想定通りの結末
「う……おぉおっ!?」
ゼロゴの生み出した10以上の触手の先に、明らかにヤバ気な雰囲気の魔法陣が浮かんだ瞬間、俺はその場を飛びのいた。
瞬間、俺のいた場所に無数の魔法弾が撃ち込まれる。
そのほとんどは狙いたがわず同じ場所を打ち貫いていたが、いくつかの反れた弾道をした流れ弾が、俺に襲い掛かってきた。かろうじてそれを飛んで跳ねて躱し、【アブソーブドパリィ】で弾く。
何とか全弾回避してゼロゴを見て、俺はぎょっとした。
「流石。まだまだ行くよ」
既に、触手の先に新しい魔法陣が灯っていた……!
嘘だろ……?再発動が早すぎる!モンスターだってプレイヤーだって、一度スキルを発動したら、一定時間は発動までに時間が必要なはずなのに。
……いや待て。ひょっとして。あの触手、スキルじゃないのか?だとしたら……まさか、ワールドイーヴィルの力?
そうなってくるとゼロゴは、ゲーム内のストーリーだと事前に止めることができた、設定上だけの完全体『クルーエルマージ』なのか?
俺は、考えを止めずに、足も動かす。とりあえず円状に動く。乱数回避するには、今の俺には敏捷度が足りないし、だからと言って弱体化魔法がなければ動くこともできない。
たとえ軌道を読まれて予測射撃されたとしても、それをうまく回避する能力などない。俺は前に進んで避け続けるしかない。
赤、青、緑、黄色、白、紫――様々な属性の魔法弾がひっきりなしに俺の背後に着弾しては爆発する。時々飛んでくる直撃コースの魔法弾を【アブソーブドパリィ】で弾く。
今度は回避しながらだから先ほどよりもスタミナの回復がわずかに増えているものの、移動しながらなのでスタミナの自然回復量は静止時の30%しかない。
つまり、ほとんど雀の涙だ。
対して、ゼロゴは俺とは段違いの魔法使用量ではあるものの、プールされてる魔力は俺のスタミナ量の比じゃないはずだ。つまりこの状況、完全にスペック差で押してきやがった!
「くっそ、チートめ!」
俺は悪態をつきながらも攻撃をはじいて時間を稼ぐ。相手が使っているのがどんな【スキル】かわからないが、真の姿を現したことで、ゼロゴはさらにスペックが上がっているはずだ。
本当に殺す気がないんだろうな!?はたまた、あまりに善戦しすぎて「死なないだろ、たぶん」的なつもりで攻撃しているのだろうか!?
それでも、逃げ続ける。さながらドッジボールで最後に残った気分だ。いつか、必ずテルヒロ達が来てくれると信じて、俺は逃げ続ける。。
だが、俺が思っていたよりも早く、俺の運が尽きた。
視界に入るのは、時間差で俺に飛んでくる二発の魔力弾。青と黄色。同時じゃない。わずかな時間差。
【アブソーブドパリィ】の【ジャストガード】を狙っても、一撃は弾けるが、一撃は通ってしまう。属性で相殺――できるか?火力が足りないと撃ち負ける。
いや、ここはまだ賭けられない。
連続攻撃のカウンター、【チャフエアリィ】を使うしかない。余計なコスト消費で継続戦闘力は下がるが、とにかく回避しないといけない。
「【チャフェアリィ】!」
俺が放った【スキル】は――不発だった。光弾は生まれない。
つまり、なんだ。この攻撃は連続攻撃じゃない。一撃一撃がそれぞれ一つの【スキル】ということだ。ついでに言うと、あの触手は個別にHPが設定された別のエネミーってことだ。
ラスボスがモブを大量に召喚するとか、面倒なことこの上ない。
「この……チート野郎が!!」
俺は、【アブソーブドパリィ】で着実に青色を杖ではじいた後に、前のめりに転がる。一瞬、バリッ、と放電する音と熱を背中に感じた。
何とか回避できたか。そう顔を上げて――。
「つかまえた」
目の前には、俺に掌を向けているゼロゴが居た。
嘘だろ。あの触手は移動を阻害しないのか……?あんな弾幕張ってしかも動けるのか…!?
俺の体勢は崩れている。膝から崩れ落ち、杖は俺が地面に手をついた下敷きになっている。詰んだか……?
ゼロゴの掌が黒く靄に包まれるのが、やけにゆっくりと見えた。
――……っ!
「【アブソーブドパリィ】!」
【インタラプト・リアクション】のタイミングが発動している。その瞬間、俺の体は思考が追い付く前に動いた。経験が生きたな。
ゼロゴの放つ「闇霞の一閃」は、俺は【スキル】を発動したことで勝手に動いた体に弾かれた。
忘れるな。これはゲームだ。現実的に無理な体勢からでも、"リキャストさえ終わっていれば"判定はされる!
あきらめない。あきらめるものか。
俺が決意を新たにした瞬間。
視界が、回転した。
「――……っがぁ……っ!?」
視界が暗転し、閃光が走る。瞬きもしていないはずなのに、視界がぼやけてまともに周囲の状況が分からない。
体がどうなっているのかわからない。手足があるのか?首から上しか無いような感じがした。
ずしゃり、ずちゃり、と足音だけがはっきりと聞こえた。
何が起こった?
「ふぅ、ずいぶん手こずらせてくれたね。でも、これでおしまいだよ」
ゼロゴの声がしたかと思えば、視界が流線になり、一瞬後には間近にゼロゴの顔があった。
「……っが……?」
何をしたのか、と聞いているつもりだったが、喉は閉まって息も吐けないし、声も出なかった。しかし、ゼロゴは俺の聞きたいことが分かったのか、にやりと笑って右腕を上げた。
飲めもしない息を飲んだ。
その腕は、肘から二股に分かれて、右腕が二本生えていたのだ。
どこまで……どこまで人間辞めた体してるのか。
「怖がらなくていい。君も、この体のすばらしさが分かるよ。
ボクたちのいた地球の事なんて気にしなくていい。一緒にこの世界を救おう」
そういってゼロゴは俺に顔を寄せてきた――……って、おい、何する気だ。
おい。
やめろ。
やめろよ。
止めて!
ご拝読・ブックマーク・評価・誤字報告にご感想、いつもありがとうございます。
まるでアクティブにスタイリッシュな戦闘、のような描写にしてはいますが、実際はドタバタ音と土ぼこりを巻き上げながら逃げて、たびたび転んだりしながら涙目で逃げています。
かわいいですね。




