未来の扉
とにもかくにも、ただで通らせてくれない以上は今は作戦タイムだ。
「じゃあせめて、ボスキャラとしてはプレイヤーに情報をくれよ。イベントで負けて終わりは、企画者の望むところじゃないだろう」
『そうかな。私としては君たちの殲滅がイベントクリア条件ではあるんだけど』
「……ん?そっちでもイベントがあるのか?」
『そうだよ。レッドネーム用のイベントだ』
「それが進行中なのか?」
『そうだよ』
なんだって?
ってことは、このスタンピードが運営のイベントではなく、プレイヤーの発生したイベントがカチ合ってる、ってことか?
実際、RBDでは公式以外にもプレイヤーが報酬のアイテムを持ち寄ったりして、疑似的にイベントを企画するような面々もいた。
しかし、スタンピードはゲームシステムでしか発生しない。プレイヤーがスタンピードの場所を誘導することこそあれど、スタンピードを起こすなんて話は、聞いたことがない。
……んん?ちょっと待て。今までしれっと流していたけど、こいつがスタンピードのボスだとして。
「ここって、闇界の洞窟の100階層だよな」
『そうだね』
闇界の洞窟の100階層に待っているボスは――WEの化身のはずだ。
それは、腕試しレベルの裏ボスであって、決してシナリオにかかわる邪教団はかけらも要素がないはずだ。
「ここに元々いたボスは?」
『私がここに待機するために、とっくに討伐してるよ』
な、なんだってー!?じゃ、じゃあここには……。俺は慌てて周囲を見渡して――見つけてしまった。
金属の壁に埋まるように存在する、スライドドアを。
「あ、あったーーーーーーーーーーーーー!!」
「何?どうした?」
俺が突然声を荒げたことに不思議に思ったんだろう。クランバインさんとテルヒロが驚いた様子で尋ねてきた。
俺が指さす方向に視線が誘導され……。二人して首を捻った。
しかし、ガシャン、ガシャン、と武器を取り落とす音も聞こえる。知っている奴もいたのか。
「え、あれがなんだってんだ?」
ピンと来ていないテルヒロに、あの扉が何かを教える。なぜなら、あれこそが。
「あの扉がある、ってことは闇界の洞窟100階層は、今の段階でクリアできてる、ってことだよ!スタンピードは終わっていないけど、それとは別に『未来の扉』が開いている可能性があるんだ!」
「『未来の扉』――って、シオの言ってた地球への出口か!?」
『そうか。ベテランちゃんはそれを期待して、そんな低レベルでここまで来たのか』
「レベルに関しては完全に想定外だよ。おかげさまでな!」
『そうか。しまったな。本当にミスった。まさか動けなくなるとは思ってなかったから、すぐにそこにたどり着くとは思わなかったよ。
君たちが私を倒せる見込みは正直なかったから、抜け道を用意してたのは確かだけど。スタンピードの終息をそもそも目的にしていなかったプレイヤーがいたとはね』
「お前は……」
『未来の扉』をくぐると、その時にダンジョンアタックしていたメンバーは、全て地上に戻される。その後は、同じインスタンスダンジョンに入ることができるなくなるのだ。つまり、ダンジョンの地形がリセットされる。
その時にダンジョンにいるモンスターとかがどうなるのかはわからないが、少なくとも同じ構造のダンジョンは存在しなくなるのだ。
それをもって、メカフィアットの討伐の代わりとするつもりだったのだろう。なんにせよ、このプレイヤーは俺たちを殺すつもりではあっただろうが、死ぬつもりでもあったわけだ。訳が分からない。
はぁ。とため息交じり――実際に息は吐いてないが――にぼやくメカフィアットを見上げて、俺は、ふと思いつくものがあった。
「お前、ひょっとしてTRPGのGMとか好きなやつ?」
『そうだよ。あ、分かる?』
俺の質問に、メカフィアットは今までにないほど嬉々とした声で答えた。
『正攻法じゃ無理なシチュエーションに、抜け道を必ず用意するんだ。個人的には、それすらも使わない、私の裏をかいてくれたらなおうれしいんだけど、困難を突破するために知恵を絞るプレイヤーが好きなんだよね。
もっとも、今の時代でアナログなTRPGをたしなむ人が少ないから、どうしても決まったメンツじゃないと遊べないんだけど。
――だから、こうやって黒幕役をできるこの世界が、たまらなく最高なんだ』
そのせいで、命を失ったプレイヤーがいるのに?
先ほど、ダンジョンにHPを捧げさせられたプレイヤーたちの声は、彼の中ではどういう扱いなんだろうか?すでに邪教団に参加した扱いだから、どこかで復活している?だから問題ないのか?
俺は、その先――彼の価値観――を問いただすのが怖くて、だから別の、思いついた単語を言った。
「『表USB裏』」
その言葉に、メカフィアットはこちらに首を向けてきた。おそらく、きょとんとしているのだろう。
「お前のおかげで、俺はここに来れたよ。それだけは、感謝する」
『……えっ……ええええ!?ベテランちゃん、まさかキミは……!』
とりあえず、鼻は明かせただろうか。
俺は、いまだ動けないメカフィアットの驚愕を尻目に、『未来の扉』へと駆け寄った。
「シオ!お前の予想通りだ!」
すでに全開している扉の前で、テルヒロが俺に手を振っていた。よしよし、予想通りだ。
「これで帰れるのか……?」
「まだ期待するには早い。進もう」
周囲の騎士団の中には、既に涙ぐんでいる者もいた。しかし、周囲から注意され、小突かれていた。もっとも、その周りの騎士団の表情も明るい。
あの『メカフィアット』と戦わずして目的のところに来れたのだ。安堵もあるし、達成感もある。
長い廊下を通り、その先――再びの両開きのスライドドアの前に立つ。
「開けるぞ」
クランバインさんの言葉に、俺――俺たちは頷いた。クランバインさんが扉に手をかけて開くと、そこにはここまでの金属の壁とはうって変わった、石レンガの空間が広がっていた。
円形の台が、地面から一段高く積みあがっている。周囲に、天井を何も支えない石の柱が立ち並ぶ様は、ログイン直後のストーンサークルを思い出させる。
その中央には、人の身長ほどの小判型の光がゆらゆらと揺らめいており、その光の奥にはうっすらとどこかの光景が広がっていた。
それは、建物が立ち並んでいる光景であり、俺たちがこの世界に来るまでに慣れ親しんだ光景。高層ビルと、道路を走る車の姿。
この先が、果たして俺たちの住んでいた世界かはわからないが、少なくとも何かのヒントはあるはずだ。
クランバインさんが、虚空――ARウィンドウを『未来の扉』に向けて、指を動かしている。
「ふむ……入力は死んでいるのか。特に選択しなくてもいいのか?」
「パーティメンバーの入れ替えはできるか?……く、やはりここでは再編成できないか」
「思ったより狭い……?一人ずつが精いっぱいだな」
『未来の扉』の姿を見て、特に感慨を沸かせるでもなくのんきな言葉を放っているテルヒロに、俺は苦笑交じりで話しかけた。
「テルヒロ、先に行ってくれ。俺はゼロゴに連絡とかするから」
「わかった」
なんの疑問も持たずに、俺の言うとおりにゲートをくぐるテルヒロ。その姿に、クランバインさんの慌てる声が放たれる。
「おっ、おい!テルヒロ、一体何を!?」
「えっ?」
テルヒロが、なぜ叱責されたのかわからない、という表情を返す。その顔で、理解したのだろう。
彼が、勝手に「一人しか通れないゲート」に足を踏み入れたのか。
クランバインさんが、俺を驚いた顔で見る。クランバインさんも、知っていたのか。そういえば、スタンピードが終わった後は別パーティで再編の予定だったな。
でも、今はなし崩しでここまで来てしまった。次の機会があるかもわからないのなら、パーティの再編を待つ道理はない。二つに一つなら、これでいいのだ。
「シオ嬢、なんてことを……!君なら知っているだろう!?『未来の扉』を通れるのは、1パーティにつき一人だということを」
「え……」
俺は、徹頭徹尾。"照裕を帰す"ために、ここまで来たのだから。
俺は、ゲートの向こうで呆然とするテルヒロの表情を見て、笑いかけた。
これで、いいのだ。と。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
メカフィアットの中身の人は、良くも悪くもゲーマーとしてこの世界を楽しんでました。ある意味サイコパスの類かと思います。
彼自身は、シオ君の前にこの世界にログインした(してしまった)人ですね。彼の残した動画を頼りに、シオくんはこの世界にたどり着きました。
詳しくは、第5話「蜘蛛の糸」を見ていただければ。




