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野営一日目

一気にキャラクターが増えたので補足をば……。

 『新緑の眼』:主に初心者のフォローをしているクラン

  ラルド(盾斧使い・クランリーダー・一号車リーダー)

  メシン(盾剣使い・回復役僧侶)

  タイジュ(サポート役僧侶)

  レグリンカ(狩人)


 『タイガーファング』:攻撃特化のクラン

  トネラコ(格闘家・リーダー・二号車リーダー)

  ネブチ(大剣使い)

  アミィ(魔法使い)

  フィンス(魔法使い)

  デネブ(盾斧使い・三号車リーダー)

 その他:

  キンカー(護衛依頼の依頼主)

 道中、特に問題もなく一日目の道程(どうてい)を完了した。

 町から街の間には、前もって設定された野営地が存在する。今日は、ラカーマ第一野営地にキャンプを張ることになる。

 明日の予定では、明日の朝早くにここを出てフォウニー第一野営地まで移動することになる。そして、その次の日にフォウニーの街に到着する予定だ。

 さて、テントを張るにも力が足りない上に、キャンプ一つやったことがない俺は完全に足手まといだった。と、いうことでテントの組み立てはテルヒロ達に任せて、俺は食事の準備をすることにした。適材適所と言うやつだな。

 キャンプこそやったことはないが、幸い自炊は経験がある。あれは、家族旅行を両親にプレゼントした時のことだ。

 あの時は、2泊3日の温泉旅行だった。あの頃はまだ仕事をしていて、初任給でたまたま手が届くプランがあったから奮発したものだ。そして――。

 いや、この話はいい。余計なことまで思い出す。

 それはともかく、俺はアビリティ【料理】も取得したことで、システム的なサポートもバッチリだ。道中、時間もあったので【料理】アビリティを取得するスキルブック『花嫁修業』を読んでたこともあったし、アビリティを覚える時間は十分あったのだ。

 それに今回の依頼では、最初から野営が必要であることも前もってわかっていたので、食材も買い込んでいる。それにしてもこういう時、他のゲームと違ってインベントリの機能に、どこでもアイテムの取り出しができないのは、何とも歯がゆい。

 そういえば、フォウニーの街までいけば、クラン開設担当のギルド職員がいる。あそこまでいけば『アカウント倉庫』の操作もできるようになるはずだ。もし、1st(ファースト)キャラクターのアイテムが手に入れば、大幅な戦力アップは間違いない。

 何より、『アイテムボックス』の登録ができる。あれは、どこからでも『アカウント倉庫』のアイテムを取り出せるようになるアイテムだ。

 ちなみに、課金アイテム。また、インベントリと違って容量に制限もある。拡張には、追加の課金が必要なシステムだ。

 あざといな。さすが運営あざとい。

 ……問題は、この世界に『アカウント』という仕様が存在するか、だ。

 俺は、この『シオ』というキャラクターでログインしている。そして、今の俺――俺たちはログアウトができない。つまり、他の存在になることなんてできないのだ。

 こんな現実で、ガワ(アバター)を別キャラクターに切り替えるような『アカウント』の存在は許されるのだろうか?

 ……一人で料理していると、取り留めない不安と妄想が広がってしまった。今は料理に集中しよう。

 さて、今作っているのは『ウリボーアの肉と根菜のシチュー』だ。

 シチューと言いつつ、ルウ的なものは使っていない。実は、ゲーム内の【料理】アビリティのサポートを元に作成しているので、どうしてこれができるのかは実はさっぱりわかっていない。

 ……なんで『ウリボーアの肉塊(にくかい)』と『(だいだい)牛蒡(ごぼう)』、『青甘藷(あおかんしょ)』を鍋にぶち込むだけでシチューが出来上がるんでしょうねぇ。

 

「お、美味そうな匂い!シオちゃんが作ってくれたの!?」

 

 テントの設立が終わったのだろう。デネブさんが気軽に話しかけながら近づいてきた。


「あっ、はい……お口、合うか、わ、わからない、です、けど」

「大丈夫大丈夫!女の子が作ってくれたってだけで絶対美味いから!」

「ひぃ」

 

 グイグイ話しかけてくる髭面のおっさん。デネブさんは、綺麗に切りそろえられているものの、鬣のように顔の周りを毛で覆っている見た目通り、ライオン系の獣人族で、顔は40代白人系のおっさんだ。耳は顔の側面じゃなくて頭の上に鬣をかき分けて生えている。にこやかな笑みこそ浮かべているが、そのたくましい体格で近づいてこられるのは、正直圧迫感がすごい。

 そういうわけで、俺は言葉は固く、笑われれば思わず引きつった声が出てしまったのだ。

 

「こォら悪オヤジィ!シオちゃんをいじめるなァ!」

「ごぇ!?」

 

 デネブさんの後頭部にボコ、というか、ボッ、というか、そんなと音を立てて拳を叩きつけたのは、同じ馬車のアミィさんだ。金髪でおさげの彼女は、魔法使いにあるまじき体格の持ち主だ。ぶっちゃけデネブさんとあまり体格が変わらないアマゾネス体型である。一応、これでも俺と同じ色人種らしい。本当か?

 母国語が違うのか、話している言葉こそ理解できるものの、語尾が伸びる癖があるように聞こえる。

 そんな彼女なので、デネブさんを殴りつけても逆に拳を痛めることはなく、デネブさんが頭を押さえて蹲る程度の破壊力を発揮できるのだ。

 

「シオ、大丈夫か?」

「あ、はは。大丈夫。ビックリしただけ」

 

 後から心配そうにやってきて、声をかけてくれるテルヒロ。あー、びっくりした。緊張した。

 

「お、俺は怖がらせてねぇよ!?」

「お前みたいなガタイで近づけばァ、普通の女の子は怖いんだよォ!この前ェ、それで依頼主の娘さん泣かしただろォがァ!」

「それはお前が怒鳴った声が()()()だったろ!?」

 

 目の前の夫婦漫才をさておいて、出来上がったシチューをよそって各人に振り分ける。出来は、満足のいくものだった。シチューの鍋を【鑑定】で確認するとこんな感じで情報が提示された。

 

 【ウリボーア・シチュー】(重量 5 / 食べ物)

   作成者:シオ

   品質 :中

   効果 :HP回復(MAX HPの45%)。5回まで使用可能。

   説明 :ウリボーアの肉塊を柔らかく煮込んだシチュー。青甘藷を入れたことでとろみが際立っている。

 

 御者さんを含めて5人なので5人前の分量で作ってみたら、ちゃんと考慮されたものがまとまって出来上がってくれた。危うく一人前を5回に分けて作らないといけないかと思っていたので、ちょっとホッとした。

 器とスプーンは木製だ。これと調理用具は、野営道具の中にまとめて入っていた。全員分ついで、焚き火を囲んで夕食の始まりだ。

 

「いただきます」

 

 俺とテルヒロは、そう言ってスプーンを手にとった。スプーンで一口掬って、スープだけをまずは飲んでみた。

 ……うむ、なかなかの出来。

 味付けは塩も入れずに野菜の甘みと肉の旨味だけしかないはずだが、橙牛蒡の説明文にしょっぱい、という文字があったおかげか、塩味が仄かに青甘藷の甘みを強める感じになっているようだ。

 味噌があれば豚汁になっていたかな?牛蒡特有の土臭さとかはなく、どちらかと言うとスイートキャロットのような甘みの効いたスープに仕上がっている。

 具材に手を出す。ザンバラに一口大で切った豚肉は、程よくホロホロ崩れる程度に柔らかくなっており、噛むと中からじゅわり、とスープが染みだしてくる。肉の旨味と混ざって、スープだけの時とは違う、後を引く美味さだ。

 野菜。青甘藷の中身はすっかり溶けてしまい、浮いているのは皮の近くだけになってしまったが、これがまた意外な触感。焼き芋の皮のようなパリパリサクサクした触感がたまらない快感だ。細かくなったらスープに溶けて、一際ホッとする甘みになって舌を楽しませてくれる。

 異世界の料理、すげぇな。

 他の人はどうしているかと思って顔を上げると。

 ……え、なんか皆、上の空で器見てるんだけど。ひょっとして、口に合わなかった?

 周りに評価を聞くのは怖いので、隣のテルヒロに聞こう。

 

「なぁ……ひょっとして、マズかった?」

「……うぇ!?い、いやう「美味い(ィ)!!」ま……い」

 

 テルヒロは、俺が話しかけたことで呆けていた表情から、驚いてこちらに顔をやった。その口から評価が出る前に、デネブさんから割り込むように大声で反応があった。

 え?美味いの?それならいいんだけど。

 

「なんだこれ!美味い!こんな野営飯(やえいめし)食ったの初めてだ!」

「本当ゥ!ビックリしちゃったァ。どんな調味料を使ったのかしらァ?」

 

 一度口に出すと、金縛りから解けたように無心に(むさぼ)るデネブさん。それ、具材噛んでますか?なんか丸呑みしてません?

 アミィさんは一口ずつ口に含んでは、ほっこりとした笑顔を浮かべている。

 

「ああ、これ、美味いよ。こんな特技あったのな」

 

 そう言って、柔らかな笑みを浮かべるテルヒロ。手放しで褒めすぎだろ。照れるわ。

 

「え?テルヒロも初めて食べるのか?」

「ええ。ラカーマの街で合流して一週間も経ってないくらいですし、その前は冒険者でもなかったので。

 こうやって料理作ってもらったのは初めてですね」


 テルヒロの感想に、デネブさんが驚いた表情を浮かべた。

 あー、そうだな。自炊していた時は照裕が家に来ることもなかったし、これが初めて食べる料理になるのか。まぁ、ゲーム機能使ったチートみたいなもんだけどなぁ。

 そんな事を関上げてスープを口に運んでいたら、アミィさんがとんでもない単語を吐いた。

 

「馬車の中でも料理の本読んでたからァ、頑張って作ったんでしょォ?いいお嫁さんになれるわよォ」

「ぶは!」

 

 お、お嫁さん!?

 アミィさんの不意打ちに、思わず気管にスープが入ってむせてしまった。

 

「げほっ、げほっ」

「うわああ、大丈夫か?」

 

 思いっきり噴出したので、テルヒロが心配そうに背をさすってくれた。

 

「ちょっと、アミィさん。俺たちそういうんじゃないですから」

「あははッハ、ごめんなさ~いィ」

 

 テルヒロが抗議の目でアミィさんに文句を言うも、彼女は悪びれもせずに笑顔で謝ると、楽しそうにシチューを食べ進めた。

 畜生。明日は何かドッキリでも仕掛けてやろうか。

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

7000PV達成しました。これも、皆様のおかげでございます。これからも励んでまいります。


シオくんと彼以外で「ゲーム世界に居る」「現実世界に居る」という価値観の相違があります。そういうわけなので、シオくんは馬車の中で読んでいた本で、周りがどう思っているかという反応に気づいていません。

シオくんェ……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分から外堀を埋めていくスタイル。 胃袋から掴むのは王道ですね。 [一言] タグにラブコメとか恋愛(将来的な予定があればイチャイチャとかハッピーエンドなども)があっても良いのでは? と思い…
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