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PvP

一部、表現を崩していますが、パロディです。


 登場人物解説:

  ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)

  ネモ(ニュウの妹・プレイヤー・8歳)

 さぁ、戦闘開始だ。初めての本格的な対人戦、かつ団体戦だ。テルヒロには道理も定石も分からないだろうから、すぐに指示を飛ばす。

 

「ネモは後回し!先にニュウと一緒に雑魚山賊の方、片づけて!」

「おう!ネモちゃんはどうする!?」

「ちゃん付けするな!」

 

 テルヒロの言葉に、ネモが怒りの声を被せてくる。まぁ、その体格でちゃん付けはないわなぁ。彼女は、なんとか俺が足止めをしないといけないか、と思っていたら。

 

「わ、私がカナを止める!」

「あっ」

 

 俺の指示にニュウの物も含んでいたつもりだけど、彼女はそんなことも気にせずにネモに突っ込んでいく。うわあ、何してるんだ。

 本来は素早い動きでかく乱するか、隙を見つけての暗殺が主軸の戦法になるだろうアビリティ構成のニュウが、何をトチ狂ったか真正面からネモに飛びかかる。

 

「お姉ちゃんが私と!戦えるわけないでしょ!」

「きゃあっ!」

 

 案の定、ネモの一撃で武器を吹き飛ばされて吹き飛ばれてしまった。ネモの攻撃こそ、手持ちの武器(ダガー)で受けることで回避はできただろうけど、そもそも見た目通りに膂力(りょりょく)が違うので押し切るのは不可能だ。断言する。

 ゲームシステムである以上、数値の差は絶対だ。

 ニュウの構成を見る限り、考えたのがネモであれば、本来は二人で一つのツーマンセルで戦う作戦なのだと思う。恐らく、ネモが(タンク)の役割を担って足止めを、ニュウはその間に回り込んでからの暗殺(アンブッシュ)、もしくは不意打ち(バックスタブ)を狙うようなコンビネーションを狙った予定だったんだろう。

 そういうわけで、ニュウの攻撃はそれ以外の方法だと、軽い。

 それに、何よりネモ自身もプレイヤースキルが高い。ポールアックスのフルスウィング攻撃――おそらく何もアビリティが乗っていない、通常攻撃の強攻撃だろうけど、わざわざ早めに出して、ニュウに威圧していた。結果、ニュウのスキルでも防御できるタイミングになり、ダメージを抑えている。

 更には、ニュウが防御したことで致命傷を避けたものの、十分な威力を持って武器破壊をしたことで、ニュウは吹き飛ばされて(ノックバック)からの怯み(スタン)まで誘発している。これでしばらくは戦闘不能だ。

 初心者相手のPvPに慣れている感じだ。完全に手加減したうえで手玉に取っている。後は、雑魚山賊の攻撃で【捕縛】一丁、というわけだ。やるなぁ。

 そういえば、スタンってどれくらい解除に時間かかるんだろう?今のところ、主観でしか経験ないからわからないな。

 っと、そんなことを言ってる場合じゃない。

 

「テルヒロ!ニュウを守って!ついでに雑魚山賊も倒して!」

「無茶言うなぁ!」

 

 文句は言いつつ、雑魚山賊の攻撃をブロードソードでいなしつつ、慌てて倒れるニュウのカバーに入るテルヒロ。おお、戦えてるじゃないか。流石に護衛戦闘で周りから駄目だしされながら戦ってきただけのことは有る。

 レベルアップやパラメータの強化以上の戦力アップを体感し、向こうはもう大丈夫だと確信した。

 さて……。

 

「アタイの相手はアンタかい?僧侶で戦士とタイマン張るなんて、良い度胸だね」

 

 バカにしたような言いっぷりだが、実際に勝つことが不可能な対戦ではない。

『タンク僧侶』という構成がある。僧侶のアビリティで自己回復しつつ、魔法使いよりも圧倒的に制限の低い防具を揃えることで、高い防御力と耐久力を()って攻撃を耐え凌ぐのだ。そもそも、僧侶は準戦士級の防具を装備できる職業だからね。

 とはいえ、今の俺の構成はもちろん『タンク僧侶』ではない。というか、そもそもが一僧侶にしても、あらゆる部分で中途半端だ。何せ、想定している構成にするには、未だに圧倒的にスキルもレベルも足りない。

 ないない尽くしの僧侶職で物理専門型の戦士とPvP(タイマン戦)。ちょっとした縛りプレイだ。

 俺を油断なく眺めるネモ。見るからにキツ目の顔立ちをしているので、こちらに向けられる目線が厳しい。睨みつけるような目で見られると、体が震えて硬直する。

 実際、スゴイ怖い。

 ふと、俺の様子を見ていたネモは、ニヤリ、と獰猛に笑いかけてきた。

 

「……あン?なんだ、足震えてるじゃないか」

 

 ふっ……自分で気づかないとお思いか?そりゃもう、がっくがくですよ。

 自分で判るくらい膝が震えてる。「<>」だった蟹股(がにまた)の足が、1フレーム毎に「><」と入れ替わるくらいにがっくがくだ。情けないったら。

 ――嫌だなぁ。痛いのは嫌。怖いのは嫌。死ぬのは嫌。嫌われるのは嫌。

 あの斧、痛そう。っていうか、殴られたら死ぬよなぁ。っていうか敵意がすごい目に見えてる。完全に人殺してますわ、あれ。

 そんなビビりまくりの今の俺に何ができるか。

 既に体が言うことを聞いてくれなくて、毅然(きぜん)としていたいのにガタガタ震えてるけど、不思議と逆に、頭の中だけは随分とクリアだ。俺はクール(Kool)だぜ。

 それに周囲の雑魚山賊もテルヒロがニュウを狙ってくれているおかげで、必然、全部テルヒロが受け持ってくれている。

 何故なら、NPCクランヘルパーの思考(ルーチン)はモンスターと同じ。そして、最優先は命令順だ。ネモは、「お姉ちゃんとそいつらをふん捕まえちまいな」と言った。つまり、まずニュウの【捕縛】、その後に俺たちの【捕縛】だ。

 そう、リーダーの命令順にしか処理できないのだ。で、あれば。ニュウを守るテルヒロに矛先が向くのは必然、そうなれば、もはやこの場にイレギュラーはない。

 ゲームシステムがきっちり反映されている事で、万全の作戦が建てられるという幸運。それが俺の切り札になっていた。

 俺は、手持ちの杖に魔力を込めて、戦闘態勢に入る。その様子を見て、ネモは戦斧を肩に担いだ。

 ……来る。

 

「ハッ、お嬢ちゃんは引っ込んでな!」

 

 8歳児の台詞かぁ、それ?!

 ネモは獰猛な笑みで俺に飛びかかってきた。

 うっわ、怖い!

 っていうか早い!瞬間で直進軌道の移動、肩に担いだ戦斧のフルスウィングの構え。【大斧】アビリティによるスキル【スマッシュバッシュ】だ。

 移動と攻撃を同時に行うこのスキルは、早めに覚える割に使い勝手のいい戦士構成の常套手段だ。一撃で仕留めに来たのかな?

 ――いや、違うなぁ。妙に頭がクリアな俺は、まるで時間がゆっくりになっているような感覚になっていた。向かってくるネモの姿を目に捉えて、思考が加速する。これ、フェイント噛ますやつだ。

 期待通り、ネモは俺の直前で急停止し、俺を中心に時計回りに半回転の移動をした。その際に巻き起こる砂煙が、俺の視界を遮る。

 【スマッシュバッシュ】→攻撃前にスキルのキャンセルを狙っての【傭兵】職のアクティブアビリティ【目つぶし】の発動だ。

 【目つぶし】のモーションは本来、足を蹴り上げるなどして土煙を発生させ、相手の視界を遮るアビリティだ。しかし、動きながらの【目つぶし】はそのモーションが変わる。進行方向を迂回するように動いて、対象の周りに砂埃を上げる動きになるのだ。

 これは、PvPにおいて戦士構成がまず仕掛ける初見殺し、『それは残像だ』戦法。モーションが変わった【目つぶし】による背後からの不意打ち戦法だ。対応できなければ、【スマッシュバッシュ】への反応が一手遅れて、背後からの攻撃を無防備で受けてしまう。

 もし、これを受けるのがテルヒロなら、面白いくらいにハマっただろうな。

 ちなみに俺の場合であれば、ガチ戦士構成の一撃貰えばHPは【捕縛】圏内だ。つまり、これで俺がどのくらいのプレイヤーかを確認するつもりなのだろう。

 恐怖に(おのの)く俺は、相手の反応に合わせるような複雑な行動などできない。つまり対策がなければ、棒立ちのままぶっ飛ばされて、ジ・エンドってね。

 というか、手加減も何もない一撃ですねこれは。本当に一撃受けて生き残れるのかすら怪しいレベルだ。今のような状態じゃなければ、【捕縛】システムがちゃんと動くか、検証のため誰かを検体にして確認したいところだった。

 だが、俺の戦術は彼女の戦法の全てを無駄にする。何が来てもいいように、俺が取る行動は一つだけだったからだ。

 ガシャン、と割れる音がした。

 

「うわっ!?なんだ!?」

 

 そんなネモの叫び越え声と共に、ズン、と重いものが大地に沈む音がした。振り返ってみれば、斧を放り出して俺から離れたネモの姿。その目は、若干の涙目だ。

 戦士に立ち向かう僧侶が、無策で立っているわけがない。何かしらの攻撃手段を持っている、とネモは考える。舐めきったふりをしつつ、俺を見る目に油断はなく、忙しなく俺の四肢を見ていた。俺が何を行動しようとしているのかを確認していた。

 つまり、油断を誘いつつも定石に沿った、かつ全力による一撃が、彼女の戦法だったわけだ。それが、【スマッシュバッシュ】で先の先を取り、『それは残像だ』戦法であり、俺の対応の「後の先」を取ろうとしたのだ。

 なんでそんな事がわかるのか、って?これでも、人の目線が向かう先には敏感でね。心眼とか()()()()なんて吹聴(ふいちょう)するつもりはないけれど、ある程度は把握できる性質(たち)になってしまっているのさ。

 しかし、それに対して俺が仕掛けたのはそもそも戦闘をさせないという手段。俺がやったのは、自分の周りにアイテムをばらまいただけである。

 何より、"それ"が一見判別不可能な物体であったことが、視覚的にも実際の効果以上の警戒を呼び起こしたのだろう。壁際までバックステップで逃げるとは思わなかったけど。

 さて、何故、万全の対応策を以って挑んだネモが、俺の対応一つで大きく飛び退って逃げるほどに、そんなに効果的だったのか?

 では、俺の行動プロセスをもう一度見てみよう。

 ――現状の俺の勝利条件は、ネモを【捕縛】することでもなく、まして殺すことでもない。『戦闘できない状態にする』ことだ。

 クラスチェンジもしていない一人プレイ(ソロ)の戦士職が最も注意するべきは、行動不能になる系統の状態(ステータス)異常だ。

 逆に、後衛職が前衛職にタイマンを挑むなら、状態異常を生み出す行動を選ぶのが手っ取り早い。

 それを踏まえて、俺が何をばらまいたのかと言うと。それは、先日たっぷりストックできていた『しっぱいした料理』である。

 

 【しっぱいした料理】(重量 1 / 消費アイテム:単体)

   作成者:ニュウ

   品質 :小

   効果 :ランダムに状態異常を付与。

   説明 :【調理】を持たずに料理を行った結果出来上がった暗黒物質。

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

ユニーク3000超えました!これからも、皆様の評価を励みに物語を作ってまいります。


そういう"タチ"になってしまったシオくんちゃんの秘策炸裂です。まともにガチ戦闘なんてできるわけないんですよね。

そんなわけで、次回決着です。

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