初心者二人
『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン
ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)
メシン(盾剣使い・回復役僧侶)
タイジュ(サポート役僧侶)
レグリンカ(狩人)
『タイガーファング』:攻撃特化のクラン
トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)
ネブチ(大剣使い)
アミィ(魔法使い)
フィンス(魔法使い)
デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)
その他:
キンカー(護衛依頼の依頼主)
この世界は、ゲームが現実化したような世界だ。現実化した影響か、ゲームではありえない柔軟さがある一方で、ゲームシステムが生きていることで融通が利かない部分がある。
その最たるものが、アビリティだ。
この世界では、アビリティがなければ何もできない、と言っていい。どのくらい何もできないかと言えば、ロングソード一つとっても、【長剣】アビリティを持っていなければ、どれだけ素早く、正確に動かしたつもりでも、止まっている的に当てることができないのだ。
それが料理となればなおさらで、たとえ料理をした経験があったとしても、【料理】アビリティを持っていないと、何をどうした所で『しっぱいした料理』ができてしまうのだ。
それが、俺が泣く泣く数少ない余裕分のステータスポイントを使って【料理】アビリティを取った理由の一つでもあった。
以前、テルヒロが料理をしていたことに俺が焦った理由もここにある。あの時は、おそらくNPCのタイジュさんが【料理】アビリティを持っているか、プレイヤーのアビリティ縛りに影響がないからよかったものの。
つまるところ、ニュウの手元にある物体が、彼女が【料理】アビリティを持っていない証左になるのである。
「……あー、そ、それはしょうがない、よ。こっちでやるから、待ってて」
「あっ、はい……すみません」
俺が料理をすることを任せてもらおう、と思って意見してみたが、ニュウはしょんぼり、と顔を落として謝ってきた。
……うう、怒っているわけじゃないんだけど。でも、多分これ、怒ってるように感じられてるようなぁ。ど、どうしたもんか。
「おまたせー。後、ご飯どれくらいでできる?」
その時!俺の背後からかかる明るい声!
うほーっ!困った時にやってくるとか、お前ヒーローかよ!?助かった!イケメン!抱いて!
「ああ、テルヒロか。ごめん。俺、さっき回復した所だから、全然用意できてないんだ。もうちょっと待っててくれ。
後、翻訳を頼む」
「ん?ああ、疲れてたもんな。飯の話は分かったけど……翻訳?」
努めて落ち着いた口調でテルヒロの方を振り向いて訳を話す。
俺の話に首を捻るテルヒロ。しかし、俺の背にしょんぼりしたニュウの姿を見て、納得したように頷いてくれた。助かるぜ、親友。
俺は早速、料理をしながらアビリティの話をニュウに説明した。間にテルヒロを挟んで。
テルヒロは、ゲームに関する内容になると突然ポンコツになるものの、頭が悪いわけではない。
むしろ、良い方だ。
実際、ゲームを始める時に長々とした説明は全く覚えていなかったものの、この世界に来て生活に密着した内容になると、すぐに理解してくれたのだ。
正直、解せぬ。現実世界でゲームを一緒に遊んでいた頃は、話しては頭抱えてた俺の苦労よ。火、水、木の三属性の強弱相関すら覚えてくれなかったんだもんな。しみじみ。
――とはいえ、これがテルヒロの特性みたいなもんだからしょうがないな。
かくかくしかじかまるまるうまうま。
「――そういうわけだから、アビリティを持ってないと下ごしらえの時点でも料理って失敗するんだよ。
アビリティを持ってないと、職業につながるようなことができないから」
「えっ、そうだったのか」「あっ、そうだったんですか!?」
驚きの声が二つ。おい。
「テルヒロ。俺、ナックルとダガーの装備買ってあげた時に話したよな?
それで【格闘術】と【短剣】のアビリティ取らせただろうが」
「あっ」
「お前!あの時理解してなかったのか!?
そういえばさっきの道中も、ブロードソードしか使ってなかったなぁ!?」
衝撃の事態が発覚したことで声を荒げたことで、その声に驚いたトネラコさんまでやってきた。とりあえず、まだご飯ができていないことだけ伝える。
俺は確定的に何も悪くない。
全く……前言撤回だ。やっぱり理解してもらえてなかった。とほほ。
とりあえず、【格闘術】のレベル上げも兼ねて、テルヒロにはトネラコさんとの模擬戦という訓練を組ませてもらった。トネラコさんも、初心者の面倒を見るのは好きな様で、快く受けてくれた。
テルヒロ。落ち込んだ顔しても駄目だ。死活問題になるから、しっかりレベル上げしておいてくれたまえ。
*--
「ご飯できたぞー」
俺はそう声をかけながら、ニュウと一緒に簡易テーブルに皿を並べていった。今日の飯は、回復優先でリーウルフの心臓のソテーだ。
開きにしたリーウルフの心臓は、乾燥するとそのサイズが手のひら一つのサイズまで縮むが、魔法で生み出した水で戻すと300gのステーキくらいのサイズには膨らむ特性がある。
冒険者の常備食料として有能な一品だ。
【リーウルフのハツソテー】(重量 1 / 食べ物)
作成者:シオ
品質 :中
効果 :HP回復(MAX HPの30%)。5時間、HP回復のバフ効果(1分毎にMAX HPの1%)の付与。
説明 :リーウルフの心臓に火を通した料理。味付けは塩と香り葉の汁。
「うめぇうめぇ」
「うまいうまい」
材料のチョイスは、今後に備えて――主に俺の筋肉痛緩和のためだ。私利私欲でメニューを選んで料理にしてみたが、トネラコさんやテルヒロには好評のようだ。むちゃむちゃ、と次々に口に運んでは嬉しそうに食べている。
しかし、俺に見過ごせない部分もあった。
「……二人とも、野菜も食べなよ」
「「ぐっ……」」
【薬草サラダ】(重量 1 / 食べ物)
作成者:ニュウ
品質 :小
効果 :HP回復(MAX HPの5%)。1時間、毒耐性(極小)の付与。
説明 :薬草、毒消し草の類で作られたサラダ。
付け合わせで、ニュウの作ったハーブサラダが添えられているのだ。
料理はアビリティがなければできないが、『しっぱいした料理』を作っている内に【料理】アビリティは生えてくる。それを待ってひたすら使わない材料を下ごしらえしてくれてても良かったのだが、ニュウはアビリティの制約を知るや、すぐに【料理】アビリティを取得したのだった。
……一応、見せてもらったアビリティ構成を見る限り、俺がテルヒロに企んでいるものと同じ雰囲気で、恐らくは件の妹さんが何かを狙っているような構成だったのだけど。勝手にアビリティ取得してよかったんだろうか。
まぁ、テルヒロならともかく他の人のプレイに口出すのはやめておく。後でか今か、面倒な話にしかならないのが目に見えているからだ。
それはともかく、どうやら二人とも野菜は苦手らしい。俺は、栄養が偏るから野菜も食え、と二人に迫った。嫌そうな顔を見せる二人に、ソテーのお代わりを人質にしてみたところ、しぶしぶ言うことを聞いてくれた。
それにしても、そう嫌がられると、なんか俺のものと比較して、ニュウの料理が不味いみたいになってないか?多分二人の反応は、肉か野菜かの好みの違いだけだと思うんだけど。
「大丈夫。サラダ、おいしい」
「あっ、ありがとうございます」
俺が、精いっぱいのフォローをすると、ニュウは恐縮そうに頭を下げてぎこちなく笑った。うーん、こういうの、苦手だ。
でも、言葉を発そうとすると、つい吃ってしまうのは、すごくわかる。
個人的には、そういう所に親近感が湧くので、もう彼女自身にあまり嫌な印象はしていないのだ。彼女は、どうもそういう所が恥ずかしそうにはしているのだけど。
ちなみに実際、サラダは美味しかった。俺は草食系なのです。
ついでに『しっぱいした料理』はニュウとかテルヒロに食べさせたりはしてないよ?俺が監督責任をもって、ちゃんと回収した。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
「シオくん、今、君は女の子って忘れてない?」っていうくらダダ漏れの何かがありますねぇ……。
私もゲームでよくポンコツ扱いされます。「右」って言ってるのに左に行くんですよね。逆もまたしかり。先導してるときとかよくやっては怒られます。本当にすまん。
でも、これゲームの中だけじゃなくて、現実でもなんですよ。ふふふ……。
車の免許は諦めました。怖い。




