装備の強化
この作品の構想について、活動報告とあらすじに追記があります。
今後とも、この作品をよろしくお願いいたします。
装備の更新に、ギルド隣の鍛冶屋へ向かう。ギルド印の品質認定された武具を売っているらしい。ここなら下手なものは出ないだろう。ロックリーチとの戦闘で、武器も防具もボロボロだからな。
金ならあるぞ!
「らっしゃい」
「ひぃ」
店に入ってすぐ、ヌッ、と奥から出てきたのは、身長2mほどのトロール――ちょっとたるんだ体格の巨人族――だった。鉄火場トロールという種族だったはずだ。
ギルドの受付が小柄のサイクロプス種のおばちゃんだったことにも関係しているが、この世界ではヒト型の種族は、ほぼ平等の地位にいる。むしろ、地球人と同じような種族は『色人種』という名前で人型の種族の一つだ。この世界は地球のような、ホモサピエンス的な人がベースの世界観ではないのだ。
そんなこともあり、趣味が高じた今の俺の身長は、色人種でも小柄な、せいぜい150cmくらい。暗がりから出てくる強面の巨人種であるトロールは、非常に心臓に悪かった。
思わずテルヒロシールドを張ってしまうのも、吝かではない。
「……すまねぇな、嬢ちゃん。ビビらせちまったか」
そんな俺の様子を見て、困ったように後頭部を掻いて頭を下げてくる鉄火場トロールのおっちゃん。まさかのガチ謝りしてきた。
ごめんね店主。ギルドの隣の武具屋だったから、もうちょっと荒っぽい人だと思ってたのだ。
「い、いや。すみません。勝手に驚いただけですので、はい」
そう、真摯に謝られるとこちらも謝らざるを得ない。テルヒロと一緒にペコペコと頭を下げる。
とりあえず、お互いにペコペコ謝ってばかりで話が進まなくなったので、こちらの目的を伝えよう。
「ええと、そう!武器!武器を見せてもらいたくて!剣なんですけど!」
テルヒロの話を聞くと、店主のおっちゃんは顔を歪めて――これにっこり笑ってるのか――いろいろと話を振ってきた。
「おお、なんだ冒険者だったのか。どんな武器が欲しいんだい?」
こうして俺たちは、トロールのおっちゃんの説明を受けながら、色々と新調する武器を吟味することになった。
テルヒロは、昨日から振るい続けたおかげもあって、すっかり慣れてきた幅広剣種で武器を新調。流石に、昨日の山登りの前に買ってあげていたものよりも高級なだけあって上物だ。
ちなみに主な強化点は、用途を聞いたおっちゃんのおすすめで耐久度優先の性能で選んでいる。
これから別の町に向かうなら、何度か戦闘をこなすことになる。自分でメンテナンスする方法もトロールのおっちゃんに教わっていたが、だからといって下手な武器だと途中で武器がダメになる可能性があるのだとか。
プロの言うおすすめに外れはないだろう。多分。
その反面、重量が増えてしまっているが、逆におかげで攻撃力も微増していたはずだ。それに、次の街近辺に向かうなら、念のため火力を上げておくに越したことはない。初心者を脱したプレイヤーの目的地なので、当然、出現するモンスターの強さも上がっているのだから。
更に、サブウェポンとしてメリケンサックと投げナイフをいくつか。メインウェポンの重さが増えた分、攻撃速度が下がってしまったからだ。素早い敵にも対応できないといけない場面も考えられる。
総装備重量が重くなったと言っても、これくらいであればフォローできる範囲だろう。
俺は、というと。武器は変更できない。なにせ、デフォルトかつメインウェポンの装備が"辞書"だ。ここでは新調できないので、片手にバックラーを身につけることにした。
理由としては、主に防御力を上げるためだ。昨日の一件以来、防御を主体にすることを心がけるようになっちゃったな。
そういえば、データ的な攻撃力の上昇ってどのくらい恩恵があるんだろうか?どうにか確認できないか。ちらり、と様子を見ると、テルヒロはメンテナンス用の小物を選んでいた。……うーん、真剣な顔してる。部活動で靴を選んでいたときみたいだ。
声をかけるにも憚られるな。……ここは頑張って俺が聞いてみることにしよう。
「あ、あの」
「……ん?なんだい?嬢ちゃん」
おっちゃんは、最初の反省からか、屈んで目線を合わせてくれた。同じ目線ではあるが、見下されないだけでも圧迫感はないんだな。
このおっちゃん、いい人だ。
「えっと、試し切りってできますか」
「ああ、裏手にそれ用の場所があるよ。案内しよう」
……ふ、ふぅ。なんだ。簡単じゃないか。トロールのおっちゃんが背を向けたところで、俺は安堵の息を、人知れず吐き出した。
トロールのおっちゃんに連れられて、テルヒロと二人連れだってたどり着いたのは、まさに訓練場、と言う光景だ。
小学校の運動場よりは狭いか?それくらいの広さに、入り口から左手に、矢の的が壁に沿って並んでいる。右手側には地面に垂直に立った棒に藁が巻かれている。
ああ、試し切り場ってこれだったんだ。……ここ知ってるわ。
的にアビリティぶつけて、アビリティの習熟度を上げられる施設だ。そういった、『訓練場』と言う施設が街のどこにでもある。
ただ、俺はラカーマの街は余り滞在してなかったから、この街だけ訓練場がないと思っていた。武具屋の中にあったのか。
早速試し切りに向かうテルヒロを尻目に、思い出したことをトロールのおっちゃんに伝える。もう、慣れっこだぜ。ちょっと心臓バクバクいってるけど。
「そうだ。これ、手甲に加工できる?」
俺が取り出したのはロックワームの甲殻を6つ。ロックワームの重装小手を作ってもらう腹積もりだ。しかも、通常ロックワームの3つで作る装備を、どーんと倍の6個を使って上質級の装備にしてもらいたかった。のだが。
「ふむ。品質は問題ないな。"ロックワームの小手"を作成するなら、手数料は一つ600 Gだ。この量なら二つ作れるぞ」
「あ、そうじゃなくて。これで一つをお願いしたいんです」
「んん……?装甲を二重に張り付けるのか?できなくはないが、重くなるし、使い勝手は悪くなると思うぞ」
店主のおっちゃんは、俺の説明に要領を得ないようだった。俺の説明や依頼が悪いのか、と思っていたが、どうも『重装小手』のカテゴリを知らないおようだ。
そこで、俺はハッ、と気づいた。
……ひょっとしてNPCは上級装備が作れない?おっちゃんの熟練度不足か。いや、確かに店売りに『重装』カテゴリが並んでたことあったか?プレイヤー作成オンリー装備のカテゴリだったのか?
だとすると、さて、こいつは参った。今の所、パーティメンバーはテルヒロしかいないから、前衛として十分にガチガチのガチ装備でフォウニーの街に行きたかったんだけど。
……しょうがない。ここは諦めよう。フォウニーの街の図書館で【鍛冶】のアビリティを覚えられたはずだ。予定ではもうちょっと遅かったが、そこで早々にアビリティを覚えて、装備の新調をするとしよう。
店主のおっちゃんには、改めて甲殻を3つ渡し、テルヒロ用の手甲を作ってもらうことにした。その間に、武器の習熟度を上げておこう。
俺は、的に武器を振るうテルヒロの方に近づいた。
「テルヒロ、調子はどう?」
「いいぜ。手ごたえが昨日よりしっくり来てる感じだ。
……ところで、切っても切っても人形が生えてくるんだけど。これどうなってるんだ?」
いろいろな振り方で的を叩き壊すテルヒロ。威力と言い、取り回しといい、満足のいく武器のようだ。
ちなみに、的のHPは1。一撃で壊れるが、キャラクターのレベルアップのための経験値は入らない。何度も復活するのはゲーム的な仕様だろう。多分。
「気にしなくていいよ。それより、ちょっと試したいことあるから手伝って」
「いいぜ。どうすればいい?」
「合図をしたら、普通に武器を振ってみて」
「……?まぁ、いいけど」
何をするのか明確に答えてないので首を捻るものの、素直にテルヒロは的に向き直った。
俺が今から試すのは、強化効果のある魔法だ。サポートに徹する俺のジョブは、アクティブアビリティの中に仲間の基礎ステータスを上げる効果があるものもある。
レベルアップの時の懸念点だった、基礎パラメータが上がった時の動きを見て見たかったのだ。問題ないようなら、基礎パラメータにステータスポイントを振るのもやぶさかではない。
【付与】と【補助魔法】のアビリティで覚えるスキルを発動する。バフ対象は……攻撃力を見るし、【筋力】でいいか
「[STRアップ]……いいよ!」
「うぉ……よし!おりゃあ!」
俺が短杖から放った魔法は、白い発光体となってテルヒロに当たった。突如、体が発光したことに驚いた様子だったが、俺が合図を出したことでその手の剣を的に振るった。
――結果、頭から的にぶつかった。
テルヒロの奇行に、ちょうど奥から出てきたトロールのおっちゃんが目を丸くしている。驚かせちゃったな。正直、すまんかった。 その時、俺も唖然としてたけど。
その後、バフ効果が付いたことで感覚が狂うことも分かったが……それにしても、ひどい。バフによる上昇値は、術者がコントロールできるのだが、念のため最小にしてバフを掛けたのにも関わらず、たとえ1点でも補正が入るだけでも動きがガタガタになる。
テルヒロに感触を聞いてみたが、バフが適用された途端に思ったように力を制御することができず、感覚としては、何をするにも想像以上に力んでしまっている感じらしい。
試しに自分にもかけてみたが、実際とても動きづらくなっていた。上昇したのが筋力だと、なんというか、ただ足を踏み出すだけでもストンプでもしているかのような力強さになってしまうのだ。他のパラメータも、とにかく1点でも上げると体の感覚が変わってしまい、非常に気持ち悪い。
ゲーム画面を見ているだけだと、そもそもキャラクターの動きは自分の体を動かすわけでもなく、決められたアクションをするだけだったから気にしていなかったが、現実に強化されて動くことが、こうもやりづらくなるのか。なんとも使いづらい魔法だ。
危うく俺の存在意義がなくなるところだったが、試しにやってみた"装備に対する"付与はうまくいった。ブロードソードに[ATKアップ]を付与することで、明らかに武器と的が接触した時の破壊力に差がついたのだ。
というか、切断する攻撃のはずが爆散した。生き物相手ならスプラッタ間違いない。その光景を見て、またも、たまたま顔を出していたトロールのおっちゃんが目を丸くしていた。……正直、ホントすまんかった。
それはともかく、武器を振るうテルヒロ自体には特に違和感がなかったようだ。補助魔法は装備にかける方針で行こう。
いろいろ実験している内に、トロールのおっちゃんは手甲を持ってきてくれた。テルヒロに渡すと、何故か恐縮にはしていたものの、快く受け取ってくれた。
……でもね。確かに手甲を渡した訳だけど、俺は盾として使えると言ったはずなんだよなぁ。嬉々として殴り掛かるんじゃありません。またトロールのおっちゃんがびっくりしてるじゃないか。
とりあえず一通り体を動かした後は、手甲と訓練所を使った代金を払って店を出た。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
そういえば、ルビに関しては、特にルールなどはありません。意味合い的に通じるから不要だと思いつつも、通常の読み方ではないつもりで書いている部分とか、自分が一瞬読めなかった感じに関して後付している感じです。くどいですかねぇ……。
それとは関係ないけど、テルヒロくんは脳筋。




