終わりの始まり
鶏の声も響く午前4時。
昨夜の宴の打ち上げも、電気の通らないこの世界では10時回る前に解散となり、十分な睡眠とスキルと回復薬で、二日酔いにダウンするものは一人もなく。
闇界の洞窟の前に、王都騎士団を始めとした複数のクランが整列していた。その末端に、俺たち『帰還の標』もいる。
そんな集団の真正面、用意された壇上の上に、クランバインさんが立つ。その脇に、ヴォルテさんが控えている。
「まずは、この場に集まってくれた面々に感謝をしたい。
ともに武器を取って並んでくれたこと、感謝する」
そう言って、軽く頭を下げた。
「想定通り、スタンピードは闇界の洞窟で発生したと連絡があった。先発隊はすでに洞窟内にて戦闘を開始している。
先日からの打ち合わせ通り、各員所定の配置につき、このスタンピードを潜り抜けるぞ!」
「「おおおおぉぉぉぉーーーーーっっ!!」」
クランバインさんの演説に、王都騎士団を始めとして、プレイヤーの面々が雄たけびを上げて士気を上げる。
俺の隣でテルヒロもテンションが上がっているのか、腕を振り上げて声を上げていた。俺は……前もって耳をふさいでいたが。そういうの、なんだか気恥ずかしい。
クランバインさんは、声を上げる面々を見まわし、一旦空気が落ち着くのを待ってから、再び口を開いた。
「我々は、このスタンピードを、王都への被害ゼロで潜り抜けねばならない義務がある!
王都騎士団よ!一年前の屈辱を思いだせ!」
クランバインさんの鼓舞に、盛り上がる王国騎士団の一員。集まったクランの一部も、張り裂けんばかりの声を上げていた。
「……なぁ、一年前って?」
こそり、とテルヒロが俺に耳打ちしてくる。ヴォルテさんの元で仕事をしていた俺は、クランバインさんの悲痛の叫びの意味が分かる。
「クランバインさん達が、この世界に来てもう一年以上になるってのは知ってるだろ?
スタンピードは条件がいくつかあるけど、王都が被害に遭うスタンピードって、『春の宴』くらいしかないんだ。
つまり、クランバインさん含めて、王都騎士団にいるプレイヤーは、既に春の宴のスタンピードを経験しているんだよ」
その時は、直前のWEの被害が根強く残っており、王都騎士団の戦力は全盛期の半分にも満たなかった。そのため、事態の把握も後手後手に回ってしまい、その戦力のほとんどを外部――つまり、NPCを含め、既にこの世界に取り込まれていたプレイヤーの冒険者に委ねざるを得なかったのだとか。
まだこの世界はRDBのものであるという認識が浸透しておらず、一部のプレイヤーを除いて右往左往の挙句、王都が半壊する事態にまで被害が拡大したのだ。
その時、この世界がゲームの中であるという理由で高をくくっていたプレイヤーも、ゲームだと思っていなかったクランバインさんを含む巻き込まれた人たちも、焼け落ちる王都の街並みと、被害を受けた一般人たちの惨状を見て、無力感に涙を流していたらしい。
その惨状あって、当時フリーの冒険者だったプレイヤーたちも王都騎士団に所属、あるいはクランとして同盟を結び、その戦力を満足なものにキープしつつ、元の世界に戻る体制を築き上げていたのだという。
そういったわけで、彼らにはこのスタンピードに対して並々ならぬ思い入れがあるというわけだ。
……俺たちとしては、目的の『暗界の洞窟』の攻略に、王都騎士団を含めた現在の戦力を軒並みつぎ込める、実にタイムリーな状態でしかないのだけど。
まぁ、さすがにそんな空気の読めないことを口にするつもりはない。
「それでは、各自持ち場に着け!
攻略隊は、20分後に出発する!隊列は、各リーダーに従え!」
クランバインさんのその言葉で、出発前の演説は終わった。
「じゃあ、気を付けて」
「こちらは楽なもんだ。シオさん達のほうこそ、気を付けてくれな」
「ああ、生きて帰ろう」
俺とテルヒロは、ネモとゼロゴと別れて、王都騎士団へと合流した。
今回、『帰還の標』は分かれて参加することになっているのだ。
まず、ゼロゴは後詰の部隊に配置される。理由は二つ。一つは、ゼロゴの能力が基本的にWE由来のモノであるためだ。今回のスタンピードはWEの力によるものであるので、本隊に組み込むことがためらわれたのだ。
とはいえ、アビリティ抜きでも普通の冒険者を超えるパラメータを誇るゼロゴは、万が一闇界の洞窟外からやってくる可能性のあるモンスターの討伐に充てられることになったのだ。
そして、それは必然、ゼロゴがまだ人間にリセットしていないことも、後詰に充てられた理由も含まれる。
闇界の洞窟の先で元の世界に戻れるとしても、イベントは100回のボスを倒した時点で一連の流れがスタートする。もしクルーエルマージの状態で万が一元の世界に戻ることになってしまった場合、どんなことになるのかわからないのだ。
そして、ネモ。こちらは、本隊右翼の前衛部隊に回された。ちなみに本隊右翼の中英部隊には、ニュウが配置されている。テルヒロのためにアビリティを独自にとったことでネモの予定から外れてしまい、アサシン系の構成を作れなくなったニュウは、安全のため距離を取って戦う弓兵系統へ方針を転向していた。
そのため、ネモはニュウを守るために右翼へと回されたのだ。
そして、俺とテルヒロは左翼の前衛部隊に配置される。ちなみに、この分割はそれぞれが各々のパーティに組み込まれることになるのだ。
これによってテキストのみでしかやり取りできないクランメンバー間でつかえるクランチャットは使えるが、通話機能のあるパーティチャットは使えないのがデメリットである。とはいえ、今の王都騎士団としては、参加を表明した各々のクランメンバーを細かく分割してでも、適材適所の最大戦力を構築するのが最優先だ。
しょうがない配置だった。
「いいのか、前衛で」
一緒に既定の配置に向かっている途中で、テルヒロは不安そうに俺に訪ねてきた。まだ心配してるのか、こいつ。
「大丈夫だよ。俺の構成は、基本的にテルヒロとコンビを組むように構築してるんだ。一緒のメンバーに配置されないと、能力が発揮できないんだから。
俺の守りは任せるぜ」
そう。俺も、前衛なのだ。
とはいえ、能力は鍛えに鍛えた。十分に戦闘に堪えうる能力にはなっている。後は、俺の度胸次第という部分はある。
確かに、モンスターと戦うのは不安だが、前衛の中でも俺は盾役が抑えたモンスターを攻撃する後衛アタッカーの役目だ。面と向かってインファイトするわけではないから、たぶん大丈夫だろう。
つまり、俺の実力が十分に発揮できるかは、それこそテルヒロの頑張りにかかっている。……これは、昨日話したはずなんだけど。
逆にテルヒロの能力は、というと。アタッカーも賄えるものの、基本的にテクニックもアビリティも盾役に寄っている。モンスターの撃破は、追加のアタッカーに任せないといけないような形だ。
その点でいえば、経験の足りないテルヒロが前衛で十分に戦うためには、俺のサポートは必要不可避だ。
俺とテルヒロは、二人で一人のユニット扱いなのだ。必然、同じパーティにならざるを得ない。
元々その体で最初から考えていたので、特に問題はないのだけど。
今までの経験から、テルヒロの中にはぬぐえない不安があるのだろう。
だから、俺は。
「テルヒロ。俺に任せろ。俺に、いい考えがある」
そう言えば、テルヒロは。ふ、と目を伏せて。
次に顔を向けてきた時には、吹っ切れた表情を見せていた。
「――わかった。行こう!」
「おう」
さぁ。最後の戦いの始まりだ。
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
闇界の洞窟編、開始です。
ついに、シオくんの攻略チャートの最終章。どんな結末になるかは、楽しみに。




