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VSドライト

「【ヘイトクライ(こっちを向け)】!おぉらっ!」

 

 ドライトの側面から突っ込んだテルヒロは、雄たけびを上げながら一撃を叩きこむ。他の盾役(タンク)に向いていたドライトの顔が、(わずら)わしそうな表情とともにテルヒロに向いた。

 テルヒロの発動した【ヘイトクライ】は、スキル発動後、次の攻撃がヒットした相手のターゲットが向きやすくなる、ヘイト誘導型のアビリティ【ウォークライ】派生で覚えるスキルだ。

 ドライトの「攻撃を受けた相手に、次の攻撃を返す」というルーチンのおかげで、テルヒロが攻撃した以上、必ず次の攻撃はテルヒロに向く。しかし、ダメージが足りないおかげもあって、ドライトは顔を向けるだけで体を向けることなく、長い尾で()ぎ払いを仕掛けてテルヒロに反撃を仕掛けた。

 しかし、テルヒロは縄跳びのように飛び上がって振るわれる尾を避ける。さらに、宙返りついでにしっぽに一撃、斬りつけるおまけ付きだ。

 

「グウゥ……」

 

 さすがに煩わしさより、ダメージに対する苛立ちの方が勝ったか、警戒するような(うな)り声を上げて体ごとテルヒロの方へ向き直る。

 

「交代します!今のうちに回復を!」

「無理するなよ!」

 

 テルヒロは、先ほどまでドライトと戦っていた盾役のプレイヤーに声をかけて、交代を促す。それだ、絵3~4人でドライトの相手を(まかな)っていたが、ジリ貧で追い詰められ続けて今や、テルヒロが一人でドライトに立ちふさがってもおかしい様には見られていない。

 ドライトは、そんな俺たちの都合など気にしない。声をかけるテルヒロに、愚直に前足を使ったストレートパンチを繰り出した。

 

「ふッ……!」

 

 テルヒロは、紙一重でそれを(かわ)す。体とドライトの腕の間にブロードソードを滑り込ませ緩衝材にして、確実に直撃を避けていた。

 さらに、ガリガリと音を立ててドライトの腕を滑るように懐に潜り込み、その足の付け根に大きく振りかぶった一撃を加える。

 生物の皮に剣を叩き込んだとは思えないようなカン高い金属音とともに、テルヒロの腕が大きく弾かれてしまった。

 テルヒロの体の動きが止まった瞬間、ドライトの巨体がふわりと浮く。【ボディプレス】だ。ドライトに接近戦を挑むと高確率でカウンターじみたパターンで発生するそれは、ドライトの体周辺を攻撃範囲とした強力な攻撃だ。

 テルヒロの頭上から襲ってくる超質量。ズン、と洞窟全体が震えるような振動と音とともに、ドライトの腹の下から、その重量の圧から猛烈な風と土ぼこりが巻き上がった。

 

「――ゼぁっ!」

 

 しかし。

 テルヒロはすでに腹の下にはいない。ドライトが見据えていた腹の下のテルヒロは【ウェイブシャドウ(残像回避)】の効果で残った残像に過ぎない。攻撃がはじかれるのは想定済みだったのか、テルヒロは弾かれた腕に逆らうことなく、体ごと大きく吹き飛ばされ、距離を取っていたのだ。

 そして砂ぼこりにまぎれて、ドライトの眼前に飛び上がった。

 突然目の前に、上段を大きく振りかぶったテルヒロが表れて、ドライトはどうにも驚いたらしい。

 

「クぁっ!!――……ッガ!?」

 

 大きく口を開き、テルヒロに噛みつこうとしたのだ。確かに、テルヒロの軌道はドライトの真正面。大きく口を開ければ、勝手に口の中に飛び込んでくるような形だ。

 しかし、テルヒロの繰り出した薙ぎ払いの【スラッシュ】は、開いた口を潜り抜け、その無防備な喉元へと叩き込まれた。眼前に見えたテルヒロの姿は、既に落下を開始して喉を狙っていたテルヒロの【グラスシルエット(分身)】による虚像だったのだ。

 的確な攻撃を加えつつ、しかしドライトのHPは目に見えるほど減っているわけじゃない。(ひる)みもなく、不快さを表情に表しながらもドライトは暴れ、テルヒロに攻撃を仕掛けていく。

 テルヒロも、攻撃を(さば)き、躱して直撃を避けていくが――あ、それはいかん。危ない。

 

「【エアロ(【自然魔術:風】)ブラスト(【自然魔術:火】)】」

 

 俺の発動したスキルはドライトの顔の()()で発動し、ドライトの攻撃の出初めをつぶす。

【エアロブラスト】は、圧縮した空気を高熱で爆発させる魔法だ。火力こそ期待できないスキルではあるが、【怯み(スタン)】と【驚き(ノックバック)】の副次(ふくじ)効果が期待できる魔法スキルだ。

 ドライトは物理攻撃とそれに伴う身体的な状態異常に強いが、【驚き】は物理攻撃系のスキルで発動する【吹き飛び(ノックバック)】の魔法版だ。体力や防御力ではなく、魔力・精神力判定で抵抗されることになる。それはドライトのパラメータでも低めの能力だ。

 俺の期待通り、ドライトはビクリ、と顔をこわばらせて体を硬直した。その間に、攻撃範囲からテルヒロは飛びのく。

 

「っ!【ヘイトクライ(こっちを向け)】!」


 こちらに首を向けるドライトに、再び目標(ヘイト)誘導スキルを纏ったテルヒロの一撃が繰り出される。

 こちらに向いたヘイトは、無事テルヒロへと戻る。

 テルヒロはブロードソードを武器として、時には盾として巧みに取り回しながら攻撃をかわしながらもダメージを与えていく。

 擦り傷や打撲は、【オーバーリバイブ(自動回復加速)】の効果で自然治癒できているはずだ。

 

「すげぇ……あれでレベル下なのかよ」

「うまいな……」

「おい、お前は傷の手当てに集中しろよ」

「あ、おお、すまん」

 

 テルヒロの一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)に気を付けつつ、適当な箇所でサポートのスキルを放ち、ドライトの直撃を受けないように、かつ俺にヘイトが向かないようにと戦いを展開していく。

 ただ、どうしても"間"ができてしまうのだが、そのスキに近くの、あるいは背後からテルヒロの奮闘への感嘆の声が聞こえてくる。

 ふふん。そうだ、テルヒロはすごい。

 俺だったら、あそこまで超接近戦を挑んで、あんなに的確に回避と攻撃を選択できるだろうか。

 まして、ドライトという巨大なドラゴンの手足を躱しながら、あそこまで接近し続けられるだろうか?

 十中八九、無理だ。

 テルヒロだって、()()()無理なはずだ。しかし、あいつは俺を信用してくれた。俺の作戦を信じてくれた。それなら、俺はテルヒロが万が一の事故に()わないように立ち回るだけだ。

 ――と、言うかだな。

 

「……あ!そ、総員!攻撃!

 彼一人に負担を集中させるな!」

 

 ふと気づいたか、班長の一人が声を荒げる。

 今、ドライトは他の盾役がヘイトを集めようと奮闘しても、テルヒロの立ち回りが近すぎてそのターゲットを奪えていない。

 つまり、攻撃部隊に対して、常に背を向けている状態なのだ。

 背後からの攻撃は、バックアタックボーナスがつく。

 回復や、ヘイトを集めないように攻撃を控えていた面々も、武器を構えて戦意をみなぎらせたようだ。

 そう。今がチャンスなんだ。

 矢と、攻撃魔法が、無防備なドライトの背に放たれる。


「グぁッ!?グルルルル……!」

 

 いきなりの特大ダメージのせいか、さすがに捨て置けないと首をこちらに向ける。しかし、尾の範囲からも大きく離れた俺たちに攻撃するには、多少の移動が必要だ。

 巨体のドライトは、移動のためには体の向きを反転させる行動が必要だ。

 

「まだまだ!さぁ、【ヘイトクライ(こっちを向け)】!」

 

 その間に、背を向けたドライトにテルヒロが連続で攻撃を仕掛けてターゲットを奪い取る。

 万事こともなし。これこそがドライトの対策。

 アイネトを上回る物理耐性と、徹底した物理攻撃のルーチンに特化したドライト。そんなドライトには本来、物理攻撃に特化せざるを得ない盾役はなかなかターゲットをとれない。

 すると、相対的にメインの攻撃役(アタッカー)も攻撃を控えめにせざるを得ないので、どうしても長期戦になってしまうのだ。

 しかし物理攻撃でダメージこそ通らなくてもヘイトだけは溜められるシステム上、ダメージ量や攻撃回数ではなく、スキルの副次効果で一方向に向けてターゲットを取り続け、背後から長距離攻撃を仕掛けてHPを削るのが、ドライトの対策法なのだ。

 

「――!?状態移行するぞ!全員、退避!」

「テルヒロ!戻れ!」

「わかった!」

 

 ドライトが動きを止め、首を地につけた。その様子を見た班長が、全員に警戒の声を上げる。

 俺は、すかさずテルヒロに指示を出した。

 テルヒロも答えてこちらに駆け出してくる。

 

「【クアッドカスタム】【グレイブウォール(【自然魔術:岩】)】」

 

 俺の放った魔法は、【自然魔術:土】が成長して【自然魔術:岩】へ強化されることで覚える【グレイブウォール】。ドライトから離れるテルヒロを追うように、そしてドライトを包むように地面から岩の壁が生えてくる。

【魔力操作】のレベルが上がることで解禁されていく、同時に複数回、同じ魔法を発動できるようになる付与スキルが【〇〇カスタム】。今回は俺の全力、4重(クアッド)発動だ。

 ドーム状にせりあがった岩の壁は、瞬間的にドライトを包みこむ。が、ドライトの姿を隠した直後にドン、という音とともに壁がたわんだ。

 やっば。俺は、自分の防御まで手が回らない、と自分の弱体化(デバフ)を解除した。

 瞬間、壁にヒビが駆け巡り、はじけ飛んだ。

 

「うっ、く」

 

 暴風とともに周囲に吹き荒れる土壁の残骸は、魔法のエフェクトの残骸だ。ぶち当たったところでダメージも何もない。

 放たれた圧力も、【グレイブウォール】の防御でかなり軽減できている。本来の俺の【フィジカル】値であればなすすべもなく吹き飛ばされていただろうけど、テルヒロほどでないにしろ常人の倍値くらいまで強化された体であれば耐えられる。

 

「――シオ!大丈夫か!?」

「気にするな!前見て気を付けろ!」

 

 心配してか、テルヒロから声がかけられるが、俺は無事をアピールする。

 ガラガラと崩れる岩壁と、もうもうと立ち込める土煙の中から、ドライトが鎌首を上げて堂々と君臨していた。

 先ほどまでドラゴン然とした黒いボディから一転、白銀にきらめく体を輝かせて首を持ち上げていた。

 ワールドイーヴィルとの決戦は二段構え。後半戦の第二形態だ。変身の際の全体攻撃も、こうやって防御スキルを使うことで対策できる。

 とはいえ、この攻撃力は戦闘に参加している人数で威力が上下する。先行隊と援護に先んじた俺たちだけ、という今のうちに、第二形態にしておくのは、俺の中で必須事項だった。

 間に合った。

 

「――いい頃合いだったか。全員、戦闘態勢!」

 

 ドライトが動き出す前に、俺たちの背後からクランバインさんの声が響いた。

 さて、クライマックスだ。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 次回、ドライト戦、終了です。

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