最後の攻防
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ひゃっはあああああぁぁぁーーーーーーーー!!」
「うわあぁぁぁーーーーーーっっ!!」
思い思いの叫び声を上げながら、俺たちは落ちていく。幸い、落下中に回廊の通路に激突して脱落することなく、最下段の通路が視界の端を通り過ぎていった。
落下している時間が30分を超えてから、段々と叫び声が上がらなくなってきた。
慣れた、と言うより、疲れた、と言うほうが正しいだろう。
それに、だんだんと強くなる風圧に、首を水平に保つのも難しくなってきた。
「大丈夫か?」
「だいひょうふ……っ!」
器用に空中を泳ぎ、俺の真下にテルヒロがやって来た。その体のおかげで、俺の体を襲う下からの風圧が和らぐ。
ってか、テルヒロは体を反転させ、俺の方に顔を向けている。背中から落ちているような体勢だ。
「……なんで、あの時、俺を送り出したんだ」
「……あの時?」
「洞窟の、一番下に行った時のことだよ」
突然。テルヒロが表情を曇らせたかと思うと、そんなことを言い出した。
あの時――って、ひょっとして『未来の扉』の一件か?
「そりゃあ……テルヒロに、元の世界に戻ってほしかったからだよ。俺は、後からでも戻れるしさ。
まぁ、結局見当違いだったうえに、最悪の展開みたいなことになってたから、申し訳ないんだけど」
「それはどうだっていい」
いいんかい。いや、良くないだろ。
テルヒロが口を挟んできたので、俺は少々ムッとした。何のために、俺がここまでやって来たと思ってんだ。
――そう思っていたのは、俺だけだったのかもしれない。テルヒロもまた、表情をこわばらせていたのだ。
「俺は!俺は、シオと一緒に帰りたかった!」
「ひぁっ!?」
そして、急に俺はテルヒロの腕の中に抱かれた。……って!
ちょっ……!ちょっ……!!
「今までずっと一緒にやって来たじゃないか!ずっと助けてもらって、それで何も恩を返せないで、俺だけ戻って、俺が喜ぶと思っていたのか!?」
「はっ、いや、あの」
「フォウニーでも!ゼロゴの時も!俺は、お前を守れなかった!でも、ドラなんとかと戦った時は、やっとお前と並べたと思ったんだ!」
「そっ、でっ、さっ」
いや、そこまで出てるなら「イト」くらい思い出せよ。
と、半分冷静な頭が冷静に突っ込んでくれるが、生憎冷静じゃない俺が過半数の俺は、上手く言葉にすることができなかった。
なぜか、テルヒロが俺の手を握り、しかも、握りからが、指と指の隙間に指を通す――そこ、恋人繋ぎってやつ――をしていたのだ。
「俺は、まだそんなに頼りないか!?」
「じゃ、そ、じゃ、く、」
そうじゃなくて、手を放してほしいんだけど。
しかし、なぜか舌が上手く動かない。【麻痺】とかじゃなくて、なぜか。落下の風圧は薄まり、風のせいで口が開けないとかもないんだけど。
何故か。
「シオ。もう、一人で何とかしようとするなよ……」
悲しそうな表情で、そう呟くテルヒロ。
……そっか。
俺は、テルヒロのために、頑張ってきた。そのための下準備は怠らなかったし、テルヒロを最優先に考えていた。
でも、それがテルヒロにとっての重荷になっていたのか……?
……正直に言おう。かなり傷ついた。
俺の思いを、テルヒロが理解していない――なんてことじゃなくて。俺が、テルヒロの不安を理解してあげてられなかったことについてだ。
俺の頭には、どうしても最初にRDBで見つけた時のテルヒロの姿がちらついていた。
でも、今は違う。テルヒロは、ゲームの知識も身に着けているし、俺が諦めた【スキル】の使い方も【アビリティ】の使い方も理解している。
場合によっては、ゲームの前知識に凝り固まった俺の、思いもよらない方法で驚かせてくれた。
そうだ。"照裕"はもう、俺がおんぶに抱っこしなくてもいいんだ。
俺は。
「……すまん」
それだけ、口にした。
何と言っていいか、分からなかったんだ。色々な感情が浮かんで、口にすることができなくて。それでも何か言うべきだという気持ちだけが溢れて、でも頭が追い付いてくれなくて。
ただ、謝罪の言葉だけが、零れたように口から出てきた。
そんなふがいない俺に。
「ああ」
そう言って、破顔する照裕。
あー。ちくしょう。勝てねえな。
「さんきゅ」
「おう」
「あのさ」
「ん?」
「……手」
「て?」
「いや、手。みんな見てんだよ」
そこまで俺が言って。ようやくテルヒロは、周りがだれ一人叫んでないことに気付いたようだ。誰も彼もが、俺たちを観ていた。
「……うわ、すまん!」
ようやく手が振りほどかれて、フリーになった。今更ながら恥ずかしくなったのか、テルヒロの顔が若干赤い。それを間近で見させられている俺の身にもなってくれ。
逃げ場ないんだが。
「ひゅーひゅー」
「へいへーい、お似合いだぜー」
「うるせぇ!」
周りのヤジに、俺は声を荒げて反抗する。
と。
「シオ!」
「むあっ!?」
突然、テルヒロに抱きかかえられた。何事か、と思えば、そのままぐるぐると回転する。三半規管めちゃくちゃだ。アイネトの頭に居る時は、どれだけ視界がぶれても大丈夫だったのに。
ただ、視界の端を「黒い」何かが通って、風圧で俺たちが蹴散らされたのだけは理解した。
「う、シオ。大丈夫か」
「おう……!」
ようやく回転が止まった。しかし心配するテルヒロの言葉よりも、俺の目は落下する先にくぎ付けだった。
『パイルバンカー』の先。大きく口を開けた10本角。放射状のブレスの準備……!思いっきり、俺たちを射程圏内にとらえている。
「やべ」
その言葉を先に言い終わる前に、10本角が吹き飛んで、再び『パイルバンカーの』の射線が通る。
誰がやったのか、なんて確認するまでもない。
ふぅ、助かった。
と。
――ギィィィィィンンンンンン!!!!!
甲高い音が響いた。
『パイルバンカー』持ちのプレイヤーの体が、グングンと大きくなり――。
パリィン、と。何かが割れた音がした。
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次回。ReBuild Dimentions、最終回です。RBDは、ね。




