逆襲撃
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
その他:
ニュウ(元盗賊・プレイヤー・15歳)
ネモ(ニュウの妹・プレイヤー・8歳)
のそり、と立ち上がったトネラコさんが、ゆっくりと盗賊のアジトへと向かっていく。絶対笑顔だわ、あの人。
「な、なんだぁ?」
あまりにも悠々と近づいてくるトネラコさんに、見張りの山賊も、襲撃かもしれない、と思わなかったのか。呆気に取られて呆然としている。
というか、そもそも練度が高い山賊ではないようだ。彼も本気で仕事をしている感覚でもなく、見回り当番だからやってる、程度の考えだったんじゃないかな。
だから、間に合わなかった。
「ちょいと邪魔するぜ」
トネラコさんはそう言うと、次の瞬間にはその右腕を振り抜いていた。
「ぶげっ」
次に、その見張り山賊が声を出したのは、吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた時だった。もう一人の見張りは、相棒の変わり果てた姿を見て唖然としている。
そして、恐る恐るトネラコさんを見て、「ひっ」と引きつった声を上げた。
「おいおい、獣人族随一のイケメンを見て、なんて顔してやがる」
それって、ワイルドですね。そもそも、獣人の間の顔の良し悪しなんて色人種には判らんですよ。それが自称かどうかは、テルヒロを通じてタイガーファングの面々に確認することにしよう。
トネラコさんは、残った見張りと面と向かって指をパキポキ鳴らして威嚇している。残った見張りには、洞窟から仲間を呼び出してもらわないといけないからね。
しかし。
「ひぃ~~っっ!!」
「えっ、おい」
想定外だったのは、生き残った見張りが警告の声を上げることなく、甲高い声を上げて明後日の方向に向けて逃げ出してしまったことだった。
これには俺たち一同、全員が唖然とした。トネラコさんも追うこともなく、手を伸ばして固まっている。
――しばらく突っ立って、トネラコさんがこちらを振り向いた。その評定は、直接聞くまでもない。
(……どうする?)
そんなことを言われても。
いや待て。これなら騒ぎに紛れて潜入するも何も、今からでもこっそり入れるじゃないか。いや、別に外で待っている必要もないか。とりあえずトラネコさんを洞窟に突っ込ませるか?
と、考えていたら洞窟の奥から声がした。
「おお~い、交代だ……ぞ……?」
運が悪いというか、都合がいいというのか、洞窟の中から見張りの交代が来てしまった。洞窟から顔をのぞかせた山賊Cと山賊Dは、地面に血まみれで横たわる山賊Aと、その血で右手を濡らしたトネラコさんを見て言葉をなくしていた。
「て、敵襲!冒険者だ!」
しかし、山賊Dはちゃんと仕事をした。慌てた様子ではあったが、きっちり洞窟の中へ声を上げたのだ。
やればできる子、偉いぞ盗賊D。一方山賊Cは、その声を聴いてようやく呆けた状態から我を取り戻して武器を構える。
「遅ぇよ」
瞬間、山賊Aのように宙を舞うことになった山賊C。まだ、トネラコさんと洞窟の入り口には10mほどのあいだがあったはずなのに、驚異的な脚力でその距離を0にして攻撃を仕掛けることに成功したのだ。
恐るべきは、獣人の身体能力。
「うははははは!かかってこい雑魚共ォ!」
「うわぁ、なんだこいつ!」
「野郎!一人かよ!やっちまえ!」
テンションが上ってきたのか、そのまま片手に山賊Dを掴んで高笑いしながらトネラコさんが洞窟に突貫して姿を消す。やがて、洞窟の中からてんやわんやの声がしだした。
どかばきぼこばこぎゃーすかぎゃーすか。
そんな感じだ。いい感じだ。
「よし、今の内に行こう」
俺は、茫然としていたテルヒロとニュウに声をかけた。二人は、俺の呼びかけにハッ、とすると、武器を構えて頷いた。
さぁ、行くぞ。
*--
想定外の事態は続く。
「そんな!いない!?」
ニュウに案内された牢屋には、誰もいなかった。他の牢を見回しても、別の牢に囚人がいるわけでもなく、がらんとしている。
ちなみにここに来るまでに、たまたま見かけた山賊は4人ほど。いずれもテルヒロとニュウから背後からの不意打ちで一撃、爆発四散している。いや、爆発も四散もしていないか。ただ、ポリゴンとなって消えていっただけだ。
同じ『人間』を殺すのに躊躇していた俺とテルヒロだったが、最初にニュウがあっさりと、それはもうあっさりと山賊を殺した。そしてテルヒロも、その死体がモンスターと同じくポリゴンに変わるのを見て、不意打ちに引け目が無くなっていったようだった。強い。
考えてみれば、ニュウはもうこの世界の対人戦を経験してるんだったか。彼女にはこれまでの経験があるのだろうが、俺はそれを見て顔を青くすることしかできなかった。容赦なく暗がりから、山賊の首にダガーを突き刺す姿を見たときは、思わず「ひえっ」と声が漏れるところだったよ。
それはともかく、今まで倒した奴らが女の子を連れて移動していたわけでもない。ついでに、ニュウの案内の道中で、どこかに隠れるような部屋はなかった。
だとしたら、ネモはどこに移動させられたのだろうか。
「シオ、どうする?」
「うーん、可能性があるなら、既に山賊の頭領の所に移動されてるか、別の牢屋に移されたか、かな。
盾にするには早い気もするけど、ここのレベルの山賊で、先に人質を奪い返されるデメリットをちゃんと理解していたとは……」
「そんな!貴方が大丈夫と言うから、話に乗ったのに!」
当てが外れたニュウは、やはり俺に掴みかかろうとしてはテルヒロに遮られている。
――おい、今、胸触ってなかった?冤罪か?そうか……。
「トネラコさんにはしばらく暴れ続けてもらうことにして、俺たちは山賊の頭領の所に行こう。
下手に追い詰めて、盾にされたら形成が逆転しちゃうぜ」
テルヒロの意見に、俺も賛成だ。他にめぼしい場所がないなら、しらみつぶしに探すよりも思い当たるところを探すべきだろう。できれば洞窟のマップでもあればいいんだけど、これまでの部屋に見取り図はなかった。
ついでに言うと、この世界は洞窟やダンジョンに入って、すぐに中の全体マップが見えるわけじゃない。分かるのは踏破した範囲だけだし、分かっている範囲に誰かが侵入するなりしたとしても、それが表示されるわけでもない。
あくまで、他のパーティメンバーがどこに居るかが分かるだけだ。最も、ダンジョンアタックする程度だったら十分過ぎる機能ではあるけども。
さて、山賊の頭領を探すとして、そのまま真正面から行って戦闘になったら、それはそれで面倒だ。それこそ、最悪ネモを盾に取られて、なすすべもなく俺たちも捕まる可能性もあるわけで。
「そうだな……ニュウには隠れてついてきてもらおう。山賊の頭の部屋とやらに行って、妹さんがいなければどこかに隠れているか、別の場所に避難――か、もしくは押し込められているはず。
別の場所にいるようだったら、俺たちが時間稼ぎするから、一旦部屋から離れて探してもらおう」
「なるほど。じゃあもし、ボス部屋で盾にされているようならどうする?」
俺の作戦に、テルヒロが口をはさんでくる。まぁ、山賊頭の部屋にいない可能性もあれば、いる可能性もあるわけだから、その懸念は間違いじゃない。シュレーディンガーのネモだ。
「その時は、俺達で何とか隙を作るしかないな。相手がこっちに集中している内に、ニュウにはこっそり回り込んでもらって助ける方向で。この洞窟に入る時の作戦に近いかな。
戦闘になったら、多分接戦になるからテルヒロには俺を守る方向メインで頼む。俺は、なんとか妨害とか、撹乱して時間を稼ぐ」
今はトネラコさんが別の場所で暴れているから、今度の囮は俺たちになる。
そんな提案をしたニュウは、またもや俺を睨んでくる。えぇ……なんでよ。何が気に食わないのよ。俺が困惑していると、少し開いては口を噤む行動を繰り返して、ニュウは絞り出すように言葉を発した。
「簡単に言って……」
何がいいたいのか判らない……。
困った俺を見かねてか、テルヒロが助け舟を出してくれた。
「ニュウ、頼む。俺たちに任せてくれないか。だから、ニュウもネモさんを助けるために、力を貸してくれ」
作戦の立案をしている俺を憎々しく睨んでくるニュウに、困ったような表情ながらもテルヒロが説得してくれる。いやいや、いくらお前でもそんな言い方で矛は納めないだろ。
「うぅ……テルヒロくんがそう言うなら」
一発で陥落である。流石のイケメン。爆発してくれないか?
そもそも、ニュウの妹を助けるためにここに来てるんですけどねぇ。なんで睨まれなきゃいかんのだ。甚だ遺憾である。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
気がつけばPV10,000を超えていました。これからも、皆様に楽しんでもらえるよう、精進してまいります。
それはともかく、忘れてらっしゃる方もいるかも知れないですが、テルヒロくんは光属性のイケメンです。私のイメージだと、クラ○ドよりはザ○クス寄りです。困ったようでも真剣に見つめられると、ちょっとクラっと来ますね。
私はば影属性なので、そういうパッシブ効果が羨ましいです。もちろんク○ウドでもないです。同じ声でも「ひょっとしてギャグで言っているのか」とか言う作品寄りのデザインの人種です。




