地球とフォトゥムの共同戦線
想定外にも、自衛隊の攻撃はWEに有効だった。
ジェノさんが豆鉄砲と揶揄したライフルの弾は、機鋼種の撃つ弾より、細い。しかし機鋼種の【スキル】で放たれた弾丸は、めり込みはつるけども、その表皮の突破ができなかった。一方、自衛隊の放つ弾丸はそれと違って、明らかにその強固な皮膚を突き破って体液を噴出させていた。
さらに、不定期に発射されるロケットランチャーなども、明らかに的の大きな胴体に狙い違わず突き刺さり、爆発するたびに苦悶の声を上げるWE。
その様子に、回復が終わったのか、大剣持ちの獣人種の男性が近づいてきた。
「なんでぃ、余裕じゃないか。俺たちの出番はないか?」
「そう、じゃのう……」
不信感を露わにしつつ、ジェノさんが呟くように答える。
「『カンワードA』のビームライフルも通じなかったのに、日本の携行銃でダメージが与えられるのはどういう理屈じゃ?魔法の効果が減衰しているから、物理攻撃が効果的なのか?
いや、違うのう。『エメラルドロン』の炎の大剣はおろか、『ハルディン』の弓もはじかれておった」
「……どうした?爺さんの顔になんかついているか?」
ぶつぶつとつぶやきながら、自衛隊の攻撃に翻弄されているWEを見つめるジェノさん。俺が彼の様子を見ていると、大剣持ちの獣人種の男性から声をかけられた。
「……いや、友人に似ていたから。本当に、血縁なんだなって」
「……血縁?爺さんの?」
「あぁ、うん。俺もよくわかってないし、なんかややこしい話らしいんだけど」
「なんだそりゃ」
「ゴォアァァァァぁ……」
そんな話をしていると、ワールドイーヴィルが断末魔のような声を上げて横倒しに倒れ伏す姿が見えた。
「おいおいおい、倒しちまったよ。マジか」
その様子に、驚きに目を見開いて獣人種の男性が声を上げた。
「撃ち方止め!」
「了解!総員、撃ち方止め!」
後方の隊長さんから号令が上がり、散発的に鳴っていた銃声も途切れる。
その場にいる全員が、倒れるワールドイーヴィルを見据えていた。風の音しか聞こえない、凪の時間が過ぎる。
「――……うっ!?」
目の前の光景に、獣人種の男性が呻く。
さっきも見た光景だ。後頭部からびりびりと裂け目が走り、体の中頃まで来ると、その隙間から再び5本角の頭が出てきた。
その体表は、――白かった。
「敵性対象の活動を確認!」
「総員、攻撃再開!」
「了解!総員、攻撃再開!撃て!」
再び閃光と銃声が鳴り響く。
「……!?」
しかし、今度は銃声に遅れて、ワールドイーヴィルの表皮に火花が散っていた。
先ほどまで、血を噴出して悶えていたワールドイーヴィルじゃ、ない。全く攻撃が効いていなかった。
がれきの隙間から、煙の尾を引いて何かがワールドイーヴィルへと向かう。首元に着弾し、爆発した。
が、煙が晴れてもその首元には、傷一つない。
「バカな、無傷だと!?」
隊長さんの焦りの声が聞こえてきた。
と、同時に。
「皆の衆、出番じゃ!」
「!?」
突如、ジェノさんが掛け声を上げた。何事か、と俺がジェノさんを見ると。
「ですよねええぇぇぇ!!」
「シャオラー!出番だー!」
「撃て撃て撃て撃てぇ!!」
待っていましたと言わんばかりに、待機していたこちらの面々が飛び出していく。
「な、ジェノ殿!?いったい何を!」
当然、予想外の行動に出られて、隊長さんがジェノさんに近づく。しかし、ジェノさんはそれを片掌を向けて止めると、続けてその手をワールドイーヴィルを指さす形に変えた。
誘われるがままに視線をワールドイーヴィルに向けると。
「【魔力操作】【自然魔術・火】【射出】――あー、やっぱ効きは悪いかー」
「【魔力操作】【自然魔術・氷】【射出】――でも、さっきほどじゃないな」
魔法部隊の面々が、不満そうに愚痴りながらも、次々に魔法を打ち込んでいく。それらがワールドイーヴィルに、あるいはその近辺に着弾し、爆炎やら砂埃が巻き起こっている。
「……本当だ。効いてる!」
暴れるワールドイーヴィルの体には、最初の時みたいな大きな傷はないものの、自衛隊の攻撃よりも、大きなダメージが見て取れる跡ができていた。
「兵隊さんよ。ああいうことらしいぞ。
つまり、黒い状態だと【フレーバーズ】やら、フォトゥムの武器が有効的じゃ。白い状態だと、わしらの攻撃は効果的ではないが、どうも兵隊さんたちの装備が効果的の様じゃ。
ここはひとつ、協力せんか?」
「し、しかし、ジェノ殿たちは民間人であり」
「ほぉ……政府はなんといっておる?まだ、わしらを退去させるか、そちらの指揮下に入るよう言っておるのか?」
ジェノさんの口ぶりに、何か確信めいたものを感じる。隊長さんは、「それは」と言いにくそうに口ごもり、女性隊員さんの方を見た。
女性隊員さんも、はぁ、と大きくため息をついて、口を開いた。
「現在、官庁で審議中です。こちらからの要望に関して、全て保留、と」
「あまりダラダラしてられんぞ。それなら、こっちはこっちで勝手に協力するから、あれが黒くなったら選手交代と行こう。
返事を待っていると、全滅するぞい」
隊長さんは、しばらく口ごもってはいたが、頭を下げてジェノに答えた。
「了解しました。今は、お任せいたします。
――蓮見くん。全軍、戦線を維持しつつ待機。敵性対象の変態に合わせて、攻撃再開だ」
「了解しました」
隊長さんの反応を尻目に、ジェノさんは再び杖を振るいだした。
――これは、長期戦になる。
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フュンフュールは、リソースの存在を知りません。そのため、能力を特化型に割り振っては反動で弱体化しています。




