岩虫狩りと待望のアビリティと
「すげぇ……こんなにあっさり終わるなんて思わなかった」
「だろ?コツは任せてくれりゃいいんだよ」
5匹の討伐が終わったら、インベントリに回収された素材を確認して、目的が達成されているかを確認してみる。……あ、そうそう上手くは行かないな。
一方、以前は相当苦労したんだろう、テルヒロがあっさりロックワームを討伐終えたことに、呆然としていた。まぁ、コツさえつかみゃこんなもんよ。
「じゃ、帰るか?」
「待て待て待て待て」
インベントリについて思いを馳せていたら、依頼が終わったから、と帰路につこうとしたテルヒロ。慌てて足を止めさせて、今後も踏まえた説明をする。
「ここには、今後元に世界に戻るための準備も兼ねてきてるんだ。
悪いけど、もうしばらく狩りを頼む」
「そうだったのか」
ゲームであれば、モンスターを倒せば死骸が残り、その死骸を調べることでインベントリにドロップアイテムが格納されていた。しかし現状では調べるまでもなく、倒した冒険者のインベントリに直接、モンスターの死骸が転送されているようだった。
【インベントリ】について説明しよう。インベントリとは、冒険者ギルドに冒険者として登録した際にもらえるギルドメンバーカードの機能の一つであり、ゲーム的なギミックの一つだ。
ギルドメンバーカードの機能は大きく分けて2つになる。どの冒険者ギルドからもお金が引き出せるクレジットカードのような機能と、倒したモンスターを最寄りの冒険者ギルドに送る機能だ。
インベントリはどういう仕組みだかパーティ単位で管理されていて、パーティメンバー全員が同じインベントリを覗くことができる。これは、ゲーム時代では存在しなかった機能で、なかなか興味深い。
パーティ毎とは言っても、逆に言えばパーティを組んでいなければ個人単位のインベントリになるわけだ。そうなると、他の人は自分の見えるインベントリを見ることができない。
ちなみに、「パーティを組んでいる状態」に関しては、ギルドメンバーカードの設定になる。つまり、「パーティを組んでいる」と口で言っていても、ギルドメンバーカードでは個人単位で依頼を受けている設定もできるわけだ。
ちなみに、テルヒロのギルドメンバーカードの設定は俺に一任されている。不用心とは思うが、まぁ信頼されているということでもあるだろう。今回は、ちゃんとパーティ設定しているので、俺が倒しても、テルヒロが倒しても、ドロップアイテムは同じインベントリに入るようになっている。
なお、インベントリ自体はギルドに存在する。インベントリに格納された死骸は、直接冒険者ギルドに納入され、解体される。その切れ端――素材が、冒険者が覗くことのできるインベントリに残る。この冒険者側の取り分が、ゲーム的によく知るドロップアイテムということになるのだ。
RBD世界が現実になることで、「敵を倒してお金が手に入る」だとか「倒した敵の素材が一部しか手に入らない」といった腑に落ちない部分を吸収するようなギミックになっているようだ。
ゲームと変わっていない部分が面倒な部分だけが玉に瑕だ。それは、インベントリの中身がギルドに言って引き出してもらえないと、実物を手に取れないことだ。
インベントリの中を見てみると、『ロックワームの足』が1本、『ロックワームの装甲』が2枚、『未錬成の鉱石』が2個だ。まぁ、こんなもんだろう。
「よし、俺に任せろ」
「ああ。戦闘は任せるぜ」
ついでにカードの機能の一部として、当日の内に、何を、どれだけ倒したかを確認することができる。パーティを組んでいれば、撃退数は共有されるようだ。
つまり今であれば、冒険者ギルドで「5体のロックワーム討伐」の依頼を、当日中に限り即座に達成することができるのだ。
俺は、テルヒロがロックワームを討伐している姿を見ながら、ドロップアイテムの詳細を確認していた。
実は、インベントリの中を見るだけでも、アイテムの簡易的な説明を見ることができるのだ。ゲームのときは特に気にしていなかったが、これが今となってはなかなか興味深いものだった。
気になるのは、ロックワームの足。換金アイテムなんだが、アイテムの種別は【食材】とあった。マジか。
これ食べるのか。そういえば、気にしてなかったけどこの世界の食べ物ってどうなってるんだ?宿屋で食べている肉系は特に○○の肉のナントカ、みたいな料理名じゃないけど。まさか……。
いやいや、考えないようにしよう。
他の採取した素材が目当ての素材で、とにかく数が必要だ。採取依頼クエスト分も達成しているから、後は目的のアビリティを活性化させるまでは、何日かかけてロックワーム狩りをしよう。さしあたっては装備を充実させるための素材集めになるかな。
ロックワームの装甲はメイン所の素材アイテム。主に防具、特に鎧で使われる素材だ。『ロックワームの重装小手』は、腕防具でありながら盾の使い方ができる特殊な防具だ。武器欄を一つ埋めて盾を装備しなくていいので、最初の頃は近接職の必須装備と言われていた。ぜひテルヒロに装備させてあげたいところだ。
鉱石は、名前の通り【錬成】系のアビリティで金属を抽出しないといけない。まだマイハウス――自宅を持っていないので施設がない。道具屋か鍛冶屋で炉を借りないとな。まぁ、レアアイテムだからそんなに量は手に入らないだろうけど。
一見、ドロップアイテムは手動で振り分けているようなシステムに見えるのだけど、ギルド側の言い分としては、インベントリに残るアイテムは完全にランダムらしい。そして、ここにモンスターの討伐で出やすいアイテムと出にくいアイテムが存在する。
判別基準としては、体内に残りにくい、もしくは破損しやすいものがレアアイテムとして呼称されている。だから、レアアイテムの採取依頼なんかも、高額依頼として張り出されているらしい。
……本当かな?
例えばロックワームで言えば、『未錬成の鉱石』がレアアイテムになる。この辺りはゲームのシステムが踏襲されている結果のようだ。ロックワームの主食は石だが、その中の希少鉱石が上手く残って固まったものが『未錬成の鉱石』だ。
なるほど。頻繁にはお目にかからなそうだ。
しかし、先述のシステムのせいで「レアアイテムは、要はギルドが率先して取っていくだけなのでは?」という疑惑がこみ上げる。疑われると嫌だから、たまにインベントリに残すのでは?
そんな邪推をするのは、きっと俺だけじゃないだろう。
それはともかく。
「……お、ようやく来たか」
画面端にお知らせアイコンが出てきたことに気付く。お知らせの中身を見てみると、想定通りの内容だった。
<特定行動により、アビリティを取得しました。
取得アビリティ:【看破】>
【看破】(OFF)
パッシヴアビリティ。ON/OFFの切り替えが可能。
隠れている物を見つける資質。
これが欲しくて擬態持ちを倒し続けたというわけだ。
さて、【スキルブック】でアビリティが覚えられるのは先に行ったとおりだが、実はアビリティの取得方法は二つある。
一つは、レベルアップで手に入る『ステータスポイント』を指定量消費する方法。これは、メイン・サブに設定しているジョブと、キャラクターの種族設定と現在のキャラクターレベル依存で、覚えられるものに制約がかかってしまう。
反面、ポイント消費だけで覚えられるので、お手軽だ。問題は、名前の通り基礎能力の上昇にも必要なポイントと共有であること。
つまり、レベルアップの恩恵を使ってアビリティを覚えるか、基礎パラメータを強化するかはプレイヤー次第だ。俺は、テルヒロに前者の機能で一部のアビリティを覚えさせた後は、残ったポイントを後者につぎ込む予定だ。
そしてもう一つのアビリティを覚える手段が、特定行動を繰り返すことで覚える方法だ。図書館で覚える方法もこれに含まれる。こちらはジョブに関わらず覚えられる上に、取得にステータスポイントが必要ないメリットが有る。
デメリットとしては「覚えられるまで行動を繰り返す」という部分で、なんと目安がないことだ。覚えられない人は何時まで経っても覚えられないし、覚えられる人はあっさり覚える。本を読んで覚えるのであれば、読破すれば確実に覚えられるのだけど。
また、活性化した時点で使えるようになるメリットも有るのだが、アビリティの性能がジョブの影響を受けるデメリットも存在する。近接職のジョブだったら魔法系のアビリティは覚えにくいし、効果も低い。逆に後衛職のジョブであれば、体を動かすアビリティは覚えにくい。
今回の目的であった【看破】は、擬態している敵にファーストアタックを決める光景を見ることで、一定の確率で覚えることができる。ただ、その確率はそれなりに低いので、正直、今日一日かかると思ってた。しかし、まだ日も落ちる気配はない頃に覚えられたのはラッキーだ。
問題は、アビリティの取得が思ったよりも早すぎて、素材がそろっていない可能性。インベントリを見て、何が不足しているかを確認する。
……追加が『ロックワームの足』が12本、『ロックワームの装甲』が23枚、『未錬成の鉱石』が9個……?もう49体も倒している……だと……。
まずい。俺は、覚えたばかりの【看破】をONにして、テルヒロに声をかけた。
「テルヒロ!討伐中止!いったん戻って!」
「え?」
そこには、ロックワームに止めを刺すテルヒロの姿。いとも簡単にロックワームを屠る姿に、俺は原因を理解した。
俺のミスだ。
レベルに見合ってない一撃即死という状況。そのせいで、ゲームの時よりも効率的に討伐できたんだ。
気が付けば、周囲にロックワームはいなくなっていた。このロックワーム地帯には50匹が"確定"で存在する。その全てを狩ることで、イベントのトリガーが引かれるのだ。
【看破】が正常に働き、俺の目の前の地面が赤く光っているように見えた。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。
物欲センサーについての所感になります。誰がセンサーのルーチン組んでるんでしょうね、本当に。