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冒険の準備RTA

RTA:リアル タイム アタック。システム的な時間制限の有無に関わらず、開始~クリアまでの時間を競うゲームプレイのこと。

 日も明けて、俺は一人、宿の階下へ降りてきた。テルヒロは、少なくとも今日半日は起きてこないだろう。まだぐっすり寝てたし。

 俺はその間にいろいろな準備を終わらせておこう。まずは冒険者ギルドへの登録だ。

 すいすいと人込みを抜けて、勝手知ったる冒険者ギルドへ向かう。

 ウェスタンな両開きの小さい扉を抜けて、ギルドへと入る。

 

「――ひぃ」

 

 入った途端、ギルドに屯っている冒険者連中の視線を集めてしまった。こちらを一斉に見る"目"に、思わず悲鳴が漏れてしまう。


 人の目は怖い。人の顔は怖い。人が、怖い。

 

 俺は、逃げるように冒険者ギルドから立ち去った。

 ……そう、まず必要なのは、最低限のポーションだ。回復は大事だ。

 

  *--

 

 そうと決まれば話は早い。俺は、この街の公民館へと向かった。

 この街には公民館があり、その中には小さいながらも図書館があるのだ。これには理由がある。

 この街は、昔から冒険者の登竜門として存在している歴史がある。そのため、冒険者ギルドの本部こそないものの、冒険者になるためのあれこれが王都レベルで存在している。公民館の図書館もその一つなのだ。

 入場料10 Gを払い、図書館に入る。施設の中はがらんとしており、人っ子一人いない。目的の本を一冊抜き出し、並んでいる机の端っこに座って読む。うむ、落ち着く。

 この図書館の本は【スキルブック】と呼ばれるギミックだ。アイテムではない。

 繰り返す。スキルブックはギミックであり、アイテムではない。

 本を取る。本を読む。本を戻す。

 まず、この一連の処理の間、図書館から徒歩で出ることができないのだ。

 かつては、図書館でワープ魔法などを使ってスキルブックを持ち逃げしようとするプレイヤーもいたのだが、アイテムとして所持できない本は、アイテムボックスや手持ちアイテムとして認識されていない。そのため、画面内のキャラが持っている本に見えるものは、図書館から外に出ると消えてしまうのだ。

 もっとも、その代わりに窃盗の履歴だけはしっかりつくので、衛兵から追っかけられる羽目にもある。悪事の隙間を縫ってやろうとした愚か者共の末路である。南無。

 それはともかく【スキルブック】は有用なギミックだ。何せ、読んでいるだけでスキルブックのジャンルに沿った【アビリティ】が手に入る。

 アビリティの話をするには、このゲームの戦い方について説明が必要だ。

 このゲームでは魔法や技のことを【スキル】と呼ぶが、プレイヤーはスキルを覚えているわけではない。スキルを使うために必要な資質を【アビリティ】としてプレイヤーが持っているのだ。【アビリティ】の組み合わせで、様々なスキルを発現させて戦うのが、このゲームの特徴なのだ。

 つまり、持っている【アビリティ】の量はそのままプレイヤーの戦力そのものになる。もちろん、キャラクターのレベルや基礎ステータスは大事なのだが、同じくらいに大事なのが【アビリティ】の所持数なのだ。

 もっとも、持っていれば持っているだけ後々大変にはなるのだけど。

 アビリティの数を増やすメリット・デメリットは、まだ複雑すぎてテルヒロには理解できないだろうな、と思っているので、奴にはキャラメイク時点で自発的に使うアビリティをほとんど選ばせていない。自動的に覚えてしまうものはさておき、基本的にはパッシヴ効果のみの奴で揃えさせているし、今後もその予定である。

 さて、本を読むのは時間がかかる。俺の計算では、ゲーム内時間で換算して昼までには3つのアビリティを覚える程度には読み進められるはずだ。一冊に付き、実は10のアビリティが含まれるが、別にコンプリートする必要はないから、これでいい。

 今回の目的は【鑑定】【植物知識】【鉱物知識】の三つだ。スキルブック『商人のススメ』で覚えられるこのアビリティは、【鑑定】を軸にして【鑑定】【植物知識】と【鑑定】【鉱物知識】の二つのスキルが使えるようになる。これは、道中のアイテム採取に非常に役に立つ。

 【鑑定】【植物知識】がなければ、簡単な依頼の『薬草の採取』もめったに見つけることができない。【鑑定】【鉱物知識】がなければ、同じような依頼の『鉱石の採取』もできやしない。

 他にも、図書館で手に入るアビリティはキャラメイクで選択しないのが通説となっている。

 しばらく本を読み進めて、少し飽きてきたところでふと思いついた。

 そうだ。アビリティ覚えたかもちゃんと確認しなきゃな。ゲームの中身が現実になったような世界で、どれだけゲームシステムが生きているか確認しないと。

 とりあえずステータスは見れたから、そっちでアビリティの確認を――。

 

「……んん?」

 

 ステータス画面を開こうと、ARアイコンをタッチしようとしたのだけど、アイコンに視界を寄せただけでメニューが開いた。視線入力機能が生きている――いや、それだけでなく"俺が"それを使えたという事実。

 俺は、過去の事故で視力に影響が出てしまい、ARグラスの視線入力機能は使えない体質になっていたはずだった。

 視線入力は、文字通り瞳孔の収縮と移動でARアイコン――他の人には見えないアイコンだ。モニターに映すタイプのゲームの、画面端とかに並んでいるショートカットキーを連想すれば手っ取り早いか――への入力を可能にする機能だ。視界にモニターとしての機能を追加する、ARグラスという機器が発表されてから最初に追加された入力機構だ。

 当然、その入力にはコツがいる。その昔、ARグラスが発売された頃は、視線入力ができるのは40歳未満、なんて注意書きがあったらしい。

 そういった体質や資質で、できるできないが確定するテクニックだった。事故で目の筋肉が損傷した俺は視線入力ができなかったのだが、不思議と今の俺にはできるようになっていたようだった。

 そんなわけで、事故に合う時以来の視線入力の便利さに感動する俺なのだった。

 うおぉ、これは便利だ。こんな楽に操作できるのか!ああ、改めてあの体が不便だ。――って、いかんいかん。現実に戻ることを嫌がってどうする。

 さて、それはともかくステータスを開こう。念のため、システムメニューからログアウトの項目を探してみたが、そもそもヘルプやログアウトの項目をまとめた、システムメニューのアイコン自体が存在しなかった。……まぁ、予想通りか。

 ステータスを開いて確認すると、俺のレベルは1。チュートリアルもスキップしているので、当然戦闘のチュートリアルも行っていない。そのため、その戦闘で入る経験値を手に入れていないからだ。本来なら、そこでレベルが最低でも2に上がるはずだった。

 改めて惜しむべきはチュートリアルボーナスか。面倒だと思いつつも、このボーナスで手に入るアイテムのため、二人目以降に作成したキャラでもチュートリアルを受けることは鉄板だったのだけど。

 今回は、(いささ)か仕方ない理由もあったから、しょうがない。

 明日からやることは、ギルドへの登録とモンスターの狩りの準備。まずはレベル上げで次の街に行くに足るレベルを手に入れることだ。

 ――よし、アビリティ覚えてる。

 ふと思い立って、フレンドリストを開いてみた。検索機能を出す。知り合いがヒットすればいいんだけど。

 次々と名前を入力してみるが、「そのキャラクターはログインしていません」「その名前のキャラクターは存在しません」と次々にエラーメッセージがポップアップしてくる。

 ぬぅ。手ごわい。半ば意地になって、ブロックしていたプレイヤーや、掲示板で有名所だった名前を次々入力してみるが、やはりダメだ。

 と、違うメッセージがポップアップした。――『サーバーが違います』?え、この世界、サーバー制なの?

 

「あ、危なかった……」

 

 ログインの際に、今の新規作成したアカウントを選択しておいて本当によかった。やっぱり、冒険を主軸に安全を喫して1st(最初に作った)キャラでログインしてたら、テルヒロと合流できなかった、ということだ。

 あの時の俺、良くやった。グッジョブ俺!

 今が、たまたま大成功、と言うことが判明して、俺は大きくため息を吐いた。本当によかった。

 と、図書館にチャイムの音がなる。昼時の合図だ。そろそろテルヒロも起きてくる頃だろう。

 俺は司書さんに貸出できる本を訊ねて、一通り借りることにした。ちゃんと、アイテムとして取得できる本もあるのだ。会話もなく、ゲームウィンドウで手続きが終わったのは本当にありがたかった。

 もっとも、借りた本の内容はほとんどフレーバー(設定のみの)アイテムだから、当時プレイした時のゲームには関係ないものばかりだったけど。今は少しでもこの世界の情報が欲しかった。

 その点に関しては、十分に役立ってくれるはずだ。

ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます。いつもお世話になっております。


RTAはガチガチに計算されているものをなぞっていく光景も、いきあたりばったりで挑んで奇跡的に成功する偶然を見るのも面白いですね。

友人からは「普通の人はコメントも実況もない他人のプレイを見ているだけでそんなに楽しめない」って言われましたけど。私は悲しい。

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