怪獣大進撃
感想でご指摘いただいた件について、ここで追記させていただきます。
この世界の科学兵器は、【フレーバーズ】含む魔法技術を一切使っていない設定になっています。また、描写に関しては昭和日本の怪獣映画の描写を想像していただければ…。
私の兵器知識が貧弱なばかりに申し訳ございません。
戦い始めて、どれだけたったのか。もう一日戦っているような気もするが、ふと無の時間ができると、まだ一時間も経っていない気分になる。
敵の攻撃を誘い、躱し、受け、こちらの攻撃を当て、守り、逃げる。
そんな行動を繰り返しているうちに、気が付くと真正面に五本角の頭があった。
――立ち位置を、誘われたか?
すでに口の中に光が漏れている。口を開けば、すぐに――。
『Gyaowunn!!??』
閃光の中に消える……ように見えた俺の姿に、勝利を確信してでもいたのか、今までで一番手応えのある当たりが、隙だらけのワールドイーヴィルの背後――踵を捉える。
「【アヴォイドヴォイド】、だっ!」
攻撃を"受ける"ことで残像を残し、攻撃を躱す【スキル】。あの世界にいるときには使えなかった【スキル】だが、この世界でも鍛錬を怠らなかった結果、【回避】アビリティができていた。
……紫苑も嘆いていたが、地球に戻った時に、一部の【アビリティ】のレベルが1に戻ってしまっていた。それが、なんだかあの世界の紫苑の努力が無為に帰したように感じた俺は、ヒマがあればレベル上げに勤しんでいたのだ。
その甲斐あって、俺は一人でもこうやってWEと渡り合うことができていた。――それでも、限界はある。俺は今、無傷で居るわけじゃない。
「はぁっ、はぁッ」
舞い散る瓦礫や、ワールドイーヴィルの攻撃で、俺の体のあちこちには擦り傷や切り傷が刻まれている。
手甲もところどころ凹みや欠けが生まれ、スタミナの回復が間に合っておらず、ジリ貧だ。今の攻撃で、危うく剣を取り落とすところだった。
息も切れ、集中力が切れてきた気もする。
それでも、足を止めない。すかさず足を動かせば、先ほどまでいた場所に炎が立ち上る。やっぱり、隙を見せればすかさず狙ってくる。
とにかく、攻撃ができる程度まで回復をしなくちゃ。
そのためには、せめて紫苑にターゲットが行かないようにここから少し離れなくては。うまく釣れるかな。
『Guウuu――Bぶッ!?』
俺が攻めあぐねていると、不意に首を伸ばしたワールドイーヴィルの二本角が、爆発した。煙が意図を引いており、その元を探すと、今度は背中に何かが煙の尾を引いて突き刺さり、爆発した。
ビュン、と轟音を立てて、空を何かが通過した。俺も、ワールドイーヴィルも、思わずその先を目で追った。
――戦闘機!
飛び去る戦闘機の後姿を追っていると、再びワールドイーヴィルの体が爆炎に跳ねた。
気が付くと、ワールドイーヴィルをはさんで向こう側、キュラキュラと音を立てて戦車が道を塞いでいる。さっきの爆発は、戦車の大砲か。
戦車のほうに意識が向けば、戦闘機からのミサイルが降り注ぐ。そちらに気を取られたら、今度は戦車の攻撃だ。
『Guurrrrrrrr……『GyagyaGyA!!!』』
しかし、戦闘機はともかく戦車では機動力に難があった。地面から突き出した炎の柱が、次々と地上の戦車を破壊していく。
「くそ、やめろぉっ!」
俺は、気を紛らわせるために切りかかるが、流石にミサイルなどの攻撃のほうがダメージがでかいのだろう。
試しに、攻撃を誘うためにも足を止めて切りかかってみたものの、一向に意識を向けられることがなかった。どう考えても、俺にはミサイルや大砲ほどの火力が足りていないのだ。
しかし、確実にダメージが与えられそうな大技を繰り出すには、もはやスタミナがキープできない気がする。たとえ有効打が決まったとして、稼いだヘイト分、回避しきれるかどうか。
ふと、ワールドイーヴィルの様子を見てみる。頭はずっと上を向いて、戦闘機にブレスを当てようとしていた。
……いや、今が回復のチャンスだ。俺はワールドイーヴィルの視線がこちらを向いていないのをいいことに、一旦離脱して、廃墟のようになってしまった建物の陰に隠れた。
「はあっ、はあっ……た、助かった……」
瓦礫の陰に腰を落とした瞬間、全身の疲労が一気に噴き出たように体が重くなった。ずきずきとした痛みに、荒い息が止まらない。
今ならわかる。――正直、限界だった。
どれだけの時間戦っていたのかはわからないが、少なくとも後続の戦闘に引き継ぎができたのは理解できた。戦車隊はともかく、戦闘機はそれなりに効果的のようだ。
更には、手から転がり落ちた幅広剣の状態だ。握力が抜けたせいだろう、カラン、と小気味よい音を立てて地面に転がった剣には、よく見なくても細かいヒビや刃こぼれが目立っていた。これ以上の戦闘に耐えられたか、見た目では非常に不安だ。
もし、戦闘中に折れてしまったならば、それでまだヘイトが残っていたら。
それを思うと、ゾッとする。
その反面、こうなってもまだ、俺の期待にこたえ続けた剣と、それを作ってくれた紫苑に感謝する。おかげで生き残れた、と。
爆発音が、上から響く。
まだ、風を切り裂くエンジン音は聞こえるものの、何機かは撃墜されてしまったようだ。
空を見上げると、幾筋の光が見えた。……あれは!
光は、空を飛ぶ戦闘機に向かっていた。空中を逃げ回る戦闘機だったが、光はどれだけ逃げても食らいつく。
ホーミングしている!?魔法だ!
紫苑が、地上に設置した柱の魔法だけ気を付けるように言っていたから、てっきり空中にいる航空機は有利だと思ったのだけど、WEには対策法があったようだ。他の魔法も使えたのか。
戦闘機は、宙返りや反転など、様々な軌道を繰り広げていたが、どんなに逃げても細かくホーミングする魔法弾には、圧倒的に不利だった。
俺の目の前で、あえなく着弾し、爆散していく。
――やばい。
こんなに早く、自衛隊の戦力が蹴散らされるとは思わなかった。俺が、一人である程度クギ付けできていた分、それなりの戦力であればもっと時間が稼げると思っていたのだ。
……ここから逃げなくちゃいけない。ワールドイーヴィルが来る。
しかし、一度腰を下ろした体は、なかなかエンジンがかからない。全身を覆うように襲ってくる痛みのせいか、体に力が入らないんだ。
「ぐ、うう……」
情けなくも、四つん這いで剣を拾うと、のろのろと建物の影を縫うように、周囲を気にしながら、逃げる。
地響きは、確かに近づいてくる。それも、一直線に。こちらの位置がわかっている?だとしたら、今は傷ついた俺をもて遊んでいるかのようだ。
ああ、畜生。
瞬間、「キィィ」と、微かにガラスをひっかくような音が聞こえた。ゾクリと、うなじの毛が逆立つような恐怖に、泡を食って飛びのく。
「ううっ」
ギリギリ、腕をかすめるように、左に光が迸る。身を縮めて、風圧に耐え、その場にとどまる。
左半身にかかる圧が消えていき、ようやく俺は、ブレスを吐かれたのだ、と理解した。
【危険感知】――回避力を上げるパッシブアビリティ――のおかげか、とほっ、と息をついたのもつかの間。
きれいな切れ目が作られた壁の角から、薄気味悪い笑みを浮かべたドラゴンの首が伸びて、俺を補足した。
やばい。
俺が恐怖におののき、そいつがニヤけて口角を上げた瞬間。
『Gi――gYoァッ!?』
またしても横っ面に爆発。今度はのけぞるどころか、吹き飛ばされた。
遠くで地響きがして、俺の視界には砂埃がもうもうと舞うだけとなった。いったい何が。
「よう耐えた。えらいぞ」
そう、砂埃を割いて俺に声をかけてきたのは、背後に何人もの魔法使いや剣士を携えた、紫苑のひいおじいさんを名乗る、精霊種の少年だった。
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アヴォイドヴォイドはクランバインさんに披露されたスキルですね。




