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ファイナルストライク

【ファイナルストライク】は、覚える【アビリティ】じゃない。装備に()()()()()【アビリティ】だ。

 そしてその効果は、【アビリティ】を発動した装備をコスト――つまり損失させることで、様々な付与効果を与える。

 紫苑の作った『ロックワームの重装小手・改+6』にも、万が一の【ファイナルストライク】が付与されていた。その効果は、「ダメージ0()の攻撃・確定効果でヘイト値が上がる」だ。

 さらにチェーンコンボにより、俺の【ヘイトクライ】の倍率がかかった。紫苑曰く、この【ファイナルストライク】で稼げるヘイト値は、ゲーム内で()()のものだから、一度使えばほとんど攻撃が集中するとのことだった。

 そのお墨付き通り、W(ワールド)E(イーヴィル)はぐりん、と首を曲げ、開いた口がこちらを向けた。紫苑の秘策(ファイナルストライク)を使った俺は、俺の秘策を発動する。

 これが失敗すれば、俺は間違いなく死ぬ。しかし、俺は成功を確信してた。

 

「――【ワイヤージャンプ】!」

 

 その向きは、WEの()()

 本来であれば、チェーンコンボが終了したタイミングで【アビリティ】は発動できないが、ワールドイーヴィルの攻撃がブレスであることが幸いした。

 かつて、一本角(アイネト)と戦った時、"彼女"がブレスに合わせて【アビリティ】を発動していた。だから、ここに【インタラプト・リアクション】のタイミングがあることを、俺は知っていたのだ。

 それが、俺の確信だった。

 俺が【ワイヤージャンプ】で飛び込んだのは、ワールドイーヴィルの股下だった。

 口を起点に、放射状に延びるブレスであっても、ワールドイービルの下に潜り込んでしまえば、ブレスはこいつの体を焼くだけで、俺に届きはしない。

 事実、背後に強烈な閃光こそあったものの、その被害は俺に降り注ぐことがなかった。

 そして、視点も下がり、ブレスも狙えないWEは大きな隙を(さら)すことになる。

 

「0!」

 

 同時に、爆音がした。

 魔法が。

 砲弾が。

 【スキル】が。

 ワールドイーヴィルに殺到したのだ。

 中心にいる俺にも、猛烈な風圧が襲ってくる。

 

「うぐっ……!」


 思わず呻きながら、体制を整える。

 今、四方八方から来てるのは、正にジェノさん達と自衛隊の全火力だ。もし、()()()()と体の下から抜け出れば、圧倒的な破壊力の余波にさらされてしまう。

 今は、WEの体が、俺の身を守るテントだった。

 来る前にジェノさんから指摘はもらったが、ジェノさんが回収できる範囲は、視界内とのことだった。今の俺は、ジェノさんの回収も期待はできない。

 

「撃て撃て!撃ちまくれ!」

「目標、健在!」

「くそ、やっぱ近づけねえよなぁ!【剣風】!」

「生き残ってることを祈るしかないだろ!【螺旋巻貫】!」

「無駄口叩いてるならダメージ稼ぎな!【真空』ゥーーーーーーーー『拳圧破】ァーーーーーーーーッッ!!」

 

 チャットから音声で、周囲の状況が流れてくる。どうも、俺の安否を心配してくれているようだ。それだけ、無作為の総攻撃というわけでもないようで、それが心強い。

 俺と違って、"理解している"上での行動であるのは間違いない。

 俺にできるのは、生き残ることだけだ。

 

「――!!――!!!」


 同様に、頭上からビリビリと何かの圧――おそらくワールドイーヴィルの、苦悶(くもん)の咆哮だ――が俺を上から押さえつけてくる。

 効いている。たとえ防御力が高くても、それ以上の破壊力であれば、ダメージが通るのだ。

 しかし、ふと、気づいた。俺が無事なのは、ワールドイーヴィルへの攻撃が、その体に阻害されて、体の下まで届かないからだ。

 ――そう、()()()()()()

 ダメージは通っているのだろう。しかし、それが致命傷にはなっているのか?

 ひょっとして、俺たちは根本的に()()()()()()んじゃないだろうか。ダメージが通っているのは表面上のもの。本来、ダメージを与えないといけない()()は、今()()も無傷なのではないだろうか。

 ……俺は。

 

『――照裕のカンは変なところで当たるからなあ』

 

 紫苑。

 そうだな。今までも、あのゲームでも、俺のカンは、紫苑の知っている"常識"から外れたものだったけど、()()を残してきた。

 今、外で攻撃しているジェノさんたちは、『紫苑寄り』の人ばかりだ。自衛隊の人たちは、こんな場所に来てはいない。

 

『こいつの背中は固いから』

 

 それは、紫苑と狩った、()()()()()。俺が知識がなくて、馬鹿正直に見えてる部分だけを攻撃して、紫苑を呆れさせたんだ。

 見えてる場所が固いなら――。

 思いついたのは、俺だけだ。

 それなら、これを何とかするのも、俺だけしかいない。

 俺は、地面に刺して踏ん張る支えにしていた紫苑の剣を抜く。

 何だ。何で行く……?俺の中で最大の火力――いや、コンボの補正を考えろ……弱点に、正確に必ず当てる――。

 

『――このゲームは、レベル1()()の差がでかい』

『【アビリティ】は、習得難易度が高いものが効果が強い。でも、何より気にしないといけないのは、【アビリティ】のレベルが高いかどうかだ』

『一つ上のランク【アビリティ】と一つ下のランク【アビリティ】。この効果の差は大体スキルレベル0.7くらいで考えていい』


『――照裕。ここは、任せた』

 

 目を閉じ、今までの経験を探る。

 俺が頼るのは、ただ一つ。

 

「【ファイナルストライク】」

 

 紫苑の剣が、ぞの中心から虹色に輝く。ヒビだらけの刀身が遂に砕け、中から生まれた光が俺を包む。

 紫苑の造った剣の【ファイナルストライク】は、紫苑が()()()にできたという折り紙付きだ。なにせ、()()の効果を持っている。

 本来の剣系統の効果である「【チェーンコンボ】中に発動した攻撃系【スキル】のダメージを倍にする」効果。

 もう一つは、ダメージ判定で、相手の防御力を"素のまま"で計算するという、【貫通効果】の付与だ。


 ――【チェーンコンボ】。


 つなげる攻撃スキルは――!

 紫苑が、最初に諦めた、俺が、最初に覚えて、使い続けた――!

 

「【スラッシュ】」

 

 俺は、刀身が砕けてなくなってしまった紫苑の剣の柄だけを振るい、その拳を真上にある、ワールドイーヴィルのどてっ腹に突き刺した。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 私の好きなシチュエーションです。


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