表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/193

その奥で待つ終焉

 ()()、とも()()、とも反応がなくなった。本格的に死亡状態になったのだろうか。

 納得したような――それでいて、なんとなく()()()()する気持ちのまま、俺はドライトの死骸から離れた。

 

「シオ!ここにいたのか!……どうした?」

 

 俺が腕を組み首を捻りながら、先ほど手に入れた情報を吟味(ぎんみ)していると。いろいろと準備が整ったのだろう。テルヒロが小走りで近寄ってきた。

 

「ああ――いや、大丈夫。何でもない」

 

 今回仕入れた情報は、攻略には何の関係もない、この世界のバックグラウンドのヒントにしかならないものだ。いたずらに頭を悩ませる情報を吹き込んでも、何のメリットにもならない。

 それよりも。

 このスタンピードを終わらせるためには、おそらくスタンプ―どの発生源――闇界の洞窟50階層までたどり着き、大本を打倒さないといけない。

 とはいえその、50階層で待ち受ける"ラスボス"の存在が、今は非常に気になる。

 地上では、邪教団が暴れまわり、本来のスタンピードのボスキャラであるドライトが顎で使われている。

 そして、先ほどのドライトの捨て台詞。

 

 ――貴様らは自分の首を絞めている

 

 ならば、想像に(かた)くはない。スタンピードの大本は、ほぼ間違いなく邪教団の教祖だ。

 しかし、だとすれば気になることがある。イベントになるようなモンスターの暴走(スタンピード)を、ワールドイーヴィルでもない1NPCが可能なのか?

 よしんばプレイヤーだとしても、例えばゼロゴのような裏ボス版クルーエルマージに変貌していたとして――いやいや。ゲームでは、邪教団の教祖は出てこないものの、どんな邪教団の幹部も、あくまでワールドイーヴィルの力を借りている者たちだった。

 決して、ワールドイーヴィルをけしかけるなんてことはできない……はずだ

 謎は深まるばかりだが、考えを止めることはできない。

 俺たちにコンティニューなんてないし、この先に待つのはこの世界のボスキャラの上に君臨するような存在だ。

 何にせよ、不透明だからと思考を止めることはできない。警戒するに越したことはないのだから。

 

 *--

 

 ――という意気込みを裏切るように。

 俺たちは何事もなく、49階層にたどり着いていた。()()()()()、だ。

 そう。ここまでの移動に、たった一匹も、モンスターと遭遇していないのだ。

 さすがに、怪しい。

 テルヒロですら、眉を(ひそ)めて常に周囲を警戒している始末だ。ひょっとして、この15階層以上を、緊張感を切らせないことで消耗を狙っている?

 この先は50階層。入って5秒でラスボスだ。なぜなら、50階層はこれまでの迷路じみた洞窟のような構造ではなく、表ダンジョンの()()を飾る、ラスボス用の大広間しかないのだ。

 俺はチャット画面を開いて、クランバインさんに連絡した。

 

「――……全軍、停止!ここで小休止をとる!

 結界は最高出力!総員、次の戦いに備えて休憩、補給せよ!」

「テルヒロ、ちょっと付き合って」

「おう」

 

 クランバインさんから、休憩の号令が言い渡された。俺は、テルヒロを伴って、クランバインさんの元へ向かう。

 

「クランバイン団長!」

「おう、テルヒロ、とシオ嬢か。こちらからも呼ぼうと思っていたところだ」

 

 テルヒロの呼びかけに応えたクランバインさんは、こちらを見ると手招きで呼んでくる。どうでもいいが、テルヒロ。お前、クランバインさんのこと、ちゃんと"団長"って呼んでたんだな……。

 ……ん?ゼロゴからチャット?

 

<ゼロゴ:そちら、何か倒したか?

 シオ:いや、トライド以降はなにも。どうした?

 ゼロゴ:邪教団が撤退した。根元、倒したかと思って>


 なぬっ?


「む……シオ嬢。どうした?」

 

 俺がゼロゴのチャットメッセージに目を剥いていると、クランバインさんが俺の様子に気に留めたか、そう尋ねてきた。

 俺は、ゼロゴにクランバインさんにも現状報告を頼んだ。クランバインさんもまた視線をずらしたので、ゼロゴからのチャットを見たようで、「むぅ」とうなって腕を組んだ。ゼロゴも、通話チャットに参加することになる。

 現在の通話チャットは、会議の体をなしているので制限がないフルオープンだ。参加者が思い思いの意見を並べるのが聞こえてくる。

 

「邪教団が逃げた可能性としては、俺たちがここ(49階層)に到達したから、か?」

「だとしたら、こちらの行動は筒抜け、ということか。モンスターは?」

『モンスターは、ワールドイーヴィルを撃破したことで、洞窟のHPが枯渇(こかつ)したと考えていいんじゃないか?』

「なるほど……」

『団長、どうしましょうか。地上から増援を送りますか』

「……いや、地上部隊はこのまま待機のほうがいい」

 

 ヴォルテさんの意見に口をはさんだのはテルヒロ――に指示した俺の意見だ。

 どういうことだ、というみんなの視線から隠れるようにテルヒロの背に回り、視線から何とか外れようとする。

 うーん。気分は頭脳は大人、見た目は子供な名探偵だ。テルヒロに麻酔針打ち込んだりはしないけど。

 

「今回の仕掛け人は、明らかにモンスターじゃない。地上の事件とスタンピードの動き、明らかに連携しているようにしか思えない。

 つまり、向こうはシステム的なタイミングで自動的に進展するような動きじゃない。明らかに戦略が組める頭を持っている、と考えたほうがいいと思う。

 それなら、地上の戦力が抜けたところに、再度の襲撃をかけられると王都が危険だ」

『確かに。僕が残ることになったとして、流石にスキルなしじゃ、手が追い付かないな』

 

 ゼロゴが同意してくれた。

 

「この先に待っているのは、ほぼ間違いなく邪教団の教祖だと思う。だけど、洞窟のHPは尽きているのは間違いない今、洞窟の中で相手に増援は呼び出せないはず。

 ボス単体とのクラン戦であれば、今の戦力で対応できないでしょうか」

「消耗品の損耗は、騎士団のアイテム倉庫で賄うことができた。あとは当人たちの消耗次第、か」

 

 テルヒロの言葉を受けて、クランバインさんは周囲を――騎士団の面々、そして協力しているクランのメンバーの様子を見回した。

 先ほどまで、トライドと戦った被害で2割ほど撤退してしまっているものの、この場に残った面々はいずれもいまだやる気に満ちている。戦意はみなぎっているとみていいだろう。

 やる気の熱気は、俺ですら感じられる。

 

「うむ。では、地上部隊は現状維持。奇襲に注意しつつ、王都の守護を頼む」

『了解しました』

『シオさん、後は頼む』

 

 もちろんだ。俺は、チャットでサムズアップのスタンプを送って、会議は終了となった。

 

「総員、戦闘配置!スタンピードを、終わらせるぞ!」

「「「おおおーーーーーーーーーっっ!!」」」

 

 部隊の補給も終わり、再び陣形を組む俺たち。

 クランバインさんの号令とともに、俺たちは次の階層――闇界の洞窟の50階層に足を踏み入れた。

 しかし。

 

「……?なんだ?どうなっている?」

 

 俺たちが足を踏み入れた50階層は、だだっ広いボスエリアが広がるだけだった。そこに待つものは、人っ子一人、影も形もない。

 まるで、ボス戦が終わった後の状態だ。

 あまりにがらんとしているため、クランバインさんも呆然とつぶやくしかない。

 おかしい。

 このフィールドはボスエリアだ。邪教徒の塔のようなインスタンスエリアであり、新しいパーティが侵入した時点で、既に侵入している別のパーティとは別のフィールドに飛ばされる。

 フィールドは()()()()で用意されるはずなので、事前に罠などが仕込まれているはずはない――はずはないんだ。

 しかし、ボスもいない、なんてことはない。スタンピードでなければ、ここには表ダンジョンのトリとしてドラゴンゾンビがいるはず。今のスタンピードイベント中ということで設置されていると思われた、邪教団の教祖(仮)がいないにしても、もともとのボスもいないのは不可解だ。

 スタンピードが終わっているなら、リザルト画面が出るはず。ドライトがボスだとしたら、討伐した時点でリザルトが出て、イベントが終わる。イベント終了まで死体が残るバグも、発生しないはずなんだ。

 俺たちは、慎重に周囲を警戒しつつ、ボスエリアを進んでいく。

 ――そうだ。ボスがいないなら、この階層には入り口にワープする脱出口が出てるはずだ。そこから出るまで、スタンピードのイベントが終わらない、ということか?死体が消えないバグのせいで、うちに帰るまでがイベントです、みたいな判定になっている?

 うーん、わからん。

 

「取り越し苦労か……?」

 

 さすがに何もなさ過ぎたか、クランバインさんの口からそんな言葉が漏れた。俺も、ボスではなく、脱出ワープ口を探すべく、目を凝らして周囲を見回した。

 ――!?

 

「やべぇ!?」

「なんだ!?」

 

 思わず俺が声を荒げると、すわ何事か、と全員の視線が俺を向く。

 ひえっ。

 しかし、俺が顔を青くしたのもつかの間。彼らの視線はすぐに外れる。俺が声を上げると同時に、"そこ"を指さしていたからだ。みんながそこを向いた刹那。

 俺たちの足元から、閃光が(ほとばし)った。

 俺が見たのは、脱出口ではない。5()1()()()()のワープができる、魔法陣の起動の瞬間だった。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 裏ダンジョン編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ