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満天と月の下で

 野営地に泊まっているからと言って安全ではない。交代制で火の番を務める必要がある。俺とテルヒロ、デネブさんとアミィさんのコンビで交代制の見張りとなった。最初は男女で別れる予定だったが、俺がアミィさんと同じテントか火の番で二人きりになるのを嫌がったせいだ。

 アミィさんは残念そうにしていたが、俺の人見知りについては出発の時にテルヒロが説明していてくれていたらしく、あっさりと引き下がってくれた。

 ありがとう、テルヒロ。

 青少年として、たとえアマゾネスとはいえ、正直言って女性と二人きりでテントは厳しい。例え、手を出そうにも棒がないとしてもだ。

 それはともかく、俺たちは前半・後半に分かれた番の内、後半を受け持つことになった。

 そもそも、キャンプも行ったことのない俺にはテントで寝るという行為は、非常に敷居が高く中々眠りに着けなかった。何度もステータスを開いては、早く寝ないといけない……と目を閉じていた。しかし、眠りにつくことはできずに、結局、(ろく)に寝ることもできずに交代の時間になってしまった。

 はぁ。これはつらいかもわからんね。

 ため息を一つ吐いても、俺が寝られなかったのは俺が悪いだけだ。アミィさんが仕事をしてくれていることに変わりはないわけで、ちゃんと交代しよう。

 支度(したく)をしてテントを出てみると、ちょうどテルヒロもテントから出てきたところだった。

 

「なぁ、寝れた?」

「ああ。路地裏より全然寝心地良かった」

 

 強い。

 

「っていうか、その自虐はやめろ。俺に効く」

「あー……すまん」

 

 なんだかんだで間に合いはしたものの、あの時のボロボロの照裕の姿は、俺に取っちゃ軽いトラウマみたいなもんだ。――間に合わなかったら、と思うと今でもぞっとする。

 そんな俺の感情に気付いたか、テルヒロは申し訳なさそうに眉を下げて謝ってきた。ブラックジョークが過ぎた、と思ってくれたのだろうか。

 二人連れだって、デネブさん達のいるたき火へと向かう。二人はマグカップに湯気の立った白湯(さゆ)を煎れて談笑していたようだった。

 そんな二人に、テルヒロが声をかける。

 

「お疲れ様です。交代です」

「お、やっとか。じゃあ、後は頼むぜ」

 

 簡単な言葉一つで、俺たちは火の番に付いた。

 俺たちは、さっきまでデネブさんたちが腰かけていた丸太に各々座った。

 

「うおー、すげぇキレイだな」

「ん?」

「空だよ、空」

 

 暇だなぁ、眠いなぁ、とボーっとしていると、突然テルヒロが感嘆の声を上げた。唐突に何を言い出したか、と思って顔を上げれば、奴の顔は上を向いていた。

 同じく視線を上げてみると。

 

「……?」

「月だよ、月」

「……ああ」

 

 何の話をしているのかと思ったが、視界のほぼ真正面に陣取る大きな月を指差すテルヒロの姿に納得がいった。地球の夜空ではありえない、その三連月とそのサイズと。

 

「こんなの、俺初めて見たぜ」

「そういや、テルヒロは世界設定なんて見ないよな」

「んん……?これ、普通なのか?」

「そういう世界だからな。テルヒロは、ラカーマだとすぐ寝ちまってたから余計に見ることなかったか」

「んー……でも、ラカーマにいたときよりも月が明るい気がするぜ」


 納得行かないように首をひねるテルヒロ。何がそんなに気になっているのか。

 ……そういえば、話題にしていないが路地裏ぐらしの頃だったら月くらい見ているか。じゃあ、今更何にそんなに感動してるんだ?

 俺に説明をしようとあわあわしていたテルヒロだったが、諦めたか頬を掻きながら再び夜空を見上げた。


「都会の光がない所では、星の光で明るいってのはマジだったんだな、って思ってさ」

「……なんだそれ?」

 

 テルヒロが嬉しそうに話すには、都会では電気の明るさが星の光より明るいので、空を見上げても星が見えることが稀なのだとか。確かにそんな話を聞いたことがある。

 ……今更、そんな話を思い出して、夜空の月に思いを()せるなんてどういうつもりだろうか。そこまで考えてふと気づいた。

 こいつの方が先にこの世界に来ていただろうに、その生活の中では空を見上げる余裕もなかったんだろう。

 かく言う俺は、今でもいっぱいいっぱいだ。難しくても人と交流しないといけなくて、テルヒロを助けないといけなくて。

 どうすればいいのか、悩んでは頼りにするのは一時期離れていたゲームの知識だけだ。

 空を見る、なんて思いもつかなかった。ただ、火が消えないように気を付けて、夜襲がないか気を配ることだけを考えていた。

 

「――テルヒロは大物だな。こんな時に、夜空を見る余裕があるなんて」


 思わず悪態じみた言葉が口を突いてしまった。寝不足もあるのか、そんな非難することを言うつもりもなかったのに。

 言ってしまった後に自己嫌悪に陥っている俺に、奴は。

 

「んー。シオがいるからな。安心してるのは間違いないな」

 

 そんなことを言うので、俺がまるで子供のような未熟さを持っていることが恥ずかしくて、ついでに何だか照れくさくなってしまった。

 

「……ばーか。足元(すく)われても、助けるのにも限界あるぞ」

「おう、気を付ける。でも、頼むわ」

 

 俺の精いっぱいの反論も、軽く流せるこいつはすごいと思う。ついでに、俺の失言じみた言葉に対しての、このリア充全開のフォローに嫉妬(しっと)せざるを得ない。

 俺は、気を紛らわせるように、警戒に意識を戻した。モンスターの夜襲に備えるために、虚空に指を振って定期的に発動していた【エネミーサーチ】を、改めて発動する。

 【エネミーサーチ】は【気配察知】と【魔力操作】のアビリティを覚えることで発動できるようになる魔法だ。一定範囲の動いている物をステータスから開いたMAPに表示する。効果時間は30秒、リキャストは1分。

 発動に必要なアビリティにはそれぞれレベルが設定されているのも大きい。アビリティを使用することで発生するアビリティへの経験値の1割が、キャラクターレベルの経験値に加算されるので、【エネミーサーチ】を使うことで、でキャラクターレベルを上げることもできるのだ。

 そのため、俺はリキャストができた端からアビリティを発動させていた。これがMP制のゲームだったら、翌日もあるのにこんな贅沢な魔法の使い方はできなかった。

 そもそもアビリティを使い続ける行為は、システム上必要な行為でもある。

 キャラクターのレベル上限(キャップ)は、自分の覚えているアビリティの内、レベルが存在するもの、かつ一番レベルが低いものを参照にする。つまり持っているアビリティの一番低いレベル +5点が、キャラクターレベルのレベルキャップになる。

 つまり覚えただけではなく、覚えたアビリティを使ってアビリティレベル上げをしないままだと、他のアビリティのレベルがどれだけ上がっても、キャラクターレベルは6以上にはならないのだ。

 更にもう一つ条件があり、レベルの最大値は持っているアビリティレベルの合計に等しい。単一のレベルアビリティに視点を絞り、その他をレベルのないアビリティを揃えると、それはそれでレベルキャップが外れないのだ。

 つまるところ、キャラクターレベルを上げてステータスポイントを稼ごうとするために、持っているアビリティのレベルは万遍(まんべん)なく上げなくてはいけないわけだ。

 ちなみに、レベルの存在するパッシブアビリティは、発動中(ON)の間に熟練度が溜まっていく。つまりレベルアップには必ず一定の時間が必要な上に、当然レベルが上っていけば必要経験値も多くなる。

 一方 アクティブアビリティは、アビリティの使用、あるいは対象のアビリティが条件となって覚えるアビリティの使用によって熟練度が溜まる。単位時間で言えば、一つのアビリティのレベルを上げるにはアクティブアビリティの方が早い。その代わり、使わないとレベルが上がらないので、レベルキャップに引っかかりやすいのが難点だ。

 つまり、パッシブアビリティはアクティブアビリティに比べればレベルアップの効率が悪い。半面、時間が経てば勝手に上がるので、リキャストタイムを考えなくていいし、持っているだけで時間さえ経てば勝手にレベルが上っていくメリットがあるのだ。

 これが、俺が隙あらばレベル上げをしている理由だ。

 【料理】は【錬金】に影響するので、回復ポーションを作るだけでもレベルが上がるのが助かるところだ。とはいえ、俺は器用貧乏系のアビリティ構成(ビルド)を予定しているので、突出したレベルのアビリティを、育て切れていないアビリティのレベルが引っ張ることになるだろう。

 ……その内、テルヒロにレベルで追いつけなくなるかもしれない。

 後で大きく足を引っ張らないように、今の内から努力を欠かさないようにするのが、俺のやるべきことだ。

 そういうわけで、【エネミーサーチ】を定期的に発動していたのだが、そこにふと引っかかる反応があった。俺は、すぐにテルヒロに声をかけた。

 

「テルヒロ……テルヒロ?」

「――……zzz」

 

 こいつ寝てやがる。

 イラッとした。おい、俺、結局寝てないんだぞ。っていうか見張りだろうが俺たち!?

 腹が立ったので、奴のスネに蹴りを入れて、文字通り叩き起こす。

 

「痛って!?何だ!?」

「寝てたからだ、バカ。それより、何かいるぞ」

 

 抗議の目を向けていたテルヒロだったが、俺の言葉にスッ、と表情を変えて腰に携えた剣の柄に、手を添えた。

 

「どこだ?」

「俺からたき火を見て、11時方向。多分、人だ。

 でも、動きがおかしい。こちらを(うかが)っているというより」

 

 ステータスからMAPを開くと、ふらふらとした動きだが、しっかりとこちらに向かっている光点。やがて、視界に映ったそれは、俺たちを見て声を上げた。

 

「助けて!」

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

ユニーク2000超えました。たくさんの方々に見ていただいて嬉しいです。


それはそうとあれですね、シオくん気づかないんですね。


 月 が 綺 麗 で す ね。


多分、テルヒロも無意識ですが。まだ友達の距離です。


2020/05/10 追記

感想にて、以下の条件による「レベル上限の条件が矛盾してないか?」とのご指摘があったのですが、レベルシステムどころかキャラメイクもかなりの部分を端折ってしまっているので、説明がすごく長くなってしまいました。

本編では、なるべくテンポを優先して詳しいシステムは可能な限り漏れ出る設定厨の気質を抑え込み書いております。そのため、読み取りづらい、もしくはわかりにくい、そもそも書いてない設定があるのでは?という部分が今後も差し込まれる状況が考えられます。

そこで、ツッコミの会った部分や、関連する本編で語られないシステムについては、都度、章終わりに閑話の形で追加します。今回は、少なくとも第二章のおわりまでには、なんとか。

申し訳ありません、わかりにくいシステムで。


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[良い点] 無意識告白だっと!?   月が綺麗ですね
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