解呪
クランバインさんと別れて、俺たちは別ルート経由で王都へと向かった。道程は、大体3日ほどかかる予定だ。
「実際、ブロッサムはどうなりますか?」
「そうだね……。団長なら、すごく悩むだろうけど、そう簡単に処分する、なんてことはしないでしょうね。あの人は、プレイヤーに対して真摯な人だから」
道中、テルヒロがヴォルテさんにブロッサムの処分について尋ねていた。【狂信者の塔】では、一連の流れを聞いたクランバインさんは、難しそうな顔をしていた。
いくつかの理由があるようだが、まずはゲームシステム面を考えると、ブロッサムを王都へ護衛するのが依頼であること。
RBDの中では、依頼の途中で内容が変わったりすることはなかった。最初に指定された目標は、必ず達成しないといけなかったのだ。
その上で、当初の結果と変わってしまうものはあったのだけど。
そういった理由で、おそらく騎士団としては途中のいざこざでブロッサムを、レッドネームとして捕縛することができないのだろう。
そして、クランバインさん自体の考え方。
ヴォルテさんの話によると、クランバインさんが騎士団長として王国騎士団を率いている活動目的として、この世界で路頭に迷っているプレイヤーの保護があるのだとか。たとえレッドネームであったとしても、騎士団で保護し、確保しているのだという。
そして協力者を増やして、一大捜索隊として、元の世界に戻る手がかりを探し続けていたのだという。その活動路線から、ブロッサムを一概に処断するつもりもなさそうだ。
まぁ……あれだ。俺として、俺に直接的な被害がないなら文句はない。
そんな気持ちでテルヒロとヴォルテさんの話を流し聞いていると、ゼロゴがクックッ、と小さく引き笑いをしていた。
やめろ、その笑いはなんか思い出すものがあるから、俺に効く。
「……何か面白い話があったかい?」
ネモが、眉をひそめながらゼロゴに声をかけた。
――ちなみにゼロゴは【更生労役者】として『帰還の標』に参入済みではあるが、その両手は『封印の枷』につながれている。
【封印の枷】+(重量 2 / アクセサリ)
作成者:シオ
品質 :高
効果 :装備者のアクティブアビリティの発動を封じる代わりに、パッシブアビリティへ加算される経験値が10%増える。
【封印の枷】の装備者は、装備の解除ができなくなる。
【封印の枷】は、【封印の枷】の装備者以外が外すことができる。
説明 :罪人を護送するために使われる魔術具。ウィル・オー・ウィスプの粉末が入っており、経験値増加効果を付与されている。
この装備の効果により、俺たちは安全にゼロゴをパーティに参入させているのである。
「いや……どういう展開にしろ、向こうはしばらく大騒ぎだろうからさ。
うまくあの女が暴れてくれたら絶対に無罪放免にはならないだろうさ」
「どういうことだ?」
話を聞いて、テルヒロがこちらに近づいてきた。
ゼロゴは、本当にうれしそうな笑みを浮かべて答えた。
「【魂喰い刃】を使った生贄の儀は、単純に魂を【魂喰い刃】に収めるだけじゃない。
なぜなら、それだけだと魂は摩耗して、儀式の時には衰弱してしまって十分な生贄にできないからだ。だから、【魂喰い刃】に収めた魂と、石化した肉体に"魂との接続口"が必要になるんだ。あの女はもうシオさんに手を出すことはできない。それどころじゃないだろうからね。
心配しなくても、僕たちにはもう何も影響はないさ」
「……ちょっと待てよ、それって!ニュウは!?」
ゼロゴの言葉に、声を荒げたのはネモだ。生贄になったのは、ブロッサムだけではない。ニュウもまた、【魂喰い刃】の毒牙にかかっている。
当然、その影響を受けているはずだ。
いきなり焦りを見せたネモに、ゼロゴはひるんだ様子を見せたが。
「……あ、ああ。もう一人いたな。そういえば。
彼女の方は大丈夫だよ」
*--
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
「押さえろ、そっちだ!
「……そうだ、回復魔法が効かない!医者アビリティ持ちを、はやく!」
「顔が!ワタシのカオがあアァァアぁ!!!!」
ゼロゴの言う通り、クランバインの方は騒ぎになっていた。
【魂喰い刃】を持って生贄となったニュウとブロッサムの石像を並べたところ、クランバインのARウィンドウに[解呪する YES/NO]というウィンドウが開いた。
YESを選ぶと、【魂喰い刃】が甲高い音を立ててはじけ飛んだ。【魂喰い刃】の中からゆらゆらとした光が、それぞれの石像へと宿ると、石化した二人の体がゆっくりと人の肌を持っていき――。
ニュウの右腕と、ブロッサムの右目から血が噴き出したのだ。
「ぎゃあぁぁぁぁあああああああ!!」
突然の事態に、その場で待機していた騎士団が固まる。
「アッ、アッ、あ、アギィぃ、いっ、いタ、いだ、イィぃ!!??」
「うっ……」
同じく目を覚ましたニュウも、ブロッサムの叫びに呆然としていたが、とめどなく流れる己の右腕が異常を訴えたのか、じわじわと強くなる痛みに呻いた。
ブロッサムの叫びに比べればかすかな声ではあったが、それでも近くにいた騎士はニュウの苦痛の声に我に返って、一人が近寄った。
「あ、あの。大丈夫ですか」
それは、万が一呪いの解除に必要になる可能性があったので用意されていた神官職であった。ニュウの腕の傷に手を近づけ、【回復】のアビリティを発動する。
しかし。
「――……!?なんだ?傷が回復しない……!?」
アビリティは確かに発動したものの、その傷はふさがることはなかった。以前、血が流れるニュウの腕の状況に、驚きの声を上げる神官騎士。
しかし、傷口を見ようとした神官騎士の肩が何者かにつかまれる。
「お"、お前っ!!な"んで、ぞ、そい"つを"っ、ぎっ、ざ、先に"ズる"!?わたじのっ!方が!先だろっ!!!」
怒りと苦痛に顔をゆがめ、そう言って襲い掛かってきたのは誰であろう、ブロッサムである。
その顔の半分から流れる血は、既に体をも染め、その姿は騎士団とともにフォウニーの街を出た女性とは打って変わった姿であった。
その騒ぎに、ようやくクランバインも我に返る。
「ぶ、ブロッサム嬢を押さえろ!安静にさせろ!
ニュウ嬢もだ!引き離せ!医者を!」
呪いを解くだけで、とりあえずひと段落が付くと思っていたクランバインは、飛んだ貧乏くじを引いてしまったのであった。
この騒ぎが収まったのは、ブロッサムを【昏睡】状態にした後のこと、実に2時間が経った後の事であった。
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あけましておめでとうございます。今年もどうぞ、拙作ともども、よろしくお願いいたします。
実は、この出血は解呪の一端です。詳細は次回になります。




