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一つの結末

「っかー、まいったね。どうも」

 

 ソウル・トーカーの口から、そんな弱音がついて出た。気持ちはわかる。というか、どうすればいいんだこんなもん。

 彼女とアイネトの戦いは、はや6()()()にも及び、遂には手持ちの最強武器を【ファイナルストライク】で使い潰すに至った。

 しかし、アイネトは第二形態に移行する()()()()()()。ダメージは入るのだが、即座に回復してしまい、致命傷に至らないのだ。

 最強武器を使い潰してしまった手前、これ以上明確なダメージを与え得る手段が見当たらないのだ。この状況に、思わず愚痴をこぼしてしまっても、誰も責めることもできないだろう。

 しかし、アイネトにも()()()()が言えてしまう。

 なぜなら、攻撃の有効打足りえないのはあちら(アイネト)も同じなのだ。なにせ現状、ソウル・トーカーに攻撃が()()()()()()()()――有効打が入らないどころか、ダメージが驚異の0だ――上に、第二形態に移行できないので、これ以上の攻撃手段が取れない。

 つまり、正に千日手(せんにちて)の状況になってしまっていたのである。

 既にクランバインさんたちを始めとして、ジェノ爺ちゃんたちも退避済み。テレビ局が遠くからこの戦いを見ている始末である。

 ついでに、横やりで外国から大陸弾道ミサイル的なやつが飛んできていたようだったが、日本に到達する前にアイネトのブレスに撃ち落されていたりする。

 そのころには、ソウル・トーカーもアイネトもすっかりお互いの戦闘力の確認が取れていたようで、最初に相対したときのテンションもしぼみ切っている状態だったりする。

 

「どーすっかなぁ」

「grr……」

 

 決め手に欠けるどころか、戦ってもわかり切った結果が待っているのが明白なほど、お互いのやり取りを終えた二人は、戦闘中という現状が嘘のように、()()()動かずに首を捻っている有様だ。

 

「なぁ、変わってもらえるか」


 俺は、ふと。アイネトが口をもごもごとしていることに気づいた。しかし、それはブレスを吐いたり咆哮を放ったりといった攻撃の予兆ではなく、何か困っているように見えたのだ。

 そこで、ソウル・トーカーに交代を言ってみる。彼女は眉を(ひそ)め、アイネトを見て、虚空を――おそらく俺を知覚している方向を――見た。

 

「……うーん、タイム!」

 

 通じるかもわからないのに、ソウル・トーカーは腕をTの字にして、アイネトに向けた。対するアイネトは、首を捻りつつも、とりあえず攻撃の意思がないのは理解したのか低く(すな)るだけだった。

 ソウル・トーカーはその様子に一つ頷くと、アカウントの交換を行う。

 

「【妖精の取り換え(チェンジリング)】」

 

 再び俺はソウル・トーカーとアバターを変更し、シオの体を持って地面に降り立つ。

 その様子に、アイネトは何事かを理解したのか、つい、と前足の爪を一本差し出してくる。

 まったく。結局使うんだからとっとと捨てるんじゃないよ。

 俺は、懐から紙を取り出すと、【魔法陣学】を発動。アイネトに【言語学】を再び付与した。

 

「――小さいモノよ。お前が強きモノであったか」

「俺も知らなかったよ。さっき知ったんだ」

「で、あろうな」

 

 俺が姿を現しても、アイネトは血気盛んに戦いを挑むことはなく、むしろ穏やかな賢者のような面持ちで会話をしてくれた。

 

「なぁ、まだこの世界を滅ぼそうと思っているのか?」

 

 俺は、端的に確認をすることにした。彼がW(ワールド)E(イーヴィル)たる所以は、世界を滅ぼそうとしているからだ。しかし、その指示は(システム)によって与えられたものだ。

 その(フュンフュール)と敵対した以上、そしてこの世界には、その神もいない以上、彼が世界を滅ぼす理由はないのではないか、と思ったのだ。

 

「我は――わからぬ。世界を滅ぼして、何を成すわけでもなし。我は、ただ、強きモノと戦い、それを下したかった――いや、それすらも、もはや」

 

 アイネトは、重々しく言葉を紡ぐ。しかしそれは、口調にも重厚な声にも反して、あまりにも幼稚(ようち)な内容だった。

 ただ、訳も分からず言われるまま動き、そしてソウル・トーカーと出会った。他のWEと違って、長い時間をほぼほぼ一人と相対した彼は、ソウル・トーカーに執着することで自我を得たのかもしれない。

 それは、まるで刷り込みのように。

 彼には、世界を滅ぼす理由なんて、なかったのだ。

 であれば、それは――。

 

「戦う必要あるのか?俺たちは」

「ある」

「なぜ?」

「我は――我は、戦いたい。強きモノと。それは変わらぬ」

「それは――()()()()()()。俺は、ソウル・トーカーじゃない。俺とも、戦うのか?」

「お前は、強きモノだ。だが、我の戦いたいモノとは、()()。そう、違うのだ……」

「俺は、ソウル・トーカーより弱い。もちろん、アイネト。お前よりも、圧倒的に。俺は、お前と戦えば木の葉と同じくらい、簡単に死ぬぞ」

「そう。そうだ。それは、我の戦いたい強きモノとは、違う……」

「……改めて、聞くぞ。()()()は、戦う必要があるのか?」

 

 ()()()()()。アイネトは、悩んでいるのだ。明らかに本能(ルーティン)と違う、理性があり、自我が生まれている。

 今、破滅的な暴力からこの世界を救うために、アイネトをどうにかするしかない。しかしそれは、力ではありえなく、力以外の決着をするしかない。

 なぜなら、今の戦力では、絶対にアイネトをどうにかすることができないのだから。

 ……それって、俺が()()になる、ってことなんだよなぁ。

 

「……定期的に、戦えれば、どうだ?」

「何?」

「今は、無理だろう。ソウル・トーカーの力はお前を倒せないし、お前はソウル・トーカーを倒せない。そうだろう?」

「それは……!

 ――……そうだ。今の我では、この爪一つ、奴に届かせられない。やっと、奴と並び立てる力を手に入れたと、思っていたのだがな」

「期間を置こう。お互いに研鑽(けんさん)して、準備して、戦う。

 それで、どうだ?この世界に、その力をぶつける必要はないだろう。ソウル・トーカー以外にその力を振るわないなら、俺は、お前を歓迎する。この世界の一員として。

 絶対に、そうさせる。

 だから、もう誰も傷つけないでくれ。頼む」


 アイネトを、懐柔する。

 それが、俺ができる解決策だ。

 俺の提案に、アイネトは瞳を閉じて。長く、長く考えた。

 やがて、口を開く。

 

「わかった。我は、強きモノ以外に興味はない。向かってくる奴は、殺すが、向かってこない奴に、興味はない。

 そうすれば、戦えるのだな?」

 

 アイネトは、俺の案に乗ってくれた。

 俺は、その回答にホッとして――本当に安心して、尻もちをついて、緊張の(こも)った息を大きく吐き出せたのだった。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 決着がつきました。

 ひょっとしたら賛否両論あるかもしれませんが、私の考える大団円には、アイネトが不可欠だったのです。次回から、エピローグです。

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