手掛かり
前作より人気があるようなんですが、期待が重いんだか嬉しいんだか。みんな、TS好きなんスねぇ。
なお、この作品はフィクションであり、登場する名称やニュアンスは、実在の人物・団体等とは何の関係もありません。
一週間が経った。
俺の目の前には、集中治療室のベッドに横たわり、様々な延命措置を受けている照裕の姿。俺の目の前では、照裕の両親が身動き一つしない照裕の姿に、涙を零してむせび泣き、その肩を抱き合っている。
お世話になった人たちが悲しんでいる姿を見て、自分の無力感が胸を突く。
「俺が、あの日あいつにゲームを教えなきゃ、こんなことには……」
悔しくて、悔しくて。声を震わせながら後悔の言葉を漏らすと、照裕の両親がハッとこちらを向いた。
「違うよ、紫苑くん。悪いのは君ではない。こんな事態を引き起こした奴らだ。
照裕は、君と遊ぶことを楽しみにしていた。ゲームについても、君の迷惑にならないかを私たちに愚痴をこぼしていたんだ。それくらい、楽しみにしていた。
決して、君の責任ではない」
照裕の父親は、涙に震える声で、ハッキリとそう言ってくれた。
今のところ分かっている事件の全容はこうだ。
ARグラスを使用して『ReBuildier DImentions』に3分以上接続した人間が昏倒する事件は、全世界的に発生していた。その原因は、とあるコンピューターウィルスだ。被害者が昏倒したのは、ARグラスが写す画像が、視覚を通して脳に影響を与えているかららしい。
元々は冷戦中だったはずの大国が2カ国間で共同開発していたもので、本来はあらゆるコンピュータに感染するところが、本来のものよりも下方修正された物が今回の事件で使われたものだった。
結果、感染速度が遅くなったことで、感染の発覚から対処の間に効果的な影響が期待できるのは、一昔前の大規模サーバー一台分が精々だったらしい。そこでターゲットに選ばれたのは、今なおサービスが続いたせいで機材が少々古かった、『ReBuildier DImentions』のメインサーバーが狙われてしまったのだった。
何故、そこまで計画が詳しくわかるのかと言うと、誰であろう諸悪の根源が情報を公開したからだ。事件は、たった一人のクラッカーが引き起こしたものだった。
事件発生の翌日、電波ジャックにより犯人本人から全世界的に大々的に発表された。
「私は、大きな事件を起こした。被害者は数知れず、歴史的な大罪人の誹りを受けるだろう。
だが、それでいい。
私の目的は、このおぞましい、大国の開発したコンピュータウィルスの存在を明るみに出すことだった。市井の一般人を監視、コントロールするこれらを暴露し、その危険性を十分理解できたと思う。
この事件を元に、世界中が大国に依存することの危険さを自覚し、大国は自らがどれだけ愚かなことをしているのか、理解するべきだ。
みんな、目を覚ましてほしい」
声明前に犯人は自首したものの、その動機と手段は犯人が逮捕されたニュースを放映直後にジャックして録画した映像を流したことで、遍く世の中に公開されてしまったのだ。
今、関係各所はその後始末――いや、対応でてんてこ舞いという形だ。実際、犯人の収容所とコンピュータウィルスの開発元と暴露された各国家施設では、デモ活動でにぎわっている。
もっとも、被害者の関係者である俺達には、そんなことはどうでもよかった。知りたかったのは、被害にあった人間は、目覚めてくれるのか。ということだった。
答えは、否、だった。
犯人曰く、「申し訳ないが、被害者の面々には尊い犠牲になってもらわざるを得なかった」らしい。被害を出すために使ったコンピュータウィルス事件を起こすにあたって、そのカウンター手段を開発できなかったということだった。
ひょっとしたら時間経過で治るのかもしれないし、何もしなければ一生このままなのかもしれない。
時間が全てを解決してくれるとは思えなかった俺は、独自でいろいろな情報を集めることにした。今度は、俺が照裕を助ける番だと、そう思ったから。
後に『Open Eyes』と呼ばれる大事件に、俺はこうして関わることになった。
*--
年が明けた。
新年だというのに、世の中はおろか、直接的な被害者が出ていない俺の家の中ですら暗い空気が漂っていた。空気の原因は、俺の焦りもあったのだが、それには理由がある。
被害者の中に、死者が出たのだ。
年が明けてすぐ、一つの凶報がもたらされた。被害者の内、早めに病院に運び込まれた一人が、年を越すことなく衰弱死したことが解ったのだ。
放置していたら治るものも治らないどころか、今のままではいつ死ぬかわからない。被害者関係者の恐怖は、今や最高潮に達している。照裕の家族も、そのニュースが出た時には半狂乱になったので、何とか落ち着いてくれるよう、時間をかけて諫めたものだった。
事件は今や、犯人が使っていた声明の文章から取って、『Open Eyes』事件と呼ばれるようになった。また、コンピュータウィルスの仮称も『Open Eyes』となっていた。大国の研究施設は、未だ『Open Eyes』の開発を認めてもいない段階であり、もちろん治療の研究すら行っていない。ただ、言い訳を繰り返し、事態の把握に努めている、と言葉を垂れ流すだけだった。
俺はと言うと、未だ改善の見込みがない照裕の容体と、目途の経たない治療手段と焦りを感じていた。終いには、藁をも縋る気持ちで、オカルト方面の情報すら集めていた。
そんな中、同じく情報を集めていたネット友人から一つのファイルがメールで添付されてきた。その友人は、従妹の少女が被害にあったらしく、被害者の家族で集まって作られたSNS上で知り合った仲だった。
メールの中身には、不穏な内容が記載されている。
『アップロードしては削除されるスレッド、って知ってるか?消される前に魚拓取ったからそっちにも送る。
俺は、スレッドに書いてあることを試してみるつもりだ。もし、明日20時に行方不明、もしくは意識不明になったやつがいたら俺だと思ってくれ』
そんな覚悟が透けて見えるメールの内容を、鼻で笑うことなどできなかった。すぐに添付ファイルを解凍し、中身を確認する。
中身は、SNSに建てられたスレッドの写しが二つ。両方とも、「ウソを嘘だと見抜けないマヌケじゃないと楽しめない掲示板」という、清濁併せ持つ情報サイトのもの。通称「美味い板」と呼ばれるSNSに、『Open Eyes』事件の約一週間後に立ったスレッドだった。
ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。
まだ、女の子になりません。
すみません。それ、オープニング終わる頃(予定7話目)なんですよ。
うれしいので、今日からTSするまでは毎日更新します。ストックを吐き出すぞ!
……なので、どこかで更新滞ったらごめんなさい。なんとか定期的な更新を心がける所存です。