表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/193

テルヒロの底力

 意識がはっきりしない。気がつくとまぶたを閉じていたようだった。気絶していた?どのくらいだ?

 耳にはテルヒロの雄叫びや、砂のこすれる戦闘音が断続的に届いてくる。まだ全滅したわけじゃないのか。良かった。

 ――ああ、クソ。痛い、苦しい。

 でも、段々と呼吸が楽になってきた。代わりに腹がズキズキと痛みだしてきた。――ぐああ、痛い!痛過ぎる!?

 体を動かす。動く。腕を突く。痛い。手のひらが擦れているのか?いつもだったら、少しでもビリときたら手を引っ込めるような俺だけど、今は気にしてられない。頑張れ俺、体を起こせ!

 

「ふぬぬぬぬ……!」

 

 顔を上げる。腹に力が入って、めっちゃくちゃ痛い。でも今は、我慢するしかない。だって、俺は一人で戦ってるんじゃないんだ。もう、ソロプレイじゃないんだ。

 起きろ、俺!テルヒロが死ぬぞ!

 ――なんとか顔を上げ切ると、テルヒロが巨大ミミズと戦っていた。その体は五体満足で、まだ元気そうに飛び跳ねている。よかった、生きてる。

 しかし、俺が声を上げようと息を吸い込むと、ビキリ、と音が聞こえるような痛みが全身に広がった。


「か……っは……ッ」


 だめだ、痛すぎて声が出ない。くそ、仕方ない。

 なけ無しのHP回復ポーションを取り出して腹にぶっかけ、顔にぶっかけ、残った分を飲み干す。装備を買って余ったお金で買えておいてよかった。予算内で収まったのは低級ポーション2本。俺とテルヒロで一本ずつ分け合えたのは幸いだった。

 ギリギリまで我慢するつもりだったけど、まさかのHP無傷の状態から4割程度のダメージでここまで苦しいとは思わなかった。何かの間違いだと信じたいが、視界端のARアイコンのHPバーは、まだ赤い(ダメージ)部分が半分にも到達していない。

 これ、当初の使用ラインだった総ダメージ8割の状態って、アイテム使う間もなく死に至る状態じゃなかろうか。

 ごめんな、ゲーム内のキャラクター。今度があったらもうちょっと優しくするよ。あったら、ね。

 そんなどうでもいいことを考えているうちに、ようやくズキズキとした痛みが、ジワジワとした痺れ程度に収まってきた。体の感覚が戻ってきて、これでなんとか動けるか……?


「にっが!?」

 

 舌の感覚が戻ると同時、まるで舌の真ん中に穴が空いたか、もしくは両端が腐れ落ちるかのような刺激が襲ってきた。

 なにこれゴーヤのスムージーか何かですかね!?ナニカが舌に残るんですけど!?ひでえ味だ低級ポーション!――ああ、でも声が出た。喋れるようになったんだ。

 俺は、すぐに声を出してテルヒロに確認する。

 

「テルヒロー!どんな状況ー!?」

「し、シオ!こいつ、切っても切っても倒せない!」

 

 こちらに気付いたテルヒロは、一度大きく距離を取ってこちらに顔を向けた。頬の擦り傷や、額からの血の帯が痛々しい。でも、その表情は安心しているようだった。

 なんで?……ああ、俺か!?俺が生きてるって分かったからか?

 違うだろ、俺を心配してる場合か!?


「テルヒロ!前!」

「分かってる!」


 俺に視線を逸らしたことでスキを見せたテルヒロだったが、その後繰り出されたミミズの体を使った薙ぎ払いを、手堅くバックステップで避けきった。なにそれすごい。

 よくよく見れば、テルヒロは攻撃をしないで攻撃を避ける、あるいは受ける行動に終始していた。剣を振るっているのも、攻撃をそらして直撃を避けるためか、警戒させて攻撃の手を緩めるためのようだ。

 ミミズの攻撃は、大まかに分けて三種類だ。その体を使った薙ぎ払い、突き、振り下ろし。ムチのような攻撃の連打を、テルヒロは巧みに武器を使って捌き切っている。それでいて、大仰な動きで防御するのではなく、なるべくその場から動かずに攻撃を見切っているようだった。

 ――それなら、良し!無駄な体力を使わないようにできてるじゃないか!やっぱり、戦闘になれば一目置ける存在だな!流石だぜ。

 とりあえず、これなら逃げる算段を取らずに済む。それなら、レベルアップも計れる方を取る。逃げようとしても、(足手まとい)の存在が逆にリスキーだ。

 ここは、ミミズ――ロックリーチを倒そう。

 大丈夫。俺がどのくらい動けなかったかわからないけど、俺抜きのソロでも生き残れるくらいレベル上がってるなら、倒せる!

 俺は意を決すると、ロックリーチ対策の決定的な情報を口にした。

 

「見た目に騙されるな!そいつ、切りやすそうだけど弱点は打撃だ!」

「オラァ!」

 

 テルヒロは、俺のアドバイスを聞くや否や、剣を逆手に切り替えて、ロックリーチの懐に飛び込んだ。襲い来るロックリーチの攻撃を剣で()なしながら、その胴体にローキックをぶちかました!

 切り替え早いな!


「ギュィィ!?」

 

 イイところに入ったのか、大口を開いて暴れだすロックリーチ。体のあちこちが縦に割け、中から赤い宝石のようなものが顔をのぞかせた。

 やったぜ一発クリティカルだ!

 

「それだ!赤い石!そいつ弱点!全部ぶち抜け!そっちは斬撃弱点!

 今のお前なら一撃で斬れる!倒せるはずだ!」


 言いたいことを思いつくままに叫んで応援する。

 テルヒロは、こちらに親指を立てて了解を示すと、ロックリーチに駆け寄っていった。なんだそれ格好いいな!

 実際は赤いのは石でも無いんだが、わかりやすいからプレイヤー間では赤い石で通っていた。NPC情報によると、どうやらあれはロックリーチの神経節らしい。

 ロックリーチは、打撃攻撃を受けた時のリアクションで短時間だけ体表に出る神経節を、全て破壊することでHPを0にできる。一応他にも、普通に殴り倒すことも可能ではあるが、やはり高いHP回復能力のせいで、無駄に時間がかかる。神経節をさらけ出させての全破壊が定石だ。

 もっとも、神経節をさらけ出す時間は僅かなので、序盤に出てくる上に最初から実装されていたにもかかわらず、RBDのめんどくさい敵の一人としてプレイヤーの評判に名を連ねている。そんなやつだ。

 ……ところで、言うだけ言って何もしない俺の姿は、とても無責任のように見えるだろう。

 が、なにせ俺、まだレベルが低いのもあるが、攻撃も補助も援護できるようなアビリティが用意できていないんだよね。補助効果は戦闘前に一通り強化して上げてたし、掛け直しが必要なものに関しては今から駆け寄ってバフを掛けるにはそんなスキも時間もないと来たもんだ。

 後は、テルヒロの戦闘センスに賭けるぜ。

 と、祈るように見ていたら、テルヒロの劇的な活躍を目にすることになった。

 暴れるロックリーチの頭をかいくぐって顎の弱点を切り飛ばし。

 返す刀でわき腹の弱点を真っ二つに切り裂いた。

 ロックリーチは、立て続けの大ダメージに、体を震わせて直立状態になった。軽く頭を揺らして体を直立させる停止のアクション。俺はこれを知っている。こいつ、短時間の大ダメージを受けたことで『怯んだ(スタンした)』んだ。

 ……ボスって、こんな早くスタンするんだっけ?はたまた、テルヒロの時間稼ぎでスタン値が溜まっていた?

 ――いや、さっきまでテルヒロは打撃で攻撃している気配はなかった。

 ロックリーチは弱点攻撃で大きくのけぞるリアクションをする。一発でも打撃攻撃していれば、テルヒロなら気づかないはずはない。マジか。すげぇな。

 

「これなら……トドメだっ!」

 

 裂帛(れっぱく)の気合と共に、体を半回転。背を向けたテルヒロは、体をねじって勢いをつけると、体当たりでもするかのような勢いで、その胴体にブロードソードを突き刺した。

 その剣先は正面に据えた神経節を通ってギリギリ体を貫通しきる。更には、向こう側に有った最後の神経節を貫いていた。スタンしたことで、体がぐねぐね動いていない上に、ミミズの体自体は柔かったからできた芸当だろう。

 ロックリーチはしばらく直立のまま動かなかったが、ビクリ、と体を震わせた後、ゆっくりと体を傾けた。ズン、と鈍い音がして大地に伏した。

 未だ武器を構えて睨みつけているテルヒロは、やがて眉を上げてポツリ、とつぶやいた。

 

「……やったか?」


 おいバカやめろ、それはフラグだ。

 でも、ロックリーチはそんな迂闊なテルヒロの言葉を受けても、動くことはなかった。

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。


ステイホーム週間ということで、無事執筆時間が取れまして。

せっかくなので今週は毎日更新してみようかと思います。皆様の暇の手慰みに使ってもらえれば幸いです。

……戦闘描写、難しいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ