その名はレイドボス
5000PV超えました。いつも、ありがとうございます。
「終わったかー……。こいつは一体何だったんだ?」
戦い終わったことに安堵したのか、テルヒロは地面へへたり込んで訪ねてきた。
ロックリーチ。
こいつは一定範囲のロックワームを全滅させることで出てくるボスクラスだ。実は、複数のパーティで同時に挑むことのできる特殊なボス――つまり、レイドボスだ。ちなみに、序盤の金策・経験値稼ぎをしている初心者の鬼門でもある。
こいつの厄介なところは、出現条件が1パーティが狩った数ではなく、一定範囲内で狩られた数だということ。つまり知らず知らずにレイドボス戦に巻き込まれたり、運が悪ければフィールドに入った瞬間にロックリーチが出てきて全滅、なんてこともある。
MPK――つまり、わざとロックリーチを出す一歩手前まで準備して、狙いのプレイヤーがやってきたタイミングでロックリーチを出現させる、という方法でプレイヤーを殺す輩が横行したこともあった。
あまりにMPKが横行した時代もあったおかげで、ロックリーチに殺された場合、通常のデスペナルティに加えて、それまでのロックワームの撃破数に応じたペナルティに仕様変更されたことがある。
それはともかく、出現方法が他のボスクラスに比べれば簡単なせいもあって、実際のところレイドボスと言うには弱めの能力、攻撃方法しか持っていない。せいぜいレイドボスにふさわしいのはそのHPの量程度で、地面に潜ってからの不意打ちと体を振り回すことで範囲攻撃をするくらいか。
……不意打ちは、完全に油断していた。おかげで大ダメージを受け『スタン』した挙句、不意打ち攻撃自体が持っているバッドステータス付与まで受けてしまった。
とはいえ、元々がこいつと戦うつもりはなかったので、相対するには準備不足だったことは間違いない。そもそも全部、テルヒロがロックワームを狩りつくしたのが悪い。
俺は不意打ちを受けた腹に、テルヒロからもらった回復ポーションをかけながらロックリーチについて説明した。
――うわ、痣になってる。ポーションで回復しなかったら痛々しくて見てられないな。これはぶつけた背中も結構やばめかなぁ。念の為、背中にもかけ湯のようにチョロチョロとポーションをかける。
未だジクジクと痛んでいた部位も、段々と麻酔がかかったような鈍い圧迫感に包まれていく。今まさに回復中?っていう状態かな。
説明ついでにロックリーチの出現条件を伝えると、テルヒロは顔を青くして謝り倒してきた。いや、土下座までは求めるつもりがなかったので、地面に膝をついた時は慌てて止める羽目になったけど。
……真面目なんだから、もう。
さて、ここまで戦えば経験値的には十分だ。意図せずレイドボスまで倒したおかげで、想定していなかったアビリティまで取得できたし。
*--
俺たちは『ラカーマ』の街へと戻った。一日のうちで結構戦い続けていたせいか、町に着くころには陽が落ちかけていた。とりあえず、今日中にギルドにロックワームの討伐と鉱石採取依頼については報告しないといけない。
常に人の危険と隣り合わせのロックワームの討伐はともかく、鉱石の採取依頼はいつ無くなるかわからないからだ。ギルド内で素材が一定以上蓄積されると、しばらく恒常依頼から外れてしまうのだ。今日確認できれば今日のうちは報告ができる。
俺たちは、ファストトラベルを使わずにギルドへと向かった。いきなりギルドに入ると、今朝の面倒な連中と鉢合わせをする可能性があったからだ。
しかし、流石に奴らも生活があるのだろう。警戒していたものの、誰からも立ちふさがられることもなく、あっさりギルドの受付にたどり着いた。よかった。
道中、ロックワームと鉱石に関する依頼書をテルヒロに持ってきてもらい、それらを報告する。討伐数はギルドカードに登録されているし、必要な素材もインベントリにたっぷりだ。
「ロックリーチ!?お二人で倒したんですか!?」
ギルドカードの情報でロックワームの討伐数を満たしているか確認してもらおうとしたところ、それよりもロックリーチの討伐の方に驚かれた。思わず敬語になってるぞ、おばちゃん。
とはいえ、まぁ、腐ってもレイドボスだしな……初心者二人で倒すとか、どんな実力者って話だよな。何か、疑われたかな?
いやー、遂に「俺、なにかやっちゃいましたか」を言えるのか。と思えば、違った。
「これ……!これを、お願いできる!?」
受付のおばちゃんが受付の机の中から取り出して突きつけてきたのは、ある依頼書だった。
『採取依頼:ロックリーチの砂肝』
依頼主:薬学ギルド
対象 :ロックリーチの砂肝 可能な限り多く
目的 :高級回復ポーションの作成のため
報酬 :砂肝1個につき500G
「薬学ギルドから依頼は来てたけど、ロックリーチなんてそうそう出る魔物じゃないし!恒常依頼だけど難度が高くて、恒常依頼板に張ってなかったのよ!
これ、どのくらい行ける!?」
ロックリーチはレイドボスだ。レイドボスの報酬は、普通のモンスタードロップの比ではない量が手に入る。テルヒロの分と合わせれば6個は軽かった。
意図せず金策も必要なくなったなぁ。予定では、この後もしばらく滞在して、何とか2000 Gの余裕分は稼ごうと思ってたんだけど、この依頼だけで既に1000 Gがプールできるほどの黒字だ。
テルヒロと相談の上、結果的に全部放出した。回復ポーション。しかも高級と来れば冒険者、一般市民問わず必要なものだからだ。受付のおばちゃんからは喜ばれ、ギルドランクが上がった。
これも想定外。ギルドランクは、低級ランクだとギルドの依頼をこなした数で決まる。恒常依頼の中では依頼の質なんてどんぐりの背比べみたいなもので、ランクアップするためには細々としたものを長い時間をかける必要が出てくるのだ。
レイドボスにはギルドランクアップのためのボーナスが入っているので、討伐すれば早めにランクアップも可能ではある。しかし、討伐には本来人数が必要だから、そのボーナスが人数割りされて、結局割に合わないのが世の常だった。
今回は、ロックリーチの砂肝採取依頼が、そもそも塩漬け依頼だったことや、そもそも討伐の際の人数の少なさを鑑みた結果だ。
そういった、様々な要因で早めのランクアップに相成ったようだ。
こうして、石級ギルドメンバーから、黒石級ギルドメンバーになった。
……ラノベみたいな、一気に飛び級で鉄鋼級とかにランクアップなんて、そんな都合のいいことは起きないのだった。ちぇっ。
「ランクアップした、って何が変わったんだ?」
ギルド併設の酒場で夕食を取っていると、唐突にテルヒロがそう口にした。あー……ギルドの説明中に随分と無表情だと思ったら、そのことを考えてたのか。
……まぁ、初日からどエライことに会ったわけだし、最初のギルドの説明なんて頭から抜けてるか。俺は改めて説明をすることにした。
「まずメリットとして、受けられる依頼のランクが上がるな。
依頼について念の為確認しておくけど、そもそもランク制限のある依頼ってのは、ランクが上がれば上がるほど危険度も上がる。低いギルドランクの冒険者に危険度が高い依頼をいきなり受けさせて、ギルドメンバーの脱落を増やすような道理はないだろ?
だから、受けることができる依頼をランクごとに区切って制限してるんだ」
「なるほど」
「そういうわけで、俺たちは今までの依頼より難しい依頼が受けられるようになった。難しい依頼ってことは、それだけ報酬が大きい。
つまり、一つの依頼でもっと稼げるようになった」
「おおっ」
まずは手っ取り早いとところで、先立つものについての説明だ。何はともあれ、一番わかりやすい恩恵だしな。
だけど、俺の本命はここじゃない。
「何より、一つ上がるだけでも初心者脱却の証明になる。これで、俺たちは馬車を使った依頼が受けられるようになった」
「馬車を使った依頼?」
「護衛任務とかだな。基本的には今受けることができるものは、高ランクの冒険者が受け持った護衛についていく形にはなるけど。
とりあえず、これで他の街に向かうことができるようになった」
そう。これが俺の求めていた特典だ。
元の世界に帰るためのチャートを進めるためには、別の街に移動しなくてはならないのだ。もっとも、たかが黒石級のギルドランクでたどり着ける範囲に、俺の目的地は存在しない。
それに、『ラカーマ』は、言ってしまえば最初にたどり着く街でしかなく、その周辺の素材も、施設も、全てが初心者用のものでそろっている。
ロックリーチですら、レイドボスと言えどもそれなりの装備が揃えば、ゲーム開始時からでもボコることができるくらいだ。それは、セカンドキャラ以降のパワーレベリング――高レベルの引率で無理やりレベル上げをする手法だ――の常套だった。その変わり、レベルは上がるがお金は入らないデメリットもあるが。
もちろんそんな街にいても、上げられるギルドランクは、それこそ一年たっても2~3上がるのが関の山。手際よく進めるには、次の街『フォウニー』にたどり着くことが必須条件だった。
「今日の依頼で資金は十分。一応疲れもあるから、明日は一旦休むよ。
でも、明後日からは動く。護衛任務が張り出されるのを待って、次の街に向かおう」
「わかった」
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。
一区切りがつきますので、どうしても説明ががが。
ちなみにギルドランクは以下の順で考えています。
(最低)石→黒石→青銅→銅→真鍮→鉄鋼→金→銀→白金→白銀→魔銀→金剛(最高)