WE撃破…?
ドライトだけではなく、アイネトを始めとして、WE戦は前半戦と後半戦に分かれる。後半戦は、表皮がはがれる演出の通り、前半戦の能力と比べて攻撃力が跳ね上がる代わりに防御力は最大半分まで下がる。
これは、ワールドイーヴィルがメインストーリーとは絡まないもののRDBのラスボスのようなポジションであるからだ。爽快感のある戦闘を演出するために、前半戦でジリジリとした戦略メインの歯ごたえのある戦闘を、後半戦で大ダメージを頻発させた描写がデザインされているのだ。
そしてもう一つ。後半戦の目印である第二形態は、変身の際にフィールド内にいるプレイヤーにダメージを与える演出があるものの、変身後は一度でも攻撃が入ることで後半戦の戦闘が始まる。
第一形態と第二形態ではパラメータが大きく変わるので、準備するタイミングが用意されているのだ。
「総員、戦闘態勢!鶴翼の陣形!
損傷のあるプレイヤーは後方に退避!回復を!」
本来なら、第二形態に入った時点で他のプレイヤーが――それがたとえ同じパーティの面子であっても――バトルフィールドに乱入することはできない。
しかし、今は特殊な状況であるので、クランバインさんら本隊のメンバーが続々と、俺たち後衛組の前に立って、盾役として盾を構えていく。
「シオ!」
「テルヒロ、おつかれ」
その隙間を縫って、テルヒロが俺の近くに近づいてくる。俺も、ねぎらいの言葉を送りながら近づく。
「完ペキ完璧!やったな!」
「おう!」
テルヒロは、満足感のある笑顔を浮かべてサムズアップしている。
まったく。ハラハラしたものの、こいつは見事やり遂げてくれた。おかげで先行隊を含め、テルヒロ以外の戦力を攻撃に傾けることができたのだ。
間違いなく、前半戦のMVPだ。
「後は任せろ。後ろに回って、補給と回復に回ってくれ。
あとは、クランバインさん達に任せられるから」
「わかった。気を付けてな」
テルヒロは、そう言って部隊の後方に走っていった。
一方の俺は、ドライトと対峙する前衛の後ろに回る。
鶴翼の陣形――三角の辺をドライトに向けるような体制だ――で、三列に騎士団が並ぶ。斜線に並ぶ盾役一人につき、一人の長距離攻撃役、そして後方支援が並んでいる形だ。
人の流れこそあるものの、誰もがその意識をドライトに向けている。こちらに視線が向けられていないのが明白なので、俺もこの集団の中に紛れ込める。
……いや、やっぱり不安だな。ちょっと怖い。
「隊形、完了しました」
「よし!目標、ワールドイーヴィル!
防御態勢、準備!」
先ほども言ったが、ワールドイーヴィルの第二形態はこちらの準備を待ってくれている。開戦は、最初の攻撃をうけてから、だ。
……ちなみに、有名な"ドライト対策"としては、この最初の一撃で極大威力の魔法攻撃でワンパンする、という方法もあるが、今の騎士団のレベルではこの対策は取れない。
そしてドライトの開戦は、最初の一撃はターン制と言っていい。初撃を無防備で受けるドライトは、そのカウンターとしてダメージのある【咆哮】を発動する。
この【咆哮】。ドライトを起点として扇状に範囲を持つ、第二形態から使いだすドライト唯一の長距離攻撃だ。
唯一であるがゆえに、得意分野ではなく火力は低い――わけではない。むしろ、最大火力と言ってもいい。
さらに、属性を持たないために基本防御力だけで受けなくてはならず、基礎防御力以外の要素でダメージが軽減できない。しかも雄たけびを受けると確定で【吹き飛び】の状態異常を付与される。
咆哮は、この初撃のカウンターだけではなく基本行動の一つなのが厄介なところだ。
クラン戦で、ドライトに対して鶴翼の陣形を取るのは、この咆哮が扇状の効果範囲であることが原因だ。
一番離れた陣形の中心が【咆哮】のターゲットになることで、両翼のメンバーが攻撃に専念できるのだ。
もっとも、中央のプレイヤーは被害が甚大なので、様々な対策が必要にはなるものの、こちらにも対策はある。
「攻撃準備!カウント開始!3、2」
カウントに合わせて、射撃攻撃役に魔法の光が灯り、弓につがえた矢が引かれる。
「――1、ぅてぇっ!」
放たれる。
【スキル】を持った矢と魔法の光が、流星のように尾を引いてドライトに殺到する。
「ーーッ、ガアアアァァァァアーーーーー!」
着弾と同時に、ただ聳え立ってこちらを睨んでいたドライトから、明らかな威圧感が放たれた。
苦痛の声が喉から洩れ、その開いた口が、こちらに向く。
咆哮の予備動作に反応し、後衛の面々から、盾役に「遠距離攻撃」のダメージを減らす補助魔法がかかり、盾役は貫通効果を防ぎ、自分よりも後ろにいる面々にダメージが行かないようにするアビリティを発動する。
――あっ、ちょっと早くね?
「「「【ストッピングカバー】」」
「「「【ウィンドガード】」」」
「【ウィンドガード】」
ワンテンポずらして、俺も【スキル】を発動する。
襲い来る【咆哮】の物理的な圧力が、荒れ狂う暴風と砂煙と共にこちらに向かってくる。
「ぐくっ……!」
「うむっ……」
「……あれ?」
ダメージこそ来ないものの、巻き起こる砂煙は防げないようだ。盾役の苦しげな声とともに、砂ぼこりが目や口に入らないように思わず呻く、俺含む後衛陣。
しかし、俺の前にいる盾役だけ思ったよりもダメージが来なかったせいか、気の抜けた声が漏れた。
「……――ん?」
「グゥルルルルルル……」
と、クランバインさんが気付いたようだ。ドライトが、追撃も移動もなく、顔を背けてびくとも動いていないことに。
俺の【ウィンドガード】が【ジャストガード】タイミングで発動したことで、逆にドライトに【吹き飛び】が発動したのだ。
「チャンスだ!攻め込め!」
「うおぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!」
クランバインさんの号令とともに、ドライトにとびかかる両翼の面々。怯んでいる状態であるドライトには、ストンピングや尾を気にせず接近することができる。
第一形態よりもなお火力の高いドライトの近接攻撃をかわしつつ、ターゲットを分散させるのが王道の戦略ゆえに、たどり着くまでが苦労する。しかし今回は、幸運にも【吹き飛び】が発動したことで、最大の問題点が解消できた。動けないうちに、【アビリティ】を駆使することであっという間に背金銭を挑むことができたのだ。
そうなってしまえば、話は早い。仮にも王都を守る騎士団の面々。レベルも十二分に鍛えられた面々の攻撃で、防御力の下がったドライトは、怯みが治ったところで十分な攻撃をする間もなく。
「グッ……ガッ……ガアァァァァァァ……」
戦闘開始からわずか10分くらいか。あちらこちらにターゲットを向けているうちに全身に傷を作ったドライトは、断末魔の声を上げて、重い音を立てて大地にその身を横たえたのだった。
ふぅ。終わったか……。
「……?」
あれ?
全員が、武器を構えてその様子を注視しているが、ドライトが立ち上がることはない。しかし。
……リザルト画面が、出ない?
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
ゼロゴくんの戦闘でもそうですが、ワールドイーヴィルの戦闘が終われば、「congratulations」のウィンドウが出るはずですが…?




