更生労役
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)
ネモ(ニュウの妹・山賊の頭・プレイヤー・8歳(外見年齢18歳くらい))
「身請け?保護観察?なんだそりゃ」
「えっ!?」
トネラコさんが訝し気に首を捻った。予想外の反応で、思わずテルヒロが驚いてこちらを見た。話が違う、という表情だ。まぁ、そうだろう。
犯罪者キャラクターの、クランへの身請け。そんな名前のシステムは存在しないのだから。
しかし、ラルドさんがハッ、と目を瞠る。
「……そうか、【更生労役】か。確かに、クランにはそういうシステムがあったな」
「【更生労役】?なんだそりゃ」
「トネラコは知らないだろうな。『新緑の眼』ですら、まだ使ったことがない仕組みだ。俺も、クランリーダーになるにあたって知識として知っているだけに過ぎない。
テルヒロ、よく知っていたな」
「あ!?いや、あははー……」
唐突に褒められて、テルヒロは戸惑いつつも笑って濁した。
この世界が現実になったことでいろいろとファジーな部分が生まれた。まだクランの設立もしていないし、もし身請けできるにしても、何かしらの条件があるはずで、俺達が条件を満たしているかもわからない。そもそも、名前が同じかすらわからない可能性があったので、テルヒロには意味合い的なニュアンスで尋ねさせてみたのだ。
しかし、ちゃんと名前のある仕組みがあったようだ。ちゃんと思い出してくれるなんて、さすがラルドさんだぜ。脳筋トネラコさんとはできが違う。
この案の下地は、俺の知っているラノベの話の中の一つのエピソードだ。
それは、犯罪者の奴隷落ちである。奴隷に落とされた犯罪者を、何らかの手段で身請けして更生させるという、割とありふれたエピソードだ。
「確かに。テルヒロはシオとパーティを組んでおり、ギルドの貢献度も十分。フォウニーに行けばクランを立ち上げることは可能だろう。しかし、クランの立ち上げには最低4人は必要となる。
そこで、ニュウとネモを引き取ってクランの立ち上げをしようと言うわけか。なるほど。ただの慈善ではないなら、納得もできるな」
ラルドさんは、テルヒロの提案から次々にメリットを上げていく。……あー、そういえばクランって4人必要なんだっけ?あれ?でも俺の1stキャラのクランは一人なんだけど。アップデートで条件変わったのかな。
「しかし、出来立てのクランに【犯罪者】がいるのは、あまりいい顔では見られないぞ。それでもいいのか?」
「――はい。彼女たちは、俺の同郷です。彼女たちの動機も、俺たちと同じく、故郷に戻るための資金繰りだったようですし、裏切られることはないと思っています」
ラルドさんの言うデメリットに、テルヒロは真っ向から視線を合わせて反論した。――テルヒロは頑固だからなあ。一度助けられるルートが発見されたら、もう猪突猛進だろう。やれやれ。
ちなみに、RBDには元々【犯罪者】という職がある。
何言ってんだ、という名前ではあるが、あるのだからしょうがない。転職条件は、レッドネーム――システム上、犯罪行為に当たる行動をしたことで、ステータスの名前の色が赤くなることだ――であること。それだけだ。
レッドネームの状態であることを各町に配置されているNPCの警邏団に認識されることで、とある場所で【メイン】職を変更することができるようになる。と、いうか自動的に【メイン】職が上書きされる。冒険者ギルドの転職所を使わずに転職できる、数少ないコンテンツだ。
現在ニュウとネモは、山賊行為をしたことが発覚している。この状態でフォウニーの警邏団に連れていけば、二人、よしんばニュウの無罪が確定しても、ネモはレッドネームになるのは間違いない。
この状態でテルヒロにクランを作ってもらい、レッドネームプレイヤーを【仮保釈】の地位で引き受けることで、レッドネームプレイヤーは牢屋に入れられることはなくなるのだ。
【仮保釈】の職には何の意味があるのかと言うと、RBDの仕様によるもので、プレイヤーのレッドネーム状態を解消する為に必要な行動の一つなのだ。具体的には、意図せず初心者がレッドネームになってしまった時の救済策として用意されている仕様だ。
これまたRBDの歴史の中で起こった事件だったが、PK連中が初心者を騙してわざと犯罪行為に巻き込むことで犯罪者堕ちさせて、自分たちのクランに引き入れようとした事件があった。システムに則って行われた行為なので、公式はこの事件でのクレームには対応しなかった。レッドネームでも、クランに入ること自体に制限はない。
しかし通常のクランは、レッドネームを勧誘する事、あるいはレッドネームから参加の依頼があっても、快く受け入れる所はなかった。
この犯罪者堕ち行為が問題として公式にも槍玉に挙げられたきっかけになったのは、この犯罪者堕ち行為が最も目立つことで不評を集めていた一つのPKクランが、公式イベントに他のクランを差し置いてランキング入りしたせいだった。
これにより、PKによる初心者狩り――普通にPKするのではなく、この場合は犯罪者堕ちさせて、他のクラン参入の選択肢を無くさせる行為だ――が横行した。更に、一部の下位ランカーの本来PKクランではなかったクランがPKクランに趣旨替えしたことで、被害が爆発的に増えてしまった。
PKになるつもりのないプレイヤーは、この事件の被害に合うことで即座にプレイを辞めてしまう事態が頻発し、レビューサイトなどの反応もガタ落ちしてしまい、当然それに比例して新規参入がなくなってしまったのだ。
これには当時の運営も泡を食って対応に奔走した。レッドネームの解消には、罪に応じて溜まる刑期――ゲーム内用語ではカルマポイントと言う――を減らすことが必須だ。滞在することでカルマポイントを減らすことができる行動は牢屋に入ること以外になく、急遽カルマポイントを減らすギミックが実装されたのだ。
それが、犯罪クランではないクランに参加し、【仮保釈】の地位に就くことだったのだ。
さて、ここまでのレッドネーム解除の一連の流れだが、正に先に言ったよくあるラノベの「犯罪者が奴隷落ちし、更生のために組織に身請けされる」という流れに一致するのではないか、と俺は考えたのだ。
現在のこの世界はRBDのバージョンで言えば、恐らく最新バージョン、かつプレイヤーの進捗がほとんどない世界だと考えられる。それは、少なくとも【自白】ギミックの存在があるからversion 4.0以上であることは確定しているにもかかわらず、ギルドにversion 1.0 の頃から存在するロックリーチの出現条件すら浸透していない、非常にちぐはぐな状況から推測できる。
だからこそ、ギルドルールに記載されているギミックこそあれど、実際にクランの【仮保釈】を利用したクランがほとんどないのではないか、と思う。
元々、俺はフォウニーに着いたらテルヒロを旗頭にクランを立ち上げる予定だったので、ここでクランの立ち上げ条件について、俺の知識とズレていたことが発覚したことは喜ばしい誤算だ。一方、立ち上げ条件を二人で満たしてないことは、割とショックだったりする。
逆に、だからこそクラン立ち上げの条件を解消するためなら、ニュウとネモを引き入れることは、俺にとってメリットしかない。……ああ、いや、そうでもない、のか?
ふと、沸き起こった不安感と言うか、疑念のようなものがあったが……まぁいいや。特に理由も思いつかないし。
こうして、会議は二人の対処は俺たちが彼女たちをクランメンバーにして引き入れることで決着した。
言い合いしていたら話が終わって、無罪放免――とは言わずとも、限りなく近しい状態で放逐されることになったので、姉妹は言い渡された対処内容に、ポカンとしているだけだった。
その顔、ウケる。
*--
対処が決まったことで、ニュウとネモは手足の枷を外されることになった。
逃げたらどうする、って?
犯罪フラグが建っているので、この場で逃げ出してもレッドネームになるだけだ。そうなれば、問答無用で他のNPCから襲われても文句が言えない。それなら、クランに入る事でレッドネームを解消した方が良い、と言うのは少なくともネモなら理解できているはずだ。
後は、彼女が姉の手綱を取っていてくれればよい。
とりあえずクランを作るのだから、と改めて顔合わせと自己紹介をすることになった。
既に以来の予定を二日も遅らせた道程のため、今は急いでフォウニーの街へ向かっている途中だ。馬車の中で待機がてら、俺とテルヒロはニュウとネモと顔を突き合わせていた。
ちなみに、この馬車には『新緑の眼』と『タイガーファング』の面々は乗っていいない。プレイヤーのいるパーティが、最大人数に達してしまったことで、馬車の待機の配位がクラン単位になってしまったからだ。相変わらず、変なところでゲームシステムに準拠されてしまう。
正直、面子の半分が【仮釈放】前のレッドネーム予定者なんだが?
「改めて、これからよろしく。俺はテルヒロ。これからクランを立ち上げて、クランリーダーになる予定だ。
そして、こいつはシオ。俺と違ってゲームが上手いし、知識もすごい。俺を支えてくれる友人だ。
ただ、病気を患ってて上手く話すことができないから、話す時は俺を通してくれるとありがたい」
テルヒロは、流れるように自分の自己紹介の後、俺の分も説明してくれた。助かる。
俺は、テルヒロの説明に合わせて目礼であいさつした。
……うっわ。ニュウさん、目、怖!なんで睨んでるんですかねぇ……?
そんな彼女をさておいて、口を開いたのは妹のネモだった。
「今回は、助けてくれてありがとうございました」
そう言って、座ったままだけど、頭を下げた。山賊のアジトでの粗暴な態度とは大違いだ。見た目も山賊然とした毛皮の鎧じゃなくて、ちゃんと皮を鞣したものを使ったレザーアーマーに着替えており、小奇麗になっている手前「誰?」と言いたくなるレベルで違う。
「私は『ネモ』。【メイン】は【斧使】、【サブ】は【騎士】でした。今回、【メイン】が変わるので【斧使】は【サブ】に回しています。
……ほら、お姉ちゃんも」
ネモにせっつかれ、ニュウは俺を睨むのをやめてテルヒロに顔を向けた。うーん、分かりやすく嫌われてるな。何でだ……?
「ええと、ニュウ、です。【メイン】は【剣使】、【サブ】は【盗賊】です。
よろしくおねがいします」
頭は下げているが、あいさつの礼儀と言う印象がぬぐえない。まぁ、助けた相手は彼女に取ってはテルヒロだろうからな。
ネモは、ニュウの態度に眉を顰めるが、一旦気にしないことにしたのか、俺に顔を向けてきた。
「それで、聞きたいことがあるんです。どうやって地球に戻るんですか?」
……はぁ。まぁ、一番気になるのは、そこよね。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
とりあえず戦闘も終わり、説明回を続いてフォウニーの街に到着してフィニッシュ予定です。
締めにはちゃんとイチャついてもらいますので、もうちょっとお楽しみ、お待ち下さい。
……ところで、ニュウのキャラ付けこれでいいのか、我ながら不安です。魅力あるライバルキャラポジションになってくれているのでしょうかね。




