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VS シオ

 やっぱり紫苑はすごい。

 俺と紫苑が模擬戦を始めて、ざっと30分は経った。正直な話、体感時間でいえばもう2時間は経ってそうだ。

 そして、それでもなお紫苑を円の外どころか、俺の攻撃で移動させること自体ができていない。俺の記憶が確かなら、俺と紫苑では、腕相撲したとしても紫苑の両腕に小指一本で勝てるような腕力差があったはずだ。

 最初は真面目に――まぁ、ケガさせないように注意はしていたが――攻撃を放っていたのだが。いくら攻撃してもいなされ、(かわ)され、一度もクリーンヒットさせることができなかった。

 スタミナが切れるまで連撃を繰り返しても、まるで空気を切っているかのように手ごたえがない。膝をついて息も荒く休憩していると、紫苑がニヤニヤと笑いながら話しかけてきた。

 

「照弘。さっき教えたログ見てみたか?」

 

 ログ?そういえば、模擬戦が始まる前に何か教えてもらったな。俺の攻撃で、いとも簡単に紫苑が吹き飛んだ光景が一瞬ちらついた。あれは……本当に、心臓に悪い光景だった。壁にもたれて倒れる紫苑は、()()病院の光景を思い出して、血の気が引いてしまった。

 ……しかし、いざ模擬戦が始まってしまえば、その不安もすっかり吹き飛んでしまった。

 やはり、紫苑は、すごい。俺なんかより、ずっと強かった。

 いや、それはともかく教えてくれたものを見てみよう。ログウィンドウというものを開いてみる。

  

<テルヒロの【スウィング】 --> シオに 121のダメージ

 テルヒロの【スウィング】 --> シオに 5のダメージ

 テルヒロの【スマッシュ】 --> シオに 7のダメージ

 テルヒロの【スラッシュ】 --> シオに 6のダメージ

 テルヒロの【ダブルスラッシュ】 --> シオに 1のダメージ

 テルヒロの【スマッシュ】 --> シオに 2のダメージ>

 

 ……ずっとこの調子だ。

 そうか、そもそもダメージが通ってなかったのか。考えれば、分かることだ。

 最初に紫苑が吹き飛んだのは、無防備なところに俺の一撃を受けたからだ。で、あれば。ダメージが十分に発生しなければ相手を移動させられないのか。

 そういえば、始まる前に何か言っていたな。確か、『20ダメージ』だと。しかしスタミナ切れるまで攻撃しても、一度の二桁のダメージにすら到達できていない。

 しかし不思議だ。

 俺の攻撃は、当たっていないわけじゃない。紫苑は、俺の攻撃を避けてはいる。しかし、その時々に攻撃を受けたりもしているのだ。当たっているのにダメージが通っていない。

 これはどういうわけだろうか。

 

「紫苑、俺の攻撃って当たってないのか?」

「うんにゃ?ちゃんと受けてるだろ?」

「ああ、まぁ……防御が上手いのか?全然ダメージが入っていないように見えるんだが」

「うんうん、まぁそういうところだな」

 

 紫苑は腕を組んで、うむうむ、と自慢げにうなずいていた。

 

「とはいえ、いくらダメージを減らしても、今の俺だったらダメージが20も伸びればノックバックが発生するわけだ。

 って、ことで。まずは、ダメージの伸ばし方を覚えるべきだな」

「ダメージの伸ばし方」

 

 俺は、何をどうしたらいいのかわからないのでオウム返しで紫苑の言うことを繰り返すしかなかった。

 紫苑の解説は続く。

 

「【スキル】の最大ダメージの最低条件は、それが【クリーンヒット】であることだ」

「クリーンヒット?」

「ああ。最初に俺が思いっきり吹き飛んだのは、それが【クリーンヒット】だったからだ。

 攻撃がヒットしている場所が『無防備である』事、『弱点である』事、攻撃のヒットが『最大威力である』事。これが、【クリーンヒット】の条件になる」

「え、弱点を狙ったりとかはわかるけど、攻撃が『無防備である』ことってかなり厳しくないか?」


 先ほどまでの自慢げな表情から眉を少し下げるものの、俺の疑問は紫苑には予想の範囲内だったらしい。

 

「まぁ、実践だと基本的にこの要素は"運"だ」

「"運"か」

()()ならな。もちろん、ゲーム時代はいろいろ抜け穴はあるんだが、今だったらもっとやりようはありそうだな。

 それはともかく、とりあえず三つを同時に満たす必要はないんだ。ダメージを伸ばすだけなら、この三つを心掛けて、一つ、良くて二つを満たせば一気にダメージが伸びるぞ」

「あ、一つでもいいのか」

「それは今後の課題だな。今は一つ、一番自分だけで満たせる条件を伸ばしていこう」

「自分だけ……?……あ、攻撃のヒットが『最大威力である』事、ってやつか?」

「そう、それ」

 

 紫苑は、俺を指さして正解を伝えてくれた。

 

「【スキル】はいずれもある程度の射程が存在して、その距離によって大まかに『大当たり』、『中当たり』、『小当たり』の三種類の判定があるんだ。

 照弘の使う【スキル】は、いずれもショートレンジのものばかりだから、ほとんど同じ感覚で出せば『小当たり』を避けれるぞ」

「『小当たり』?……あ、ひょっとして俺の攻撃が通らないのって」

 

 俺が思わず思いついた内容を声を上げてみれば、紫苑はにんまりと笑みを浮かべた。

 

「そういうこと。テルヒロは体感で『中当たり』ギリギリから『大当たり』ど真ん中の射程で【スキル】を発動していたな。それ自体は、正直すごい。ほめる」

 

 紫苑はそう言って、ぱちぱち、と手を叩いた。

 

「でも、だからこそ受ける側は【クリーンヒット】を外しやすい。クランバインさんとの戦いで、クランバインさんが攻撃を受けてスタミナを減らさずにキープできたのはこれが理由だな。

 防御が成功しても、そのダメージによって追加でスタミナが減るもんだけど、そのリスクを極力減らしてたからな」

 

 なるほど……全然びくともしないし、息切れがないのは単純にレベル差だと思っていたんだけど、そういうわけでもないらしい。

 紫苑は、自分の足元を指で刺した。俺は、それに誘われるように視線を下げた。

 ……あ。

 なるほど。よくわかった。

 俺は、紫苑が全然動いていない、びくともしない暖簾に腕押しのような感覚でこの30分攻撃していたが、その実、紫苑はそれなりに足場を移動はしていたらしい。しっかりと、擦れた足跡が紫苑の足元で、縦横無尽に刻まれていた。

 

「よし、少し試してみな。回避はしないから」

 

 紫苑はそういって、光の棒を両手で握って構えた。俺も、すっかりスタミナが回復した後だ。

 今までの感覚から、少しずれた感じか。おそらく『大当たり』と呼ばれるタイミングはあれだろう、という感覚がある。

 

「――【スラッシュ】!」

 

 俺は、剣を振りかぶって、紫苑に躍りかかった。しかし、紫苑の棒と俺の剣が激突しても、さっきまでと同じ、クッションに殴り掛かったような手ごたえだ。

 しかし、これでいい。一撃目は、捨てる。

 今まではこれから、続けて【スキル】を放ったり、押し込んだりしていたのだが、それをいなされてきた。今回、紫苑が「避けない」と言っているので、押し込めば勝てるかもしれない。

 でも、それは紫苑の期待を裏切る行為だ。そうはしない。

 俺は。

 

「【ダブル――」

 

【スキル】の発動を準備しつつ、あえていつもの感覚からさらに半歩下がる。

 

「――スラッシュ】っ!」

 

 素早い剣の二連撃。

 一撃目が紫苑の棒に叩き込まれる。いつもなら、おおよそベストタイミングではない距離だが、不思議とイイ手ごたえが帰ってくる。

 二撃目も、やはり紫苑に防御されてしまった。――が。

 

「お見事。流石だな、照弘」

 

 ニヤリ、と笑う紫苑。その片足は、紫苑の描いた円の(ふち)からはみ出していた。

 

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 スキルの射程範囲は、ゲーム上であればエフェクトがそのまま攻撃範囲になります。射撃武器であれば、ものによっては射程は画面端までになりますが、ダメージの補正が装備の射程距離として表示されていたりします。

「これはどうなるの?」という感想があれば、管羽くんの出番もありますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人っきりで汗を書きながら密室でくんずほぐれつ…… これは実質デートなのも同然なのでは? [一言] シオ君はやはり巧者ですね、こういうテクって頭では分かっていても実際にプレイするとなるとな…
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