レベルアップ
ユニーク1500超えました。いつも、ありがとうございます。
飯も終わって後は寝るだけ、と言ったところで、俺は宣言した。
「レベルアップしようか」
「レベルアップ?」
俺がテルヒロにそう提案すると、奴は首を捻ってオウム返ししてきた。
「ああ。一泊すると、次の朝までにレベルアップできるんだ」
「……?」
テルヒロは敵を倒すと勝手にレベルアップするようなゲームしかやったことないから当然か。俺は、テルヒロと宿の借りた部屋に入ると、ステータスウィンドウを引っ張り出した。
そこには、通常の画面に加えて、見慣れたレベルアップの追加項目が出ていた。よしよし。
レベルアップによりパラメータが微増し、ステータスポイントが追加されたことを確認する。ここは、ゲーム内と同じ流れで、正直ホッとした。ここに変な仕様変更が入っていれば、俺の考えていた攻略チャートに狂いが出かねなかった。
ステータスポイントは、レベルが上がった後、宿に入ることで加算される。それまでは、レベルアップしたことで広がった、敵とのレベル差のシステム的な補正しか恩恵がないわけだ。
ちなみに、パラメータを上げたからと言って大きく戦力が変わるわけでもない。そもそも、基本的な攻撃力、守備力は装備に依存する部分が多く、戦いの際のダメージや命中力、クリティカル率は彼我のレベル差が大きく作用している。
基礎パラメータが影響するのは、命中力や回避力、荷物が多い場合の動作といった、体を動かす場合の挙動なのだ。そして、基礎パラメータの高い低いについては、1点差でも随分と体感が変わるものだ。
それを踏まえて。
いつかも言ったが、『ReBuildier DImentions』の基礎パラメータは、レベルアップした際のステータスポイントを使って底上げするのだが、習うより慣れよ系男子のテルヒロには、今の内からパッシヴアビリティを覚えまくって急激な感覚の変化に戸惑うことがないようにしてあげたい。
それと、余ったステータスポイントはパラメータに振ることはなく、全部温存だ。
理由としては、ゲームの世界が現実に近い形に仕様変更したことによる、攻撃力の過剰化だ。例えば、本来ならラカーマの店売りの装備程度では、ロックリーチ相手にちまちま削る程度しかできないはずだった。その点テルヒロは、ロックリーチの神経節すら一撃で破壊するんだから、魂消たものだ。ゲーム時代ならチートを疑うレベルの火力だ。パラメータの補正でさらに火力を上げたところで、恩恵は少ないだろう。
ついでに、基礎パラメータの上昇に伴って、ただ動くだけでも感覚が変わることも間違いない。いくらゲームの世界になったとはいえ、ロックリーチのような大物と大立ち回りできるほど、テルヒロは超人ではなかった。しかし、チュートリアル分の経験値でレベルが上って、テルヒロはキャラクター作成時よりもパラメータの上がっている。しかし、その違和感を感じたことはないそうだ。
この世界で多少の戦闘をレベルアップによる基礎値の上昇であれば、多分体が慣れているような感覚になるんじゃないか?と俺は予想したのだ。
そうなると問題は、通常の成長に加えてパラメータを伸ばす行為で、1点の上昇によってどれだけ感覚が変わるのかが判らないという所だ。アビリティという、ゲームシステムの補正がちょっと入るだけでポンコツになるテルヒロが、基礎パラメータの上昇で感覚が変わった際にどうなるのかが怖い。
そう、現状でも更に過剰火力を発揮する方法もあるが、それは不可能なんだ。なぜなら、テルヒロのゲームスキルってやつに問題がある。
正直、近接職のデフォルトで覚えるアクティブアビリティ【スラッシュ】を、あれだけ下手に使える人材は見たことがなかった。
リフル山への道中、試しに一人で戦闘をやらせてみたのだけど、通常攻撃しか使っていなかったのを見咎めた俺は、ついついおせっかいに【スラッシュ】の存在を教えてしまったのだ。
すると、スタミナがあればあるだけスキルを使って、終いにはコストが払えずに昏倒する始末。しかも、命中率は脅威の3割だ。俺は、すぐにアクティブアビリティ全般の使用を禁止した。
素早いダッシュからの薙ぎ払い、ってだけなんだけどねぇ……。
新しくアビリティを使う、ということを覚えたのはいいものの、覚えたばかりのそれを喜々として使う様はまさに子供のそれ。ゲーム時代なら微笑ましいかもしれないが、生死の関わる今は致命的だ。
そういうわけで、いい感じのパッシヴアビリティを選んでほしいことを説明すると、テルヒロはうんうん唸った挙句。
「任せる」
ということをのたまってきた。はははこいつめ(憤怒)。
怒りのあまり『(憤怒)』などと死語的な表現を使ってしまったことを平に謝罪する所存です。
とりあえず現状のレベルを確認して、覚えられるアビリティの中からパッシヴのものや、タイミングで自動発動する系統のアビリティを覚えさせる。テクニカルな物は除外だ除外。
テルヒロのアビリティをあれこれ選ぶ一方で、俺は足りないだらけのテルヒロのサポートに全神経を傾けることにした。魔法攻撃しか効かない敵――主に陽が落ちている時間だけ出現するような奴ら対策だ――のために、武器に魔法コーティングができるものや、行動の阻害やテルヒロを強化する補助魔法を覚えるアビリティ。それに、攻撃手段として遠距離用の攻撃魔法が使えるアビリティ。
それと、今回の討伐でひしひしと感じたのは、"痛み"と言うのもがバカにならないデバッファ効果を持っているということだ。この世界がゲームのシステムを踏襲しているが、全てがゲームと同じようにはいかないということだ。
そこで、一定時間痛みを無視したり、ダメージを回復するアビリティを確保するべきでは?と思ったわけだ。
「うーむ」
俺は一つのアビリティを睨んで唸っていた。それは【痛覚耐性】というパッシヴアビリティ。
名前の通り、痛みと言うものに耐性を持ち、ダメージによるスタンを防ぐアビリティだ。ゲームでは、後衛まで攻撃が来たらパーティの全滅は必至なので、後衛職が持っても死にアビリティと言われていた組み合わせだ。
当時であれば、一人後衛が事故って死ぬくらいならどうということはなかったんだ。死に戻りした後に駆けつける行為がデフォルトだった。
しかし、この世界ではその通説が通用しない。俺が一つ事故るだけで、テルヒロが元の世界に帰るツテがなくなるなのだから。というかそもそも、死んだら終わりだ。
ロックリーチの一件が、俺に実感させた。万一の事故があっても俺が動ける状態をキープするのは、今後を考えて必須条件となってしまったということを、だ。
一方で、俺の組み立てていた攻略チャートには、このアビリティを取得するなんて手順はなかった。何より、ここでステータスポイントを余計に使うのは、計画が狂ってしまう。予定より時間をかけた攻略が必要になってしまう。
ちら、と自分の腹を見る。ポーションのおかげか、青黒かった痣は、日焼け程度の色の差に収まってきた。
それでも、その痣が目に入れば今でも鮮明に思いだす、あの衝撃。麻痺が発生してなかったら、痛みに呻いて動けなくなっていたと思う。そんな俺の反応で、テルヒロの集中力が低下すれば、あれほどロックリーチを引き付けることができなかったかもしれない。
……でもなぁ。
後衛職、かつ戦闘職を選んでない手前、このアビリティを俺が覚えようとすると要求ステータスポイントが高いのだ。正直、勿体ない。
そういうことをテルヒロに相談してみた。かくかくしかじかまるまるうまうま。
「――と言うわけで、俺は俺が痛いのが嫌だから【痛覚耐性】を覚えたいんだ。でも、そうなるとリアルに戻る予定が大幅に遅れてしまうんだが、どうする?」
「……うーん、すまん。俺にはよくわからんのだが」
マジか。説明が細かすぎた?それともおおざっぱすぎたか?
テルヒロの回答に、俺が頭を悩ませていると、事もなげにそいつは言った。
「あった方がシオは楽なんだろ?
だったら、帰るのが少し遅くなるだけじゃないか。それくらい構わないよ」
何の気なしにそんなことを口にするテルヒロに、俺はあっけにとられてしまった。
これがリア充の光ってやつか。悩んでた俺が浅ましく感じてしまうぜ。ふふ……ぐはっ。
「……わかった。アビリティは取らないで行こう」
「え?いいのか?」
「いいよ。代わりに、ちゃんと俺のこと守ってくれよ?
俺も、この世界を抜け出すために全力を尽くす。そのために来たんだからな」
テルヒロは、きょとんとした表情をして、それから苦笑した。なんだその表情。
「そっか。サンキュな」
おい、頭をなでるな。今はテルヒロの方が身長が40cmは高いから子ども扱いしてるんだろうけど、同い年だからな、俺ら!?
気恥ずかしくなって、俺はその手を振り払った。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。
……ほんとうに、めっちゃありました。誤字報告。本当にありがとうございました。
お互いがお互いに信頼しているような感覚、感じていただけたでしょうか。




