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冒険者登録RTA

人力土壇場RTAが最速で終わるわけはないんですよねぇ……。

 宿に着いて部屋に戻ると、ちょうどテルヒロが起きたところだったようだ。ベッドから抜け出して、屈伸で体を伸ばしているところだった。


「おはよう。ゆっくり休めたみたいだな」

 

 パーティにしか見えないテルヒロのHPが満タン、状態異常のアイコンもついていないことを見て取って、俺は心底ほっとした。

 だって、昨日のこいつと来たらボロ雑巾もいい所、頬はこけてるわ目は死んでるわ。本当、心配したわ。

 ちなみに、テルヒロのフレンド登録とパーティ作成は、昨日の内にしてある。リーダーはテルヒロだ。

 俺が入ってきて硬直していたテルヒロだったんだが、俺が気軽に話しかけると、ようやく俺が誰だということに気づいたようで、ほっと息を吐いた。

 

「お、おう。紫苑か。慣れないな、その格好」

「慣れてくれ。すまんな」


 格好か……まぁ、見慣れない服装ではあるだろうな。ちなみに、俺の衣装はまだ初期装備のままだ。

 初期服装というのは、最初に取得した戦闘スキルに依存する。つまり、装備を整える余裕のない序盤の服装は、キャラメイクで選んだアビリティでほとんど固定となる。初心者は皆同じ格好になるのはネトゲのお約束だ。

 その中で俺が選んだのは【補助魔法使い】系の構成(ビルド)。体力や防御力に全くパラメータを割り振らず、魔力一択の極振り構成。

 もちろん、直接戦闘する能力は低い。これには理由がある。近接戦闘はテルヒロに全任せをするので、この構成にしたのだ。せいぜい、キリキリ働いてくれたまえ。

 ちなみに、逆パターンだと?

 ……テルヒロが、タイミングが大事な補助スキルを使いこなせるわけがないんだよな……。十中八九、開幕全盛りで敵のターゲット(ヘイト)集めて死ぬ未来しか見えない……。

 それはともかく、今の服装はアビリティに基づいた初期装備だ。【魔物知識】の取得により『初級学者のコート』を手に入れ、【錬金術】の取得により追加の『アイテムポーチベルト』を手に入れた。両方とも、この街の図書館で取得できないアビリティだ。

 メイン武装は『辞書』。魔法効果を増幅させるこのジャンルの装備は、近接攻撃として本自体を鈍器として振り回す。頭がおかしいのは、そのモーション。モーニングスターのように、鎖で繋がれた辞書を振り回して攻撃するスタイルであること。

 そう、この装備は中距離用なのだ。そもそも、このゲームだと、本を装備したところで魔法を使うにも本を開くことはない。本を封じるように十字に縛られた鎖を解くことはないし、むしろその鎖が主武装になるレベルだ。ゲーム画面で初見のときは馬鹿笑いできたけど、いざ使う側になると冷静に見なくても頭おかしい。魔法効果の補正が優秀なので手放せないだろうけど。

 ――ああそうだ。

 

「今日からこの装備を使ってくれ。」

 

 ついでに、テルヒロが初期装備を破損しきってしまっていたので、新しく俺が買い揃えたものを机の上にぶちまける。

 ――とはいえ、予算はギリギリのギリで上等なものじゃない。初期装備の『初心者用 革鎧』と同じ性能しかない上に色違いでしかない『簡易(レッサー)(レザー)(アーマー)』と、急所を守る補助装備『ポイントアーマー』、耐久度が初期装備よりも高い代わりに、データ上の攻撃力が実は1低い『劣化鉄のブロードソード』。

 ほんと、最低限の用意だから早々に金を稼がないとな。テルヒロにも恐縮しながらも、流石に必要だということは理解しているようで、快く受け取ってもらえた。

 装備を整えたところで、冒険者ギルドにまだ登録していないことを思い出した。

 ――っていうか忘れていた。テルヒロがいるし、冒険者ギルドの登録に再チャレンジしよう。

 

「テルヒロー。今から仕事探しに冒険者ギルドに行くぞ。

 あと、ついでに俺も冒険者登録するから」

「……おう。わかった」

 

 まだ少し腰の引けているテルヒロと一緒に、改めて冒険者ギルドへ向かった。

 依頼を受けること事態が、今はお前も怖いんだろうけど、俺も怖いんだぞ。違う意味で。

 

  *--

 

 冒険者ギルドに入ると、やはり既に屋内にいる冒険者たちがこちらを見る。だが、今の俺には秘策あり。俺は、すかさずテルヒロの後ろに回り込む。

 これぞ、テルヒロシールド。

 

「なんだ?どうした??」


 俺の行動に驚くテルヒロだったが、辺りを見回して納得いったようだった。そのまま俺を引っ張り出すことなく、俺の手を引いて先に進んでくれた。こいつは、自分も冒険者として再度活動を始めるのは怖いだろうに、俺の人見知りについても知っているのだ。何とも心強い。

 テルヒロシールドで視界を遮りながら、俺はギルドの受付までたどり着くことに成功した。ギルドの受付は一つ目の女性――女サイクロプスだった。ちょっと目じりの皺が気になるお年頃、と言う感じだ。

 

「あら、テルヒロさん!綺麗になって!どうしたの?」

 

 テルヒロの様子に、受付嬢のおばちゃんが驚いた声を上げた。まぁ、確かに昨日までのテルヒロはひどかった。イケメンが台無しになるボロ雑巾状態だったのだから。

 今は、身綺麗にして、伸び放題だった髭もちゃんと剃ってある。こけた頬も、昨日一昨日とちゃんと食べさせたことで少し頬骨が目立つ程度までには復活していた。以前のテルヒロを知っていれば、確かに何事かと思うよな。

 

「実は、昔の友人と合流できまして。情けないですけど、いろいろ手助けしてもらったんです」

「そうなの!よかったわ。依頼を受けに来る度にボロボロになっていくから、心配してたのよ。その様子なら、もう大丈夫そうね。

 その、後ろの子、お友達?」

 

 俺に話題が移ったので、テルヒロシールドから顔を出す。受付のおばちゃんと目線が合う。

 ……うっく。ただでさえ人と目を合わせるのが苦手な上に、サイクロプスの目力がすごい!

 思わずひるんだ俺を、テルヒロが背中に手を当てて補助してくれた。思わず顔を見上げると、テルヒロが「大丈夫」と言ってくれる。

 ふー。

 一旦深呼吸をして落ち着く。よし、大丈夫。俺は大丈夫。

 

「シオ、です。冒険者登録をしたいです。

 【メイン】は【錬金】、【サブ】は【戦僧侶(いくさそうりょ)】、です」


 何とか、要件を伝える。メイン、とかサブ、と言った内容は、【ジョブ】というキャラクターの得意な行動だ。

 俺のしどろもどろなその様子に、テルヒロが苦笑しながらフォローしてくれた。

 

「すみません、こいつ、ちょっと口下手なところあって。今日は冒険者登録をお願いしたいんですが、いいですか?」

「ええ、大丈夫よ。代筆は必要かしら?」


 代筆?そういえば、この世界の文字は書けないな。流石にそんな細かいところ覚えてない。

 確かにアビリティの中に【筆記】があった。将来的にはどんな言語の文書もかけるようになる、というフレーバー(設定だけ)アビリティだ。……勿論、そんなもの覚える余裕はなかった。

 と、いうわけで5 Gを支払って代筆をお願いして冒険者登録を済ませた。

 ――待っている間に、【ジョブ】について少し語ろうか。

 キャラクターを作る際に、プレイヤーは前もって生まれながらの資質を二つ選択することができる。これが、【ジョブ】というアビリティとは異なるプレイヤーの肉付けだ。メインは選択した資質の恩恵を100% 受けることができ、サブは75% だ。

 さっきもいったが、俺が選んだのは【補助魔法使い】系の構成だ。テルヒロが完全前衛なので、補助を主軸にした構成にしたのだ。

 【錬金】は回復や補助のアイテムを作ることができる資質、【戦僧侶】は魔法による回復能力の資質だ。回復は大事。

 ちなみに、【戦僧侶】ではなく【祈僧侶(いのりそうりょ)】と言うものもあるが、こちらは回復能力が【戦僧侶】より高い代わりに、攻撃力は皆無になるし、防御力も不安になるレベルになる。また、【祈僧侶】には装備に制約が発生するので、多少効果が低いものの、制約の少ない【戦僧侶】を選択している。

 回復能力を後天的なアビリティ取得で(まかな)おうとすると、まずは教会で【僧侶】アビリティを身に着ける必要がある。

 しかし、この時既にセットしてあるメインかサブのどちらかに【僧侶】の名前を含むジョブが選択されていない場合、【戦僧侶】程度の回復能力と、【祈僧侶】の装備制限がかかるというデメリットまみれのアビリティだ。

 その後、【僧侶】を熟練させた後に、ランクアップと言う形でようやく【戦僧侶】と【祈僧侶】のどちらかを選ぶことができるようになる。ここまで来てようやく、ジョブではなくアビリティでそれぞれの資質と同程度の回復能力を得ることができるのだ。

 【僧侶】を熟練化させる手間も考えると面倒だが、回復能力は補助に回る以上どうしてもほしい能力だった。なので、キャラメイクの時に選べる特典として、前もってサブ側に選択しておいたのだ。

 逆に【僧侶】の名前を含むジョブが選択されていれば、資質が対応するアビリティの効果に補正がかかるのだが……正直、今は考えなくてもいい手間だな。

 それはともかく。

 かくして、いつもは如何に早く終わらせるかをチャレンジしていた、キャラメイクからの冒険者ギルドの登録時間は、過去最長の8時間32分を記録したのだった。

 ……後日聞いたところによると、俺の姿はテルヒロにくっついてきた"ひよこ"の様で微笑ましかったとか。ついでに先程、俺が初めて冒険者ギルドに立ち寄った時に居た冒険者達は、即座に逃げ帰った俺の様子と、後で俺がテルヒロに伴われて冒険者登録に来たことで、テルヒロにお使いを頼まれた女の子をビビらせてしまったようだ、と罪悪感にしきりだったそうだ。

 解せぬ。

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。いつもお世話になっております。


本が武器になっているのを最初に見たのはテイルズ某の一作目ですね。あれは、笑った。

その後のモズ○ス様の説得力よ。

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