表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/193

地球とフォトゥムの共同戦線

 想定外にも、自衛隊の攻撃はW(ワールド)E(イーヴィル)に有効だった。

 ジェノさんが豆鉄砲と揶揄(やゆ)したライフルの弾は、機鋼種の撃つ弾より、細い。しかし機鋼種の【スキル】で放たれた弾丸は、めり込みはつるけども、その表皮の突破ができなかった。一方、自衛隊の放つ弾丸はそれと違って、明らかにその強固な皮膚を突き破って体液を噴出させていた。

 さらに、不定期に発射されるロケットランチャーなども、明らかに的の大きな胴体に狙い(たが)わず突き刺さり、爆発するたびに苦悶の声を上げるWE。

 その様子に、回復が終わったのか、大剣持ちの獣人種の男性が近づいてきた。

 

「なんでぃ、余裕じゃないか。俺たちの出番はないか?」

「そう、じゃのう……」

 

 不信感を露わにしつつ、ジェノさんが(つぶや)くように答える。

 

「『カンワード(エース)』のビームライフルも通じなかったのに、日本の携行銃でダメージが与えられるのはどういう理屈じゃ?魔法の効果が減衰(げんすい)しているから、物理攻撃が効果的なのか?

 いや、違うのう。『エメラルドロン』の炎の大剣はおろか、『ハルディン』の弓もはじかれておった」

「……どうした?爺さんの顔になんかついているか?」

 

 ぶつぶつとつぶやきながら、自衛隊の攻撃に翻弄(ほんろう)されているWEを見つめるジェノさん。俺が彼の様子を見ていると、大剣持ちの獣人種の男性から声をかけられた。

 

「……いや、友人に似ていたから。本当に、血縁なんだなって」

「……血縁?爺さんの?」

「あぁ、うん。俺もよくわかってないし、なんかややこしい話らしいんだけど」

「なんだそりゃ」

 

「ゴォアァァァァぁ……」

 

 そんな話をしていると、ワールドイーヴィルが断末魔のような声を上げて横倒しに倒れ伏す姿が見えた。

 

「おいおいおい、倒しちまったよ。マジか」


 その様子に、驚きに目を見開いて獣人種の男性が声を上げた。


「撃ち方止め!」

「了解!総員、撃ち方止め!」


 後方の隊長さんから号令が上がり、散発的に鳴っていた銃声も途切れる。

 その場にいる全員が、倒れるワールドイーヴィルを見据えていた。風の音しか聞こえない、(なぎ)の時間が過ぎる。

 

「――……うっ!?」

 

 目の前の光景に、獣人種の男性が呻く。

 さっきも見た光景だ。後頭部からびりびりと裂け目が走り、体の中頃まで来ると、その隙間から再び5本角の頭が出てきた。

 その体表は、――白かった。

 

「敵性対象の活動を確認!」

「総員、攻撃再開!」

「了解!総員、攻撃再開!撃て!」

 

 再び閃光と銃声が鳴り響く。

 

「……!?」

 

 しかし、今度は銃声に遅れて、ワールドイーヴィルの表皮に火花が散っていた。

 先ほどまで、血を噴出(ふんしゅつ)して(もだ)えていたワールドイーヴィルじゃ、ない。全く攻撃が効いていなかった。

 がれきの隙間から、煙の尾を引いて何かがワールドイーヴィルへと向かう。首元に着弾し、爆発した。

 が、煙が晴れてもその首元には、傷一つない。

 

「バカな、無傷だと!?」

 

 隊長さんの焦りの声が聞こえてきた。

 と、同時に。

 

「皆の衆、出番じゃ!」

「!?」

 

 突如、ジェノさんが掛け声を上げた。何事か、と俺がジェノさんを見ると。

 

「ですよねええぇぇぇ!!」

「シャオラー!出番だー!」

「撃て撃て撃て撃てぇ!!」

 

 待っていましたと言わんばかりに、待機していたこちらの面々が飛び出していく。

 

「な、ジェノ殿!?いったい何を!」


 当然、予想外の行動に出られて、隊長さんがジェノさんに近づく。しかし、ジェノさんはそれを片掌を向けて止めると、続けてその手をワールドイーヴィルを指さす形に変えた。

 誘われるがままに視線をワールドイーヴィルに向けると。

 

「【魔力操作】【自然魔術・火】【射出】――あー、やっぱ効きは悪いかー」

「【魔力操作】【自然魔術・氷】【射出】――でも、さっきほどじゃないな」

 

 魔法部隊の面々が、不満そうに愚痴りながらも、次々に魔法を打ち込んでいく。それらがワールドイーヴィルに、あるいはその近辺に着弾し、爆炎やら砂埃が巻き起こっている。

 

「……本当だ。効いてる!」

 

 暴れるワールドイーヴィルの体には、最初の時みたいな大きな傷はないものの、自衛隊の攻撃よりも、大きなダメージが見て取れる跡ができていた。

 

「兵隊さんよ。ああいうことらしいぞ。

 つまり、()()()()だと【フレーバーズ】やら、フォトゥムの武器が有効的じゃ。()()()()だと、わしらの攻撃は効果的ではないが、どうも兵隊さんたちの装備が効果的の様じゃ。

 ここはひとつ、協力せんか?」

「し、しかし、ジェノ殿たちは民間人であり」

「ほぉ……政府はなんといっておる?まだ、わしらを退去させるか、そちらの指揮下に入るよう言っておるのか?」


 ジェノさんの口ぶりに、何か確信めいたものを感じる。隊長さんは、「それは」と言いにくそうに口ごもり、女性隊員さんの方を見た。

 女性隊員さんも、はぁ、と大きくため息をついて、口を開いた。

 

「現在、官庁で審議(しんぎ)中です。こちらからの要望に関して、全て保留、と」

「あまりダラダラしてられんぞ。それなら、こっちはこっちで勝手に協力するから、あれが黒くなったら選手交代と行こう。

 返事を待っていると、全滅するぞい」

 

 隊長さんは、しばらく口ごもってはいたが、頭を下げてジェノに答えた。

 

「了解しました。今は、お任せいたします。

 ――蓮見くん。全軍、戦線を維持しつつ待機。敵性対象の変態に合わせて、攻撃再開だ」

「了解しました」

 

 隊長さんの反応を尻目に、ジェノさんは再び杖を振るいだした。

 ――これは、長期戦になる。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 フュンフュールは、リソースの存在を知りません。そのため、能力を特化型に割り振っては反動で弱体化しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ