後日談
Happy End.
いろいろありました。
いろいろありましたとも。
アイネトを説得して、照裕と合流して、ジェノ爺ちゃんと交渉して。
なんやかんやとトラブルはあったけど、むかっ腹が立つこともあったので過程は端折らせてもらうけど。
結果として、アイネトはジェノ爺ちゃんの住む精霊の森の離れに住むことになった。時折、無謀にもアイネトを討伐に来る馬鹿を蹴散らしては、レベルアップに励んでいるようだ。
約束通り、月一でソウル・トーカーを呼んではドンパチを繰り広げている。
神聖フォトゥム帝国は生き残りが0。結局何だったのか、という話になったが、国内の馬鹿が勝手にフォトゥムの名前を借りて蜂起しては、アイネトの手で自爆したという結果になった。
その発端になった、裏USB表さんのことは、俺の胸の内に秘めておくことにした。話がややこしいことになるし、改変前の世界で、一体何をどうしてOpenEyesを作り上げたのか。
――少なくとも俺は興味もないし、たとえ解明できたところで厄介ごとしかないのは明白だからだ。
爺ちゃんのフォトゥム国と神聖フォトゥム帝国は何の関係性もないことも証明され、すっかり平和な時代に元通り。めでたしめでたしだ。
OE事件に巻き込まれた知り合いの話もしておこうか。
彼らは、すっかり変わり切ってしまった地球に驚き慌ててはいたが、生活が便利になったことや、ゲームを通して自分たちの力も理解していたので、混乱はほとんどなく受け入れることができていった。
もちろん、爺ちゃんたち東欧フォトゥムの協力があってこそだったが。
ネモとニュウは、無事、生家に帰ることができたらしい。……問題はネモの体格か。圧倒的に成長した彼女の姿に、家族は目を白黒させていた。と、後日ネモから笑い話として聞かされた。
見た目なども含め、戸籍とのズレなどもあり、結果アバターの姿を一時的に変化させる【変貌薬】で元の姿に見せかける、という解決策を取ったとのことだった。
定期的に切れる薬のクールタイムが1日あるので、その時はフォトゥム国の一冒険者である"ネモ"として、日ごろのうっ憤を晴らしているのだとか。
目下の問題は、ゲームアバターは老けるのか、ということだ。
こればっかりは、先人のクランバインさんたちが研究検証してくれている。俺たちゲームアバターの体を持つ人間は、将来的にはフォトゥムに移籍していくことになるというのが、今のところの結論だ。
なんでもありの世界は、地球上には明確にそこしかないから、当然か。
ゼロゴも、家族と再会して、普通に生活できているらしい。そういえば、彼には【魔法陣学】は生えなかったらしいので、【魔法陣学】取得の研究をしているのだとか。俺は、体質とかもあったのかもなあ。
……あまり触れなくないが、ブロッサムの話もしておこうか。
彼女は、なんと俺の体験した事故の関係者だった。彼女の両親や姉妹が、俺の事故原因に関わる関係者として処罰されたが、彼女はいろいろなタイミングが重なってそれを免れていたらしい。
もちろん、事故に関して彼女自身に瑕疵はない。とはいえ、向こうの世界の所業もは別だ。結果、こちらの世界の法律に基づいて処罰されたらしい。後のことは知らない。
クランバインさんやヴォルテさんも、無事ご家族と再会できたそうだ。クランバインさんは、見た目が変わりすぎて娘さんに本人だと認識してくれず、泣かれたのが随分堪えたらしい。その愚痴を聞いたとき、俺は酔っぱらってるクランバインさんには絶対近づかないようにしようと心に強く決めた。
タロさ達「たまねぎらっきょう」を始めとしたメンバーは、フォトゥム共和国で就職して、別の異世界であるゲームの世界――今では「RBD世界」と正式に呼称されるようになった――と往復し、異世界の存在について研究、交流しているそうだ。
ちなみに、俺もフォトゥム異世界研究室に就職している。現在、RBD世界につなげられる魔法陣を維持できるのが、俺だけだったからだ。
……そう、"異世界"研究だ。パラレルワールドとも違う、まったく違う歴史をたどった、どことも知れない大地の存在。
爺ちゃんたちとタロさ達は、実に3年に及ぶ研究の末に、RBD世界や俺たちの住む地球とは、いわば広大な「世界」の中の1サーバーの空間にすぎないという考察を導き出した。そしてRBD世界は、地球の存在するサーバーとは"別のサーバー"である、という結論に至った。
それがなぜ証明できたか。
なんということはない。
あろうことか、さらにまったく別の"異世界"なんと接続ができてしまったのだった。
かつて俺が邪教徒の塔で考えていた、RBDの世界はゲームのサーバー全てが統合した世界だとか、ゼロゴの言っていた俺たちの住む地球の未来の姿、といった世界観は根底から間違っていたのだ。
あの時、フレンドリストのプレイヤー達が「ログイン済み/未ログイン」というステータスになっていたのは、実際にRBD世界に転送されているか、いないか、という状態だけじゃなかった。
タロ達が神の造った『未来の扉』の世界にいるか、いないか、という要素が加わった――つまりは、神の暴走で、ログイン表示がいろいろおかしくなっていただけ、と結論付けられた。
そして、異世界に接続できたことは、俺の人生の転機を再び訪れさせることになった。
何せ、その世界には俺の2ndキャラ、3rdキャラ達が存在したのだから。
彼女たちは俺の関係者――というか、姉妹として紹介され、各々がそれぞれの場で活躍している。
しかし、その結果に一番喜んでいたのは――。
「お姉さま、デート?」
ふと、横から聞き覚えのある声をかけられた。
ベンチに腰かけたまま振り向けば、チェックのベレー帽に鈍色の眼鏡、それでいて首から下はビキニアーマーという随分な恰好をした"少年"がいた。
「ああ。そっちは仕事?」
「ううん。付き合い。
またSo-09とアイネトが勝手に待ち合わせしてるみたいで」
「うはぁ……懲りないな、あいつら」
ソウク、というのはソウル・トーカーの愛称――というより、今の呼び名だ。というのも、みんなが呼び難いと文句が頻発したせいで、その場でソウル・トーカーが決めたものだったりする。
「下手な小突き合いでも一大事だからね。お姉さまが出る羽目にならないようにはするつもり」
「『スミレ』なら、俺も安心さ」
「そう言ってもらえると、うれしい」
彼はそういうと、とてとて、と俺に近づいてきた。甘えたいのか、と俺は苦笑しながら、彼の頭をなでてやる。
彼は『スミレ』。俺の3rdキャラだ。ドライトと殴り合うことができるほどの超火力の回避盾役で、本来女性用のビキニアーマーは、強化で【男女兼用】の特性がついている。数値至上主義で構成したこの子が、こうやってそのまま現実にいると不憫なことをさせてしまった。――と思っていたが、彼自身はどうも自分の格好を気に入ってるようだ。
それどこか、女装が趣味で、何度か彼の自室に招き入れてもらったこともあるが、俺なんかよりずっとかわいらしい部屋だった。その時の敗北感たるや。
「……あ、『ラヴェン』が呼んでる」
「そっか。仕事、頑張ってな」
「うん。……あ、ラヴェンが今度顔出してほしいって。【魔法陣学】で検証したいことがある、って言ってたよ」
「……俺も【アビリティ】で使ってるだけだから、理論聞かれても理解できないんだけどな」
「ラヴェンもお姉さまとお話ししたいだけだと思うよ。僕も、こうやってお話ししてくれるだけでもうれしいし」
『ラヴェン』は2ndキャラのことだ。『たまねぎらっきょう』所属時の俺のキャラクターで、完全サポート型の学者系のキャラクター。今は、タロさ達と異世界について研究しており、その参考として俺の【魔法陣学】をあてにしてちょくちょく顔を合わせている。
……のだが、スミレの話を聞く限り、それも私利私欲の一環なのか?
そう。2ndキャラ、3rdキャラにはそれぞれ、俺とは違う人格――ソウル・トーカーの言葉を借りれば、俺を『シオ』に導くために、身代わりになってくれた多重人格達――が入っていたのだった。
俺の存在を認知し、俺を応援して、それでも俺から認知されていなかった彼らは、俺と肉体を持って出会った時、恨み言の一つも言わずに泣いて喜んでくれた。
ソウル・トーカー曰く、『咲森 紫苑』という人格は、既に完全に破砕されており、存在しなくなっているらしい。
その中で最も大きな『咲森 紫苑』の要素を持つ『俺』が主人格になっていたのだとか。そのおかげか、俺は彼らの上位存在であり、『咲森 紫苑』一家の長男……いや、今や長女という扱いになるらしい。
「あ、でもずっと一緒にいるとデートできないね。待ち合わせ、10時からでしょ?僕、そろそろ行くよ」
「待て。何で知ってる」
「えー?ないしょ」
後日、全員が初めて集まっていろいろと話を聞いているうちに知ったのだが、彼らが俺の中にいた時の悩みの種こそが、俺の照裕に対する想いだったのだという。無事、俺と照裕が、こ、恋人同士になったことで、彼らの盛り上がりたるや、だ。
それを聞いた俺の気持ちを100文字くらいで簡潔に理解してほしい。
「大丈夫だよ。スケジュールしか知らないし。今日もお泊りでしょ?頑張ってね」
「……筒抜けかよ」
くっそ。誰経由だこれは。ラヴェンか。ソウル・トーカーじゃないよな。
……ん?
「じゃあ会ってる時のことは知らないんだな」
「うん。惚気はお姉さまから直接聞きたいし」
「どういう心境だそれは」
あーもう、毒を食らわばだ。
「じゃあ、ちょっと聞きたいんだけど」
「ん?何々?」
そういうのを相談するのは憚られるが、兄弟よりも近い存在だ。どうせいつかはどこから筒抜けになることだろうし……スミレなら、聞いてもいいか。
俺より女子力が高いスミレなら、俺の悩みに何か解決策を出してくれるかもしれない。
俺は、意を決して、自分の胸をもにゅり、と揉んで尋ねた。
「照裕からキス以上がないんだけど、どうすれば先に進めるんだろう」
いくら誘っても、乗ってくれないんだよな。あいつ。
俺はスミレの表情が強張ったことに気づかず、どうやったら照裕とベッドを共にできるか、今日のプランを説明しはじめた。
……照裕がその様子を見て、悶えていたと、後日ラヴィンに聞かされて悶える未来の俺に罵倒されているとも知らず。
ああもう、俺のバカ。全部、誘いに乗ってくれない、照裕が悪いんだ。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
気が付けば一年超という期間の連載、お付き合いありがとうございました。両想いになった二人は、これから紫苑くんの押せ押せにヘタレる照裕くんということになるのか、はたまた土壇場で紫苑くんがヘタレるのか。
皆様のご想像にお任せしたいと思います。
拙作ではありますが、お付き合いありがとうございました。
この話を描き始めるきっかけになった、仮面乃人様に最大の敬意を。
ここまで読んでいただいた読者様に最大の感謝を。
お付き合い、誠にありがとうございました。
PS. もう一話、照裕くんパートがございます。




