、この世界の超古代に向かうのでも超未来に向かうのでもなく、【銃】を使う技術を持つ種族の住む"別世界"への扉だった。
これが、公式の用意した『闇界の洞窟』裏IDの設定だった。そして、俺がこの設定から連想したのは、今のこのRBD世界において、『未来の扉』が正に地球に通じたワープポイントになるのではないのか、と言うことだ。
ちなみに、適正レベルは経由する街の数×10と言われている。フォウニーの街周辺の依頼やモンスターは適正レベル20~25くらいになるわけだ。最初期のメインシナリオのラストダンジョンで、適正70くらいである。
ゲーム世界のみならず、異世界転移というものは俺の知る限りで言えば、何かしらの理由を以って移動させられるパターンが多い。ゲームであれば、大体はゲームクリアが目的だ。
でも、このゲームはオンラインゲームだ。
オンラインゲームに"クリア"は存在しない。ついでにこの世界は危機に陥っているわけでも、不倶戴天の魔王が襲っているわけでもない。プレイヤーは、異世界からやって来た冒険者となって、別世界で冒険するのが主目的だ。
そんなオンラインゲーム界において、一つの区切りとして存在するエンドコンテンツ。ある意味、たどり着けば"終わり"となるコンテンツの中で、俺の知識の中でRBDの世界で異世界や現代地球に関連する内容を含むのは、『未来の扉』しか思いつかなかったのだ。
だから、まずはここをクリアする。――まぁ、ダメだったら、その時はその時で別のものを探す。とにかく、帰る目途と言うより可能性を示しておかなければ頑張る者も頑張れない。
そういうわけで、さしあたっての目標で『未来の扉』を目指すことは、最初にテルヒロにも話している主目的だった。
「そうか……確かにあそこからならひょっとしたら現実世界に戻れるかも!
お姉ちゃん!私たち、帰れるよ!」
ネモは、既に帰れる確定がある様に嬉しそうな声を上げると、ニュウの手を取って飛び跳ねるように喜んだ。そんな様子を見ていると、彼女の中身がまだ8歳なんだな、と実感が沸いた。
ニュウもニュウで、テンションの上がったネモの様子に戸惑った表情ながらも、嬉しそうに答えた。
「そう、そうなのね!私たち、帰れるのね!」
そして、流れるようにネモの手を放して、テルヒロの手を取った。
「ありがとうございます!私たちも、協力します!よろしくお願いします!」
「あ、ああ。こちらこそ。よろしく頼むよ」
いきなり話を振られたのに驚いたのか、一瞬眉を上げたものの、にこやかに笑ってテルヒロはそう返した。
むぅ……。まぁ、俺はおまけだからね。視界に入らなくて当然……というより、こちらの要望を通すのにテルヒロを盾にしているんだから、あいつが感謝されるのは予定調和だ。……なんだけど。
なんか、しっくりこないな。何だろう?
そんな感じで、手を取り合って話している二人を観ながら"もにょ"っていると、俺の隣にススス、とネモがやって来た。
「……私がタンク、お姉ちゃんとテルヒロさんがDPSを出すとして、貴方の役目はバッファ?ヒーラー?」
「う、ん。バッファ兼ヒーラー、構成。一応今はヒーラー寄り」
ネモからポジショニングについて話を振られたので、とりあえず想定していることを話した。しかし、いきなり話しかけられたので、思わずいつものように吃ってしまった。
と、いうか。中身が8歳児とは聞いているが、見た目はテルヒロと同等の体格をしているネモ。隣に並ばれると、明らかに年上の風貌に加え、上から見下ろされるような構図になってしまうので、どうしても体が竦んでしまう。
うーん、ラルドさんはともかくトネラコさんとかアミィさんとかとは、見下ろされても少しは何の問題もなく話せたんだけどにな……。どうしても治らない、このノミの心臓。
そんな感じでドキドキしている俺を気にせずに、ネモはぶつぶつと顎に手を置いて考え込みだした。
「ふんふん。そうなるとしばらくはバッファ抜きか。じゃあ、パーティ構成的にお姉ちゃんは、一旦デバッファの方に進んでもらおうかな。うまく進めれば、すぐにDPSの方にも戻せるだろうし。
――どう思う?」
「あ、バッファは、いないほうが、いい、と思う」
「ん?どうして?」
「バッファは、感覚が、狂うから。ネモ、さんも、一度、受けたから、わかる?」
俺のたどたどしい説明に、思い当たることがなかったのか虚空を見上げて考え込むネモ。しかし、は、と目を瞠ってこちらを向いた。
「――あ、ああ!あの時の!……あれ、バフに見せかけたデバフとかじゃなかったの?」
「あれは、バフ魔法」
「そっかー……そっかそっか。確かにそれならバッファはいらないね。それでヒーラー寄りなんだ」
合点がいったようにうんうん、と頷いてくれる。
「……あ、ネモ」
そうこうしていると、俺がネモと話していることに気付いたテルヒロがこちらに声をかけてきた。
「ごめん。シオは人と話すのがすごく苦手なんだ。聞きたいことがあったら俺が通訳するよ?」
テルヒロはそう言って、心配そうに俺の方を見た。俺は、と言うとテルヒロの心配そうな表情よりも、その肩越しにチラ見えする、不満そうな顔のニュウの方が気になってしょうがない。目線は合わさないけど。
うわぁ。これは面倒な予感がひしひしするぞ。
と、不意にネモが俺の腕を掻き抱いてきた。
「――っと!?」
「だーいじょうぶ!そんなに困ることもないよ?話もしやすいし!」
えっ、マジで言ってる?
にこやかに笑うネモに、俺は驚いた。口を開けば吃って、会話のテンポは相変わらず悪いと思うんですけど!
この娘、リアルの人付き合いどうなってんの?こいつもコミュニケーションおばけか!?
テルヒロもそう思ったのか、驚いた顔でネモを見ていた。そこに突っ込んできたのはニュウだ。
「そうですよ、テルヒロさん。同い年だろうし、話も合うんですよ、きっと」
「……は?」
「あっちはあっちで仲良くやってるし、私もテルヒロさんの話、聞きたいです。同じ近接職みたいだし」
「……は?」
同い年?誰と誰が?まさか、俺とネモ?ネモが見た目と中身で年齢違うのに、俺のこと身長だけで年齢判断してないか、この人。
っていうか、近接職って話だったら明らかにネモの方が付き合いも長いし、身になる話だろうに。
頓珍漢なことを言い出したことで、思わず目が点になる俺とテルヒロ。ネモも、フォローができないのか流石に表情が固まっていた。
呆然とする中、強引に連れ去られていくテルヒロ。俺は、ネモに腕を取られてテルヒロを追うことができなかった。
どういうつもりか、とネモを見てみると、彼女は彼女で、呆気に取られていたようだ。俺が見ていることに気付いて、バッと身を話して気まずそうに溜息をついた。
「……まぁ、ちょっと二人で話したいこともあったから。お姉ちゃんとテルヒロさんのこと、応援する気もないよ。馬に蹴られたくないからね」
こっちはこっちで勘違いしてるし。
それだと、俺とテルヒロが付き合っている、ってことじゃないか!?勘弁してくれ……。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
傍から見てるとお付き合いしてるように見えるシオくんとテルヒロくんの明日はどっちだ(何が)!?
ちなみにシオくんの予想通り、ネモちゃんはシオくんのことを「自分と同じアバターの年齢が一致してない、中身は同い年の同性」と思ってます。
彼女は彼女で同年代だと面倒見がいいんですが、何よりダメな兄姉を長年見ていると、弟妹として自分がしっかりしないと、という自覚が出るので、彼女自身はそう悪い娘ではないのです。活動に山賊をチョイスしてしまったのは、自分のプレイスタイルとか世界に慣れていなかったのでゲーム経験からとか、諸々で合致してしまった結果ですね。
そんな行動力の有る8歳は、実際すごく敏いですよ。ソースはわたしの弟です。




