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二つのフォトゥム王国

「ラカーマ、フォウニー、キンブシ……聞いたことのない地名ばっかりじゃなあ」

「地理的にはラカーマの南の位置にタクキマラがあるな。ってことは、プレイヤーのログイン初期位置のストーンサークルの森が『()()()()』ってことか」

()()()()()、って王都の北東だっけ。そちらに移動したってことか?」

「作った街が、スタンピードとかの影響とかで森に引き込まざるを得なかった可能性もあるけど……」

 

 覚えている限りの、王都周辺の地図を書き出して、俺と爺ちゃんでお互いに覚えている内容を買い記していく。

 結果的にわかったのは、ジェノ爺ちゃんのいるフォトゥム王国よりも、俺たちの知るRBDのほうが人類の分布は多い。普通考えれば、発展している方が未来だ。

 しかし、爺ちゃんの持っている【アビリティ】は俺たちが使っている物よりも細かく、複雑な組み合わせが可能だ。どちらかというと、俺たちの使っているシステムのほうが、洗練されていないと言える。

 振り返って確認してみよう。俺たちは、【アビリティ】を組み合わせて【スキル】を発動する、おなじみのシステムだ。

 爺ちゃんの方は、【アビリティ】要素すべてが【スキル】であり、それでいて要素単体でも効果を発揮する。さらに、それらを組み合わせることで、少ないコストで複雑な効果も思いのままに発現できるのだ。

 爺ちゃんの使っているシステムは、俺たちの先をいっている。俺たちの知るフォトゥムが、何らかの要因――例えば、WE――で文明だけが衰退したんじゃないか?文明の復旧は困難だった代わりに、脅威に慕いて戦闘能力だけが進化したのでは。

 そう結論付けてみたのだが。

 

「ふーむ。わしの考えは逆じゃな。今使われているのは、確かにわしが使っている形式より汎用性は下がっているが、利便性が圧倒的に高い。

 システム屋としては、専門家じゃない人間が使うのであれば、利便性を取る。素人に、下手なカスタムをさせないのも、使いやすいシステムの構築に必要じゃからな」

 

 俺の考えと、爺ちゃんの考えは真逆を行った。俺としては、爺ちゃんの使っているシステムのほうがうらやましいんだけどな。

 と言ってみると、照裕からは「その考えは紫苑だからだ。俺もRBDの方が使いやすい」と笑われた。解せぬ。

 

「そもそも、わしはそのワールドイーヴィルという存在を知らんでな」

 

 確かに実際に一度滅んでいたとしたら、そんな驚異的な世界的な危機の要素が、口伝ですら歴史上存在しないとは思えない。可能性としては、一回絶滅寸前までいったことで、ワールドイーヴィルが活動を停止。そのせいで、口伝からも消えてしまった、とか。

 うーん、ちょっと無理が過ぎるか。やっぱり、爺ちゃんの居る世界が過去の世界なんだろうか。

 と、俺と爺ちゃんが(うな)っていると、照裕が口を開いた。

 

「紫苑、そういえば」

「ん?」

「あの世界って、なんか改造されてたとか、手が加えられてたとか言ってなかったっけ」

「……あっ」


 そうだ。

 俺たちが行った世界は、フュンフュール()の手によって世界観(テクスチャ)の上書をきをされていたんだった。俺は太郎さん(タロさ)みたいに実際に研究したわけでもなく、情報を目にしたわけでもなかったのですっかり忘れてた。

 え、でも、ということは……。

 それを聞いた爺ちゃんは、あごに手をやって考え込む。

 

「むぅ、そうなると実は、全く別の世界の可能性もあるのう。……」

 

 ……爺ちゃんも、同じ答えにたどり着いたのかもしれない。あの世界は、そもそもRBDの世界ではなかった。だとしたら、うちの世界で生まれたフュンフュールが誠に申し訳ございませんでした、と言う感じなのだが。

 そうなると、爺ちゃんの居る世界を元に、RBDの世界が作られていたってことか?ひょっとして、RBDを作った人間が、今の爺ちゃんのように、異世界からやって来た色人種だったのかもしれない。

 いや、待て。今はそれどころじゃないのだ。

 ひょっとしたら。

 

「爺ちゃん」

「ほ?なんじゃ?」

「実は、この世界も同じかもしれないんだ」


 俺は、俺と照裕が、この世界のように【アビリティ】が存在しない世界からやって来た、と言うことを思い出したように話した。RBDの世界から帰ってきたら、俺と照裕の知る世界によく似た、【アビリティ】のある地球に来てしまったのだと。

 そもそも、あの世界から抜け出した方法だって、力ずくで次元の壁をぶち抜くというイレギュラーな手段だ。何が起こっても、おかしくないと言えた。

 しかし、爺ちゃんは「それはない」と首を振った。

 

「この世界は、間違いなく紫苑たちの居た世界じゃよ。むしろ、変わってしまったのはこの世界じゃ」

「なんでそんな確信が持てるの?」

「何故なら、そもそもわしがこの世界に来た時には、この世界に【アビリティ】など存在しなかったからじゃ」


 爺ちゃんのその言葉に驚いた。じいちゃんは、腕を組み、背もたれに体を預けて虚空を見る。何かを思い出すように。

 

「この世界に来たのは、2年ほど前じゃ。グリーンランドの端に、森ごとわしの居た精霊種の里が転移した。

 最初は何事かと思ったぞ。いきなり地震が起きたかと思うと、森の境界線から先が雪に(おお)われておるのだからな。

 その後、調査ではフォトゥム王国近辺が、丸ごと転移したことが解った。既に存在していた町は、フォトゥムの街と融合しておるし、しばらくは転移をした主犯の動向を探っておった。

 何せ、フォトゥム王国が存在することを、この世界の誰も気にしておらなんだからな」

「フォトゥム王は?」

「同じじゃ。既に、地球の知識を持っており、貿易の航路すら認知しておった。もっとも、それが軌道に乗ったのはほんの半年近く前じゃがな。いや、もっと近いか?まぁいい。

 もう一つの異変は、ロンドンの大学に、『フレーバーズ』という学科ができていることを知ってようやく認知した。その頃にはもう遅く、徐々に【アビリティ】を元々使える人間が増えていきおった」

 

 爺ちゃんは、そう言って一旦茶をすすり、俺たちを見た。

 

「解るか?フォトゥム王国の近辺から徐々に、新しい学問が既に存在していたかのようにふるまい、浸透(しんとう)していくのだ。昨日までは、『【フレーバーズ】が使える国は羨ましい』などとネットに書いておった住人が、次の日には『親の【フレーバーズ】より、自分たちの方が勉強している分、洗練されている』などと書き込まれるのだぞ。

 そして、その時系列の違いについて誰もおかしいとは思わない。

 この世界は、フォトゥム王国の世界に浸食されていった、ということじゃ。だからこそ、お前たちは元々この世界の住人だったとしてもおかしくはない。

 もっとも、それは変貌する前のこの世界であろうがな」

 

 俺は――俺たちは、爺ちゃんの言葉に絶句して、一言も反応を返せなかった。

 だってそうだろう。

 約2年前と言ったら、ちょうどクランバインさん達がRBDに来たと言っているタイミングだ。そのころには既に、この世界は変わりつつあったのであれば。

 Open Eyesは、ハッカーが起こしたコンピューターウィルス事件だ。そのウィルスは、どこを起点としてOpen Eyesをばらまいたのだろうか。それがもし、グリーンランドだとしたら?

 フォトゥム王国を呼び寄せたのが、コンピュータウィルスなんて馬鹿げた話だ。だが、そのバカげた話で、フュンフュールは異世界の一つを、RBDの舞台に上書きした挙句、この世界の住人を呼び込んだのだ。

 そうだ。Open Eyes。俺たちは、照裕をRBDの世界に呼び込んだあのプログラムについて、何も知らない。根本的な原因なのに、それが何かを全く理解していないのだ。

 

「それなら、ちょうどいい話し相手がおるぞ」


 え?

 俺がクランバインさん達の話をして、同じタイミングでRBDに取り込まれた人がいるということ、そしてOpen Eyes事件について話していると、爺ちゃんが突然そんなことを言い出した。

 ちょうどいい人?誰だろうか。

 そう思ったタイミングで、部屋のドアが3回、ノックされた。

 

「開いとるよ」


 爺ちゃんの言葉を合鍵にか、キィ、と音を立てて一人の男が部屋に入ってきた。

 黒いスーツに、室内なのにサングラス――ああ、違う。あれはARグラスか。

 

「おー、来たか」

「突然、精霊()()に呼ばれたのは何事かと思いましたが……。これはどういうことですかね」


 無精髭の生えた、よれよれのスール。火のついていないしけたタバコを(くわ)えたその姿は、いかにもなスパイ的なアレだ。

 こんなテンプレの人初めて見た。

 

「あ、俺達、席を外した方が?」

「いい、いい。むしろ、お前たちが主役じゃて」


 あまり歓迎されていない空気を感じたか、腰を上げた照裕を、爺ちゃんが止めた。俺たちが主役?

 

「マジですか長老。こんな子供に?」

「前田君。わしのひ孫じゃぞ」

「……は?」


 爺ちゃんの言葉に、口を開けて驚くスパイな人。ぽろり、と口の端から落ちたタバコは、虚空で掻き消えた。


 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 前田さんは、閑話で登場していたRBDサーバーの調査をしていたスーツの男性になります。

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