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蜘蛛の糸

 『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン

  ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)

  メシン(盾剣使い・回復役僧侶)

  タイジュ(サポート役僧侶)

  レグリンカ(狩人)


 『タイガーファング』:攻撃特化のクラン

  トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)

  ネブチ(大剣使い)

  アミィ(魔法使い)

  フィンス(魔法使い)

  デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)

  

 その他:

  キンカー(護衛依頼の依頼主)

  ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)

  ネモ(ニュウの妹・山賊の頭・プレイヤー・8歳(外見年齢18歳くらい))

 はい。と言うわけでフォウニーの野営場です。

【ショートカット】システムを使ったファストトラベルを行ったものの、依頼の報告とフォウニー野営場への襲撃の後始末に結局、その日一日を費やすことになった。しかも次の日に出発することはせずに、フォウ姉妹の対処について話し合うことになった。

 現在は、キンカーさんのテント――キャラバンの主であるおかげか、その大きさはまるでモンゴルの『ゲル』のようである――の中である。

 議題はもちろん、ニュウの取り扱いについてだ。


「俺は、ニュウを無罪放免にするのは反対だ。このままだと、ネモ一人を山賊です、と突き出すことになる。そうなると、姉妹であるニュウに今までの被害者の目が集中することになっちまう。

 それならニュウも収監して、ほとぼりが冷めるのを待つべきだ。なにせアジトにいた山賊は、倒しても死体が残らなかったからなぁ……変わりの矛先がないと危険だぜ」

「ふむ……こちらを襲ってきた奴らには、死体が残ったやつらが何人かいたな。その死体の提出じゃ、足りないか?」

「足りないだろうな。

 ネモの話によると、今まで襲ったキャラバンの数は10を下らない。被害にあったキャラバンは、いずれも話題にならない程度ギリギリの被害だが、死亡者が居なかったわけじゃない。

 両手で足りない数を襲った山賊ギルドを捕まえて、生きているのが頭領だけでは、被害者の溜飲は収まらないだろう。そうなれば、その関係者に怒りの矛先は向かうもんだぜ」

 

 そんな感じで、やいのやいのと会議は白熱していた。

 その様子を尻目に、当の議題であるニュウとネモは大人しく捕まって会議の様子を見守るだけだ。いや、ニュウはおとなしくしていない。会議を見ながら首を捻っているネモを不思議そうに見て、こそこそと口を開いた。

 

「どうしたの?カ――ネモ」

 

 再び、思わず本名を口にしようとしてはネモに(にら)まれて、慌ててキャラネームで質問をするニュウ。ネモの注意に懲りていない彼女の様子に、はぁ、と溜息を吐いて、やはりこそこそと回答する。

 

「NPC達の動きがおかしいの。「私が全部悪い」って宣言したから、私がレッドネームになってお姉ちゃんが無罪放免になる。それでここのクエストが終わるはずなの。

 でも、会議みたいなの開いてお姉ちゃんもレッドネームになるような話をしてるし、バグかな、って思って」

「え?でも、私が商人を襲って荷物を奪っていたのは事実だし、なにもおかしくないんじゃない?」

「普通はね。でも、ここがゲームの中だし、ゲームのシステムが反映されるはずなの。そこがおかしいのよ」

 

 ネモの言い分に、ハテナマークを浮かべて首を捻るニュウ。気持ちはわかるぞ、ネモ。俺も、それは不思議に思っているところだからな。

 ちなみに俺がどこにいるかと言うと、彼女たちを見張るために、という理由で呼び出され、何と彼女たちと大型テントの柱を挟んで――ぶっちゃけ真隣にいる。ちなみに俺は、更にワンクッション、テルヒロシールドを隣に置いている。これにより、彼女たちには直接話されないはず、だ。

 俺の想定通り、ニュウ達は目の前で繰り広げられる会議の紛糾(ふんきゅう)に目を奪われ、視線をそらしてはテルヒロを見て、何か話したそうにしては視線を戻す。そんなことを繰り返していた。

 とはいえ、俺もネモと同じく、ラルドさんたちの行動については疑問に思っている。だからこそ、ネモが捕まった時の台詞回し――ニュウの罪を引き受けるという手段だ――には、その機転の速さに舌を巻いたものだ。その手があったか、と。

 

「……なあ、ネモちゃん」

 

 ふと、チラチラと自分に視線が行っていることに気付いたテルヒロが、ネモに話しかけた。

 

「……『ちゃん』は、やめてほしいんだけど。何?」

 

 テルヒロの馴れ馴れしい呼びかけに、ネモが眉に皺をよせながら答えた。そんな彼女の気分はさておいて、テルヒロは一つ、疑問を口にするのだった。

 

「ネモちゃんが山賊まがいのことをしていたのは、お姉さんを助けたいだけだったんじゃないのか?

 でも、そのために自分を犠牲にして、ニュウを一人放り出して、それでいいのかい?」

 

 テルヒロの言葉に、ニュウは驚いて目を瞠った。ネモは、というと顔を伏せて、表情を隠すだけだ。彼女の思惑は、何処に有るのだろう。

 俺はというと、ネモの機転の利きすぎる――8歳にしては、という部分では有るが――弁明をきっかけに、一つ予測を立てた。ひょっとしたら、ニュウを助けるために自分を犠牲にする自白システムを用いたのは、その場限りで思いついたことではなく、前々から万が一の事態に備えていたのかもしれない。と。

 ネモはニュウに、山賊の先兵と言う、場合によってはニュウが死ぬようなことをさせていた。しかし、ニュウのステータスを見る限り、そのアビリティ構成(ビルド)は、ネモ主体で選択されたものだ。到底彼女が思いつかないだろう下地のしっかりしたアビリティのチョイスは、ニュウのソロ活動を見据えた構成になっていたのだ。

 装備は、山賊達の装備していたどんなものよりも上等なもので揃えられ、事故死を警戒している気配が見て取れた。

 山賊行為の活動範囲は、犯行のバレにくい山中の経路を通る獲物を狙わず、ラカーマとフォウニーを結ぶ街道上で、不定期に行われていた。

 何より、ネモは"山賊クラン"を立ち上げていたのだ。フォウニーへたどり着くほど実力のある彼女が、クランまで作って山賊活動をしていた本当の目的は、ニュウをプレイヤーの元に送り届けることだったのではないか?と、俺は推測しているのだ。

 ――と、言うことを昨日の野営の際に、テルヒロに話している。その甲斐あってか、上手く話題を投げかけてくれたようだ。

 実の所、ニュウはともかくネモは戦力として確保したい。何故なら俺にとって、彼女は理のある存在だからだ。

 少なくともある程度ゲームの知識があり、戦闘力があり、その思考回路は未だ理解できないものの、地球に戻る意欲があるようで、それに努力している風に見える。

 問題は8歳――個人的な印象だが、遠慮がない年齢のふとした言葉の刃が怖いところ――であることだ。そういうわけで、俺は直接説得できない、というかしたくないので、テルヒロにはネモの説得を期待したのであった。

 ネモは、無言でテルヒロとニュウの視線を受け止めるのが厳しくなったのか、テルヒロの言葉に驚くそぶりを隠しきれていないものの、がるる、と噛みつくように答えた。

 

「――そ、それがアンタに何の関係があるってんだ」

「同じプレイヤーじゃないか。元の世界に戻るのが目的なら、協力者は多い方が良い。

 君たちはこの世界に来て、そう言った力を貸してくれる人が皆無の状況だったんじゃないか?だから、クランを作って、この世界の住人に手を借りた。

 ……でも、ネモちゃんはそれでは足りないと思ったのかもしれない。だから、自分よりも実力のあるプレイヤーを見つけて、お姉さんを託したかったんじゃないのかと思ってね」

「ネモ、あんた……」

 

 テルヒロの予測に、ニュウが声を震わせながらネモに言葉を投げかけた。自己犠牲の精神で、自分よりも年下の妹が自分を助けようとしていたのだ。

 ちなみに、昨夜までの彼女は「ネモに騙されていた」とショックを隠さない様子だったんだけど。

 

「……そうだよ」

 

 さっきとは一転して、顔を見つめながら話しかけてくるテルヒロのまっすぐな視線に耐え切れなかったのか、ネモが口をとがらせて肯定した。

 うつむいた顔を上げた彼女は涙目で、懇願するように言った。

 

「頼むよ。アンタ達なら、元の世界に戻る目星がついているんだろう?アタシはレッドネームになるし、収監されるだろうからついていけないけど、お姉ちゃんだけでも助けてくれないか?」

「ネモ!そんな……私、貴方を置いていけないわ」

「お姉ちゃんは黙ってて!」

 

 ニュウの無事を懇願するネモに、ニュウが噛みついては()()もなく突き放される。そんな様子に、テルヒロは困ったように眉尻を下げて俺を見てきた。

 ま、この辺りが潮時だよな。ネモは、随分と頑固のようだ。今の状態だから、視野狭窄(しやきょうさく)なのかもしれないけど。

 なんとなく、他人事にも思えなくなってきたのは、俺も(ほだ)されてきているのかな。

 

「うーん……どうする?」

「どうするって言われても、困る。テルヒロはどうしたい?」


 あいまいな内容を尋ねてきたテルヒロに、俺はオウム返しに突っ返す。

 ――いや、言いたいことはわかる。要は、彼女たちの対処についてテルヒロは、彼女たちを助けたいんだろう。


「ああ、いや。俺としては、二人とも牢屋に入れるとかはしたくないんだけど」


 ほら、やっぱり。

 

「そうは言っても、ネモはニュウ至上主義みたいだし、まずはニュウの無罪放免が必須だろ?

 でも、ニュウはネモが罪を被るだの一人にできないだので話にならないから、どちらか一方は無理だな。二人とも牢屋に入らない方法を探すか、二人共牢屋に入れるしかない」

「やっぱり一旦捕まった後、なんとか無事に釈放させるしかないか。その方向で動けるように、ラルドさんを説得しないと、かな」

「まぁまぁ、待て待て」

 

 さてどうするか。と言うまでもなく、実際、俺の中には一つの仮説が組みあがっている。賭けはできるのだ。焦点は、やはりNPC達の態度――システムの介入具合だ。

 テルヒロが、どうしても彼女たちを助けたいと言うなら協力は(やぶさ)かではないんだ。俺は意を決して、テルヒロに指示(アドバイス)を出す。後はテルヒロ次第だ。

 彼は、のそり、と立ち上がると紛糾する会議の方へと口を挟んだ。

 

「ラルドさん、ちょっと話が」

「しかし!……ん?ああ、テルヒロ。どうした?」

「彼女たち、俺が作るクランに身請けできませんかね。保護観察、的な感じで」

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。


冒頭の説明欄の情報、ネモちゃんの部分だけ更新しています。

……テルヒロくんとシオくんの情報はいらないです……よね?

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