プレイヤーVS災凶
一旦、ジェノじいちゃんのパートです。
いやはや、魂消た。こんなのと、俺のひ孫たちは戦りあっていたのかと思うと、本当に頭が下がる気持ちだ。
黒い体に、鱗に沿った銀の筋が模様のように目立つ黒竜は、俺たちの攻撃も防御をものともしない。唯一動きが止まったのは、照裕くんと相対して、道を譲った時くらいか。
それが終われば、他の有象無象に用はないとばかりに暴れまわっている始末だ。
こちらは、攻撃を往なし、避け、守る。受けてはだめだ。耐えられる者などいない。すでに、盾役は半壊しており、これ以上の攻撃は死傷者も免れない。
その時だ。
「王都騎士団、前へ!」
高らかに、鬨の声がフォトゥム城から上がった。
流石に違和感があったのか、黒竜も訝しげに首を向けた。俺たちもまた、驚きにその声のほうに視線を向けざるを得なかった。
驚くべきことに、半壊して誰も出てこなかった王城から、白銀の鎧の騎士を先頭に、続々と武装した何者かが現れたではないか。
しかし、以前の放送などで彼らのような存在は神聖フォトゥム帝国にはいなかったはずだ。これは一体?
「アイネトだ!攻撃の直撃は避けろ!」「周囲に怪我人多数!」「援護隊、防御に集中!」
「【カバーリング】!」「【スタンガトリング】!」「【ヒールウィンド】!下がれ下がれ!」
彼らは、黒竜のことを認識しているようだった。初見で理解できるのであれば、照裕くんの友人か?
彼は無事だろうか。ふと、フレンドリスト見ると、なんと紫苑が通信可能になっていた。俺は、すぐに紫苑に連絡を取ろうとしたことろで、向こうから通話が来た。
すかさず繋げる。
「紫苑、無事か?』
『あ、爺ちゃん!ごめん、心配かけて』
久々に声を聴いたひ孫は、思ったよりも元気そうな声で答えてくれた。その様子にホッとする。
「照裕君がそちらに向かっているが」
『ああ、うん。合流したよ。照裕も無事』
「そうか、よかった。
そう、じゃ。聞きたいことがあるんだが、こちらに白い騎士たちがな」
『あ、それ。俺が呼んだ、援軍だ』
やはりか。やってくれたな、紫苑め。正直、助かった。俺の聞きたいことを、端的に解凍してくれて現状を朧気でも把握できた。
紫苑は、話を続ける。
『救護に集中して、爺ちゃんたちは撤退戦を』
「うむ……わかった」
確かに、これ以上の戦闘は無理じゃ。無事なものをかき集めて、撤退せざるを得ないじゃろう。
……ん?それでは、紫苑たちはどうする?見たところ、騎士たちに同行している様ではない。
「紫苑たちは?」
『俺は、まだ』
「ぬ……無理するなよ」
どうやら、紫苑たちはまだ何か策があるようだ。これだけの戦力、いまさら無茶をすることもあるまい。それに、照裕くんも合流したなら、なにかあってもフォローできるじゃろう。正直、あの子にはそれだけの期待を持っている。少し、危なっかしいが、それはきっと紫苑がフォローするじゃろう。
俺は、紫苑に一言告げて、通信を切った。その時。
「この中に、指揮権のある者は!?」
わらわらと隊列を展開していく様を尻目に、最初に出てきた白銀の騎士から質問が飛んだ。今、俺たちの中で指揮を執ってるのは間違いなく、俺だ。
「こっちじゃ!」
俺が声を上げると、その騎士は即座に俺の傍に駆け寄ってきた。なかなかガタイのいい御仁だ。おそらく、メインポジションは指揮大将として後に控えるような性質ではなく、先陣を切る盾役だろう。
「フォトゥム王都ブーンカッケー守護主力隊、王都騎士団騎士団長のクランバインと申します」
「おお、ご丁寧に。東欧フォトゥム共和国在日駐在大使の、ジェノ=ベーゼと言います」
「……フォトゥム共和国……?在日駐在……?」
俺が彼の自己紹介に答えると、御仁――クランバイン殿が眉をひそめた。ああ、彼は以前の地球人のタイプか。
「いろいろありましてな。今、この地球にはゲームの世界が融合しておるような状態です。私のいるフォトゥムは、クランバイン殿や紫苑のプレイしていたゲームよりも昔の時代のフォトゥムの様でしてな。
詳しい話は、後程ゆっくりでよろしいか」
「……そうですな。とにかく、今はアイネトの対処が最優先だ。
そちらは損耗が激しいご様子。今はこちらで戦線を請け負います」
「助かります。我々は負傷兵もろとも、一旦全て引き上げます。補給が終われば、再度こちらに参じましょう」
「お願いいたします」
そういうことに相成った。俺たちはそそくさと後詰めに控えたエスカペと合流し、部隊の再編成を行うべく残存瀬引力の再集結をしようとした――のだが。
「バカな!」
負傷兵の応急処置も終わり、いざ移動をという段階で、事件が起きてしまった。
クランバイン殿の見積もりが甘い――わけではない。明らかに練度も行動の迅速さも段違いなクランバイン殿の部隊ではあったが、黒竜の力はそのはるかに上をいっていたのだ。
発端は、盾役の一角。それまで尾の一撃や、踏み下ろしの衝撃波などで攻撃を仕掛けていた黒竜だったが、一瞬のスキをついてかその口から光線を吐いたのだ。
その一閃が、致命的な一撃となってしまった。
攻撃を受けた盾役を蹴散らすどころか、その後ろで援護していた部隊をも巻き込んたのだ。
その威力に、明らかに焦りの色を含んでクランバイン殿が声を上げていた。
「ぬ、いかん!負傷部隊は急いで戦線を離脱するのじゃ!無事なものは、騎士団に手を貸すぞ!」
「応!」
「【誘導】【大声】」「【吸収】【強固】【防御強化】」「【魔力操作】【放射】【拡散】【自然魔術:風】【自然魔術:水】」「【拡散】【魔力操作】【誘導】【自然魔法:光】」
俺の号令に、すかさず反応してくれる同僚たちに感謝しつつ、俺たちはすぐに戦線に舞い戻った。【スキル】による防御付与や、ターゲットの分散のため、デコイをまき散らす。
「おお、ジェノ殿!かたじけない」
「うむ……!やはり照裕くんの言うとおり、そちらの知るよりも強大な力を持っているようじゃな」
「ぬ、テルヒロをご存じで。そうですな……恥ずかしながら、戦力を見誤っておりました。辛うじて、死亡者はおりませんが……このままでは」
「むぅ……ジリ貧か」
八方ふさがりのような状況で、攻撃の隙間を縫って再び黒竜の口から光が漏れる。
「いかん!」
「総員、退避!防御態勢!」
俺たちが危険を知らせた時。
「――g」
ふいに。
黒竜の口から光が消え、その鎌首をフォトゥム城へ向けた。
「……?なんじゃ」
「ぬ……?」
クランバイン殿も理解できていないようで、訝しげな声を出していた。
黒竜の視線の先に目を向けると、半壊したフォトゥム城の屋根の一角から砂煙が上がった。
「――なんじゃ、あれ」
屋根の上、傍に寄り添うように立つその姿に、俺は唖然となってしまった。
女性、だということはわかる。わかるのだが……そのみょうちくりんとしか言えない恰好に、俺は開いた口がふさがらなかった。
なんの酔狂かと思ったが、クランバイン殿はそうではなかった。
「おお、あれは……!」
「知っているのか?」
心底ホッとした声に、俺は疑念を隠さず問いかけてしまうが、彼はそれに気分を害することなく答えた。
「ええ。あれは、最強の援軍ですぞ」
……アレが?
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技の連発シチュエーションがやりたかったんですが、場面描写だけでそこまで連発するほど表示タイミングなかったですね。いずれリベンジたいところです。




