とある一ファンとして。とある一ゲーマーとして。
「お前、なんて言った。"上書き"した?」
「お、"お前"だと!口の利き方をわきまえろ!」
「うるせぇ三下プロデューサー。答えろよ。なぁ。お前。なぁ。
"どこ"から持ってきたやつを"何に"上書きしたんだ」
「っ……!」
にべもない俺の口ぶりに、一瞬ひるんだ気配を感じたが、再び怒声で帰ってきた。
「お、お前らがよくわかってるだろうが!お前らが使ってたものを、この世界に仕込んでやったんだからな!
お前が偉そうに口をきいて使っているものは、我が与えた慈悲によるものだということを噛みしめるべきなのだ!
なのに、お前たちときたらズルばかりして」
「わかった。もういい。黙れ」
バッサリと。俺は、そいつの言葉を切り捨てた。
つまり、こいつは。
「つまりお前、横着して人が作ったものを勝手に使って、自分が不利になったら文句言ってるわけか。
しかも想定外の理由が、中身を理解せずに使ったからじゃねえか。自業自得だ馬鹿野郎。しかもあれか。この世界、一から作ったんじゃなくて元々あった"何か"を勝手に使ってるな?隅から隅までパチモンかよ」
「んなっ……!わ、我の崇高な目的を、なんだと思ってる!貴様らに迫害された命に、救いの手を与え、復讐の機会を」
『要らぬわ』
口を挟んできたアイネトの、端的な拒否に息を呑む自称"神"。アイネトも、誰に対しての余計なお世話か。当の本人である以上、すぐに理解したのだろう。
『誰が助けを頼んだ。誰が助けてくれと願った。
弱き者共は、その口を開くことなくお前に呑まれ、口を塞がれただけではないか。
ただ見ているだけの外野が、我の生き様に口を出すな』
「親切の押し売り、って言葉でも高級だわ。お前の自己満足を、押し付けてんじゃねえよ。
それでモンスターが狩られてるのも、結局お前が用意した物が原因でやられてんじゃねえか」
ゲーム的に言えば、【スキル】の挙動も【アビリティ】の変化も、一概に言ってただのバグだ。
しかし、アイネトの手前、あえてこう言おう。
「お前に力ずくで押さえつけられた、元の世界が抵抗してんだよ。それが、お前がズルだと言い張る、お前が"負ける"力の正体だ」
「そんな、そんなわけがあるかああぁぁぁぁっっ!!」
再び、赤い光が黒焦げのWE達の体を走る。動かないWE達が急速に回復し、身じろぎして再起動するようだ――が。
『見苦しいわ』
先ほどまで口数が少ないと思ったら、どうも力をためていたようだ。
アイネトが、口を開いた。
瞬間。
「うおっ」
不思議なルールで振り落とされないとはいえ、前方からやってきた猛烈な爆風に、思わずしゃがんで対抗する。
「ぶ、ブレス吐くなら教えてくれ」
俺の苦情に、アイネトは『フン』と鼻を鳴らして答えた。いや、答えてねえな。
さて、アイネトのブレスを受けたWE達だが、視線を上げてみれば――その惨状は、俺の想定以上の状態だった。
中央から離れていることで直撃を避けたツヴァイトは、それでもその背中ごと片羽をえぐられ、見た目3/4しか残っていない。
逆サイドにいたにもかかわらず、ドライトはツヴァイトとの能力差のせいかその身の半分が消し飛び、さらにもがれた体が離れたところに吹き飛ばされていた。
中央近くに陣取っていた残りの二体はさらにひどい。
フユフトは首から全部持っていかれて、残っているのは足だけだ。
メカフィアットは、流石に改造されてる手前基礎スペックが高いのだろう。かろうじて全身の形は残っている――が。しかし、その身から伸びた砲塔はいずれも半ばまで溶け、装甲の継ぎ目から火花を散らしている。
……え?アイネトってこんな強かったっけ。いくらWE同士と言っても、仮にも全員、ラスボスクラスと言っていい耐久値があるはずなんだけど。
俺が唖然とその惨状を見ていると。
『言ったであろう。世界の枷の外れた我は、以前よりも強くなった』
……ひょっとして。以前まで遭遇していたアイネトは、ゲームの制約で上限に達した強化状態だったが、今のアイネトは自称"神"がチートで上限突破状態にでもなっているのだろうか。
自称"神"なら、やりかねない。HP999の世界に、ダメージ10万の世界の住人呼び込んだりすれば、確かに無敵だ。
だが、そうした結果、上限に達した以降のソウル・トーカーとの戦闘で――いや、それに限らず、ソウル・トーカー以外の挑戦された戦闘で得た経験値、全部反映されてる?
だとすると、それこそゲームの比ではない。
こいつはやべー奴です。
……最初の一撃、手加減はしてたんだろうけど。よく生き残ったな、俺。
多分、反射ダメージの最大値がHP依存だから、プレイヤーのそれと、圧倒的な格差を持つレイドボスのそれの差で、そもそも大きくダメージ差が発生したのだろうけど。
「ぐ、く……ば、ばかな……」
自称"神"の、いかにも悔しそうな声が響く。
しかし、その中で行動可能なツヴァイトとメカフィアットに、青の亀裂が走る。傷口が白く光る。
……そりゃそうだ。これでHPが半分になってなかったら、見た目詐欺にもほどがある。
『足掻くな』
しかし、それも許されない。
先ほどの広範囲ブレスは"溜め"が必要だが、俺にも向けられたレーザーブレスは瞬間発動だ。
素早く二回。早打ちされたブレスは、動かない的となった二体のWEの頭部を吹き飛ばした。ぶるり、と震えると、生き残っていたはずの二体のWEもその身を横たえることとなった。
『哀れなる模造品共よ。さらばだ』
それでも、WEという種族である認識はあるのか。そうつぶやいたアイネトの声は、少し悲しそうな気配があった。
『さて、いい加減、児戯も飽きた。戦るなら戦る。さもなくば、去ね。
我は大事な用がある』
アイネトが虚空に語り掛ける。相手は、言わずもがな。
「ぐっ……こ、この、罰当たり共めが……!
この我を、虚仮にして、それよりも、大事な用だと……!」
俺には、別に用事ないんだけどね。
「後悔しろ!神の威光を、その身に刻み、後悔しろ!」
ぶわ、と、突風が吹いた。思わず目を閉じ、開けたところには……。
『……まったく』
アイネトの、あきれたような声が聞こえた。全く、同意だ。
「これは、ダメだろ。やっちゃいけない。冒涜だ」
思わず、愚痴が漏れた。
そこには、5本以上――おそらく、14本――の角を生やした、もはやドラゴンというのも憚られる、アイネトの数倍の巨体を誇る化け物が鎮座していた。
そこには、アイネトを始めとした、共通のデザインから少しずつマイナーチェンジしていたスマートなデザインは、見る影もない。
ただ、WEをくっつけた化け物だ。
『哀れな』
「泣け!許しを乞え!そして、死ね!」
反論は、まさかのキメラWEから聞こえてくるようだった。
『……もはや、言葉も届かぬか』
心底呆れた、という口調でアイネトがつぶやく。しかし、前傾姿勢で構えるアイネト。今までの、棒立ちになって相手できるようなものではないのは明白だ。さすがにアイネトでも手を焼きそうだ。
それなら、俺は俺の役目を果たすだけ。俺たちは、二人で一つのパーティだ。
「……防御は任せろ。攻撃は任せる」
『是非もなし』
いやはや。テルヒロを助けるためのサポート特化がこんなところで役に立つとはなあ。
RBDを冒涜する罰当たりに、RBDの最強が鉄槌を下してくれる。これを手助けしないで傍から見てるだけは、ファンの恥だぜ。
俺たちの、第二戦闘が始まった。
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書いてて、楽しかったです。




