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顛末、そして新展開

 今、俺たちは王城の一室にいた。

 白磁(はくじ)の壁は金の装飾に(いろど)られ、かなり見た目まぶしい。いかにも、といったファンタジーな見た目だが、その明かりは魔法具による輝く水晶によるもので、単に中世風の意匠いうことでもない。

 その高級そうな空気に、珍しくテルヒロの方が緊張している。

 俺は――まぁ、確かになれない空間ではあるものの散々見てきた一室なので、そこまで緊張はしていない。

 俺とテルヒロの二人で座る椅子の真向かいには、同じソファに一人だけ、クランバインさんが座っている。

 

「今、ヤッチィギルド長と王都へ戻ってもらっている。あと2時間もすれば到着する手はずだ」

「……いいんです?」


 クランバインさんの第一声は、俺たちの予想外の展開だった。それを防ぐためにブロッサムを護衛してたんじゃなかったのか?

 テルヒロも、思わず、といった感じで口を挟んだ。クランバインさんも、その反応は予想していたようで「まぁなぁ……」と愚痴を漏らしながら頭を抱える仕草をしていた。

 そのクランバインさんにフォローするように脇に控えて立っていたヴォルテさんが口を開いた。

「ヤッチィ氏を迎えに行っているのが、王都の依頼を終えたプレイヤーです。そして、こちらにはフォウニーの街の常駐依頼を終えているプレイヤーがいるので、システムを使ってやり取りしています。

 これにより、フォウニーのギルドの業務が滞るのは半日程度に収まるくらいになる予定です。

 テルヒロさんたちを迎えに行ったときは、フォウニーに移動要員が居なかったので、直接我々が出向くことになっていましたが」

 

 そうか、依頼完了のファストトラベル。パーティメンバーを報告場所に戻すギミックで、高速移動をこなしているのか。

 この世界だと、ネモの山賊討伐の時もそうだったがフリーのNPCもパーティに加えて移動ができるからな。

 

「あまりこんなことで使いたくはなかったんだがな。とはいえ、仕方がない。今、ブロッサム嬢を王の前に出すことができないのでな」

「やはり、シオを襲った件ですか」


 ブロッサムを王の前に出せない?テルヒロは、すぐに察したようで、確認のためかそう言った。しかし、クランバインさんはヴォルテさんと顔を見合わせて苦笑した。

 

「いや。()()()()が戻らなくて情緒不安定なんだ。最初は呪いに関係するものかと思ってゼロゴにも確認したんだが、あれは持ち前のヒステリーだと判断が下されたよ。

 ましてシオ嬢と同席した場合、何を言い出すかわかったものじゃないからね」

 

 ははぁ……。テルヒロはピンと来ていないようだったが、俺はいざ襲われた時の様子を思い出していた。()()が続いているのであれば、到底人前に出せないのも納得だ。

 

「まぁ、そういったわけで予定通り、これから王と面会してもらう。そのあと、この部屋に戻ってきて、今後の打ち合わせに入る。

 こちらの予定に合わせてもらう形になるが、よろしく頼む」

「こ、この格好でいいんですか?」

 

 クランバインさんの話に、テルヒロが慌てて自分の姿を見下ろして戸惑いだした。初心(うぶ)なその様子に、その場の雰囲気が弛緩(しかん)した。まったくもう……。

 同席する身として恥ずかしいぜ。

 

「テルヒロ。向こうはNPCだぞ。気にするだけ無駄だって」

「いやでも、お前。王様だぞ?」

「そもそも鎧は冒険者の正装だろうが。さすがに武器は持ち込めないだろうけど」

 

 テルヒロは「それも、そうか……?」と一応の納得をしてくれたような、腑に落ちないような言葉を漏らして落ち着いた、ようだ。

 そもそも、俺たちの装備は耐久度が0になってしまえばみすぼらしいテクスチャになるものの、そうでなければ綺麗なものだ。俺の姿は学者のローブ系、テルヒロは割と高級そうな白銀の軽装鎧だ。

 そこまでみっともない恰好でもない。まぁ、礼服とは程遠いだろうけどな。

 そうこう話をしていると、俺たちのいる部屋に全身鎧(フルプレート)の兵士が一人、入ってきた。

 

「ふむ、準備ができたようだ。では、行こうか」

 

 *--

 

「そなたが、フォウニーにてワールドイーヴィルを退けた者たちか。大層な活躍であったな」

 

 クランバインさんに先導され、王座の間に案内された。俺たちが王座のある壇上の階段の前で跪くと、王は見下ろすように話しかけてきた。

 とはいえそれは立ち位置だけであり、その言葉に威圧感などはなく、単にねぎらいの言葉を送っているだけに聞こえた。

 

「よい、表を上げよ」

 

 王に言われるまま、俺たちは顔を上げた。幸い、フォトゥム国王はプレイヤーなのではなく俺が知っている王様の姿だった。

 ……それ以外にも、俺は彼がNPCである事を確信した。

 王は、こちらを吟味(ぎんみ)するように俺たちを見下ろしている。その表情は怪しむものでもなく、ただ観察するような顔だ。

 そして、俺はそんな王様の顔を正面から見ることができたのだ。その目線が合っても、こみ上げる不安感や恐怖はなかったのだ。

 

「後からフォウニーのギルドからも来るらしいが、まずは、そなたたちの話を聞こうか」

「は、はい!」

 

 テルヒロが緊張しきった声を上げ、説明が始まった。

 事の発端。フォウニーの街で邪教団の一員を見かけたこと。そこから彼らの足取りをたどったこと。ワールドイーヴィルーーアイネトが出現したこと。

 そして、フォウニーのギルドメンバーの過半数の命と引き換えに、アイネト(WE)を撃破したこと。

 その話を聞いて、フォトゥム王は顎に手を当てて、(うな)るように言葉を口にした。

 

「そうか……大儀であった」


 そうして、(かたわ)らにいるクランバインさんの方に顔を向けた。

 

「クランバインよ。フォウニーの立て直しにはどれくらいかかる?」

「は。急ぎ、人員を送っております。合わせて、連絡網の回復、施設の立て直し――ヴォルテ、試算は?」

「おそらく1か月を要します。ギリギリですね」

「むぅ……」


 何やら、国の運営の方では割とぎりぎりのスケジュールらしい。はて。何かイベントがあったかな。

 

「シオ、これ、俺たちに関係ある話か?」


 思い返そうと考えていると、テルヒロからコソコソと質問が飛んできた。

 うーん。

 

「テルヒロ、今日付わかるか?」

「うん?ええと、羊角(ようかく)の月、(はし)の陣、精霊(エルフ)の日、だっけか」


 ゲーム内の事柄であれば俺の方が詳しそうだろうが、日付に関してはそうじゃない。そもそも俺には現実のころからそうだが、日付の感覚、曜日の感覚はあまりないのだ。

 俺を動かすスケジュールは、ゲームのイベントだけだ。……あー、()()()()()()()()か。

 

「そうか。『シーズンイベント』か」

「シーズンイベント?」


 ゲーム内の日付とリアルの日付が連動しているのならば、今は2月12日あたり。一か月後は3月中頃。

 RBDはオンラインゲームだ。オンラインゲームのお約束と言えば、季節ごとのイベントに合わせた企画モノだ。

 RBDでは、祝日が一日だけのものに加えて、3/15、6/15、9/15、12/15から『シーズンイベント』という一か月単位のイベントが始まるのだ。

 3/15から始まるのは『春の宴』。王都フォトゥムで行われる、街をあげた一大お祭りだ。

 ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。

 今話から新章の始まりとなります。

 劇中ではまだ一か月の出来事なんです。ネトゲなら一か月もあればカンストまで持っていける廃人さんもいますが、まぁ、この世界はね。

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