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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生勇者はクリア後の世界に絶望する

作者: ウニ丼

微かに目を開ける。窓を見ると朝だった。次に部屋の時計を見る。現在時刻九時半。とっくのとうに学校が始まっている時間だ。


俺の名前は篠原誠。十四才。身長150センチ、体重60キロのちょい小太りな体型、そして俺の職業は不登校引きこもり。


引きこもってる理由はいじめられたとか、勉強についていけないからとか、学校に行くための金がないからとか、そんなたいそうな理由はない。ただ面白くないし、めんどくさいから行っていないだけ。家でゲームして、漫画読んで、ネットサーフィンして、そんでたまにオナニーする。こっちの方が楽しいだろ?


さて、今日は何しようかと俺はカレンダーを見る。今日の日付は10月10日.....て、『レイディアントクエスト』の最新作の発売日じゃねえか!あ、『レイディアントクエスト』っていうのは今俺が超ハマってるゲームな!!


「誠.....」


俺がゲームの発売日に興奮してると、部屋の前で情けない声が聞こえた。これは俺がよく聞く声。ババアこと俺の母親の声だ。


「今日も学校いかないの?」


「いかねえよバーカ!!それよりも今日ゲーム買いに行くから部屋の前に一万円置いとけよ!?置いとかねえと前みたい殴るからな!!!」


「.....」


ババアは何も言わない。俺が怖いからだ。少し殴ればおとなしくなって、言うことを聞く俺の奴隷だ。

俺はこっそり扉を開けて、ババアがまだいるかどうか確認する。部屋の前には一万円が置いてあるだけで、ババアはもういなかった。俺はすぐに一万円を回収し、部屋に戻った。


「よし!それじゃあ買いに行くか!」


俺はジーパンとTシャツに着替えて、パーカーを羽織り、知り合いに見られたらめんどくさいからフードをかぶった。さらに、マスクもして完璧。


早速俺はスマホを持って、リュックに財布をいれて、出発。天気は晴れていて絶好のお散歩日和。こんな日に学校とかバカじゃねえの(笑)


「ゲームを買うついでに昼飯も食いたいし、駅前に行くか」


一万円と多めに要求したのは最近できたらしい駅前のステーキ屋に行くためだ。平日の昼間からステーキ食べるとか、マジで俺セレブ。


駅前に行くために俺は家から近くのバス停に向かった。バス停では杖をついたジジイが一人だけいた。俺は気にせずジジイの隣に並び、バスを待ちながらスマホでまとめサイトを見て時間を潰した。五分くらい待つとバスはやって来た。バスの扉が開くと、ジジイはゆっくりと動きだし、バスに乗る。


「ちっ!」


ジジイがバスに乗るのにモタモタしていて俺はイラついて、ジジイの背中を押した。すると、ジジイは前のめりに倒れた。倒れたジジイを見てバスに乗っていた大学生らしき男が「大丈夫ですか!?」と大袈裟に叫び、ジジイに手を貸した。


「君、おじいさんに何するんだ!?」


生意気にも大学生らしい男が俺を睨んできた。


「か、勝手にそいつがた、倒れただけだし.....」


「勝手?違うだろ!君が押し倒したんじゃないか!?」


「ち、違うし.....」


大学生の男が鬱陶しいから俺はそそくさとバスの一番後ろの座席に座った。


「謝罪の一言もないのか!?」


「いいんだよ。ありがとう大学生さん」


ジジイは怒る大学生をなだめ、俺を睨んでいた。


「ああいう小僧には、いつかバチがあたるものさ.....」


気持ち悪いなぁ。俺はそう呟くジジイにそう感じた。

十五分くらいで駅前に着いた。ジジイと大学生の睨み付ける攻撃に俺はノーダメージでバスから降りた。あー、鬱陶しいやつらから離れられて本当せいせいした。嫌な気持ちを晴らすために、今日は一日中『レイディアントクエスト』を楽しもう!


俺はウキウキで道路を渡っていると、どこからか「危ない!!」と叫ぶ声が聞こえた。今日は叫ぶやつが多いなぁと俺が声がした方を見た。

俺の目の前にトラックが迫っていた。次の瞬間、目の前が真っ暗になった。













『目覚めよ勇者.....目覚めよ.....!』

頭の中からじいさんの声が聞こえる。言われたとおり、俺は目を覚ました。


「どこだ、ここは?」


そこは外じゃなく、建物の中だった。しかも知らない場所。見たところ西洋の城の中に見える。なんでそんなことがわかるのかだって?そりゃあ、『レイディアントクエスト』で似たような建物を見たことがあるからだ。


『ここは、異世界。お主は勇者としてこの世界に転生したのじゃ!』


「な、なんだって!?」


何だこの超展開は!.....ていうか、これまさか異世界転生ってやつか!!だったら、前からやってみたかったアレできるのか!?


「ステータス、オープン!」


目の前にウィンドウが表示された!


篠原誠 職業『勇者』

レベル 999

HP 999999

MP 999999

攻撃力 999

防御力 999

魔法攻撃力 999

魔法防御力 999

素早さ 999

保有剣スキル

極雷剣·ミカヅチ斬り 雷を纏った剣で相手を切り裂く雷系最強の技。

瞬激·億王剣 億の魔法の剣が相手に一斉に襲いかかる。

保有魔法 

アルティメットフレア 地獄の業火で相手を焼き尽くす。

エターナルブリザード 永遠に溶けない氷で凍らせる。

エンシェントトルネード 全身を粉々にする暴風を発生させる。

グランドメテオ 百個の隕石を相手に落とす。

固有スキル

絶対防御 あらゆる攻撃を自動で魔法防壁で防ぐ。

万病耐性 あらゆる状態異常を無効化する。

万能体質 睡眠·飲食をしなくても死ぬことはない。

森羅万象 転生する前のあらゆる知識を保有する。


「ち、チートすぎるうううううううううううううううううううううううう!!!!」


いいね!いいね!俺が求めてたチート能力主人公!!しかもステータスの横にイケメンが写ってる、たぶん俺だ。俺の見た目も変わってるポイぞこれ。前みたいな醜い姿じゃない!金髪西洋風の男前になってる!


「サンキュー神!で、転生した俺こと勇者は何をすればいい?」


『目の前に大きな扉があるじゃろ?その奥にラスボスがおる』


「早速ラスボスだって?面白いじゃん!俺が世界を救ってやるよ!!」


くだらないあの世界と違って、ここでは俺は勇者。何でもできる。まずはラスボスを殺して町でチヤホヤされたいねぇ。


俺は扉を開いた。


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!


邪帝竜ダークエンペラードラゴンが現れた!!


「うお!メチャクチャ強そう」


だが、俺は勇者。無敵!誰も俺には勝てない!!!


「くらえ!アルティメットフレアああああああああああああああ!!!!」


俺の手から巨大な炎の塊が放たれる。炎がドラゴンに当たるとドラゴンは雄叫び、そして消滅した。


邪帝竜ダークエンペラードラゴンを倒した!経験値180000を手に入れた!!


い、一撃とか。強すぎでしょ.....。


俺が絶句してると、脳内に神の声が聞こえた。


『おめでとう勇者誠。魔王を倒したお主はこれで自由だ。思う存分魔王がいなくなった世界を楽しむといい』


「おう!」


『ドラゴンがいた場所の背後にある扉が外へ繋がっている。そこを使うとよい』


「OK」


さあて、これでクリア後の世界を満喫できるな。レベルはカンストしてるから、チマチマした作業は必要ないなぁ。だったら、まずは女奴隷を買って従者にして、そのあとは盗賊に襲われてる女の子でも助けようかな。それで俺は惚れられて、ハーレム!いいな、それ!!


色々妄想を膨らませながら、前へ突き進む。


『森羅万象』のスキルがあるから現代知識は何でもわかる。これを活かして、金持ちになるのもいいな。どうせ異世界のやつらなんて頭クルクルパーだから、ちょっとしたことでもスゲーってなるだろし、異世界ものでよく見るマヨネーズの作り方で無双しようかな。


俺は扉に触れた。

ここから俺の異世界生活が始まる。俺が主人公の物語が始まるんだ!!!














扉の向こうは砂漠だった。空は曇っていて、建物も、動物も、人も、草も、花も、木も、山もない。何もかもないただの曇天の砂漠だった。


「な、何だよこれ.....」


『ここは、魔王によって滅ぼされた世界じゃ』


神の声が俺の頭の中で響く。


『全ての生命体は死に、町も、海も、自然も全て滅びた。砂漠しかない。いるのはお主しかいない』


「食べ物も、水もないとか、俺餓死しちゃうだろ!?」


『大丈夫。お主にはスキル『万能体質』がある。飲食しなくても生きていける。それに『万病耐性』『絶対防御』があるかぎり、病気で死ぬことも、自殺することもできない。思う存分この世界で生き抜けるぞ』


「ふざけるな!何で俺がこんな目に合わないといけないんだよ!!」


『これは、罰だ』


「は?」


罰?俺何にも悪いことしてないじゃん!!ただの理不尽じゃねえか!!!


『本当に、そう思うのか?』


「当たり前だ!早く俺を元の世界に戻せクソ神!!」


「お主は自分の母親を虐待してるな?」


「虐待?ああ、調教のことか。あれはアイツが昔から俺の言うこと何でも聞いてくれるから俺好みに教育してやったんだよ」


「ふむ。お主、妹もいるようじゃな」


「俺の性処理の道具のことか。前に犯してやったらクソ親父と一緒にどっか別のとこに逃げやがったな。俺が危ないとか言ってな」


「そうか。それでお主、学校の同級生のペットを殺したらしいな」


「今思い出してもムカつくよ。少し小突いただけで俺の手噛んできたんだよ。だから、俺も蹴り返したら、そのまま死んじまった。まあ、チワワだったし、思いきり蹴飛ばせば死んじゃうよな」


アハハ、と俺が笑うと神は唸った。


『お主には、人の気持ちがないのか?』


「何だよ人の気持ちってウケるんだけど」


『お主が反省し、気持ちを切り替えないかぎり、元の世界には返さん』


「何だと!?」


『お主はまだ若い、やり直せる。気持ちを切り替え、人のために行動するのだよ』


「.....」


『自分ばかり良ければいいというのはダメじゃ。相手のことも考え、思いやりの心を持つのだ。約束してくれ篠原誠。これはワシからのお願いじゃ』


「.....ああ。わかった」


こんな世界から脱出できるなら、気持ちなんていくらでも切り替えてやる。


『では元の世界に戻す。目をつぶってくれ』


神の指示に従い、俺は目をつぶった。











「.....はっ!」


俺は目を覚ました。そこは砂漠ではなく、公園だった。俺はベンチに座っていて、目の前にはガキどもが遊んていて騒がしかった。


「アレは、夢だったのか.....?」


マジでびびった。メチャクチャクオリティ高い夢だった。冷や汗でべちゃべちゃ何ですけど。

俺は背中にリュックがあることを確認し、立ち上がる。変な夢見て最悪の気分。早くゲーム買って帰ろう。


「あの、すみません.....」


俺が公園を出ようすると、ガキが一人俺に話しかけてきた。ガキの手にはなぜか俺の財布が握れていた。


「何でお前俺の財布を持ってんだよ?」


「近くに落ちてたので、お兄さんのかと思って」


「よこせ」


俺はガキから財布をとり、中身を確認した。最悪、一万円がなくなってた。このガキ俺の金盗みやがった!!


「お前、俺の金返せよ」


「し、知らないです!!」


「嘘つくな!!!」


俺はガキを突き飛ばした。すると、ガキはバランスを崩し、後ろに倒れ、頭をベンチの角にぶつけ地面を転がった。


「お、おい.....」


ガキの頭から血が流れていた。しかも、声をかけても反応はないし、動かない。明らかにヤバい。まわりのガキやその親が俺のことを見ていた。


「ち、違うぞ!こいつが勝手に転んだだけだ!!俺は悪くないぞ!!!」


俺はその場から逃げ出していた。あのガキのせいで、俺が悪いこと見たいになってるじゃねえか!!俺を見るな!!!

俺は何も考えず、走る。ひたすら、走る。気づいたときには道路に飛び出していた。そして、気づいたときにはもう遅かった。俺は右からきたトラックにひかれた。











「哀れなやつじゃ」


事故現場を見ながら、篠原誠とバスに乗っていた老人は呟いた。


「警告はしたが、ダメだったようじゃな」


老人は振り返り、歩き出す。そして、老人の体が徐々に薄くなっていく。


「あの少年は異世界で今頃何しとるだろうなぁ」


トラックにひかれた少年が運ばれていく。即死で、頭部はグシャグシャになっていた。そんな死体を見て老人は最後に呟いた。


「何もない砂漠で絶望し、孤独に尽きて死ね」


老人はこの世界から消えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 藤子・F・不二雄先生ののあれですか
[良い点]  流行りの異世界転生ものですが、ウ二氏のアレンジをミックスさせて、面白い物語に仕上がっていると思います。  異世界転生からの短編となると、どう物語が収束されるのかと思っていましたがそうき…
[良い点] 読ませていただきました。 よくある転生物だけど主人公が物凄いドクズ会心しないのが、なんとも言えず最高です。 そしてあのおじいさんが....。 よかったです‼
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