デスゲームのワンシーン
彼はここの唯一の出口の前に立っている。逃げることもできない。唯一の対抗手段は銃だが、生憎胸の内ポケットだ。取ろうとすれば間違いなく撃たれ、照準を合わせもう1撃で終わりだ。
流石に分が悪い。
「降参だ。」
僕は、何の敵意もないことを示すため両手を上げる。
「…随分とあっさりだね。」
「あぁ。どうせこの対面ならまず負ける。」
「まだ確定は出来ないだろう?」
彼は、笑顔で言った。ここで自分の周到さをひけらかさないという事は、まさかこの状況全てが偶然なのだろうか。それなら、末恐ろしい男だ。
僕は、先ほどの状況分析を言い、痛いのは嫌いだから、急所に1撃で殺してほしいと彼に頼んだ。
「成程…いいよ、どこがいい?」
彼はしばらく考えてからそう答えた。
「司令塔になる頭を頼む。映画であるように、銃口をこめかみに当てて。」
「いいよ」
どうやら、勝ちは確信したようだった。僕も、負けを確信していた。
彼はこちらへ歩み寄り、僕のこめかみに銃を突きつける。
「遺言なら聞くよ?」
「そうだな…それじゃあ」
先程の言葉は訂正させてくれ。負けを確信したのは、ほんの数瞬前までだ。
「隙を作ってくれて、ありがとう。」
彼も異常を察知したようだが、もう遅い。
僕は彼の鳩尾にグーを入れる。一瞬の罪悪感も淀んだ空気にかき消された。
そして、腰を折ったところに蹴りを入れる。
まずは胸に。次は脇腹、そして顔に。
成程、これはこれで楽しいのか。
楽しさで忘れかけていたが、彼が落とした銃は蹴飛ばさなければ。
足元を探し、見つけた拳銃には、彼が手を伸ばそうとしていた。
まずは本体に蹴りを入れてから、銃を蹴飛ばす。部屋の入口まで飛び出してくれた。
心の中でガッツポーズをし、更に蹴るのを続ける。
足に絡み付いて必死に止めようとするが、ほぼ無意味に近かった。
こんなにも、惨めだったのか。僕は。
彼を上から眺め、そう思った。
散々痛めつけ、やがて抵抗もしなくなった。
僕はやっとポケットから拳銃を取り出す。
しゃがんで、こめかみに銃口を置く。
「それじゃあな」
聞こえてるかどうかはどうでもいい。
チャイムの音が頭蓋骨の中を反響する。
大嫌いな音をかき消すように、僕は引き金を引いた。
暫くして、アナウンスが鳴った。
『人狼が一人。殺害されました。』
アナウンスを聞き届けた僕は、血の海に浮かぶ彼を横目に立ち去った。
僕は、裏切り者としてこの館に入った。
勝利条件は、彼と同じ。それなら、僕が狼になればいい。
新しい狼の、誕生だ。