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さよならをいうひと

作者: 月雲悠天

私、月雲悠天の実体験を元にした優しいホラーです。

『めぐちゃん』


 その声は唐突なものであった。荷物を置きに中学校の隅の物置に来ていた時、少女はその声を聞いた。めぐみという名の少女は、親しい友人たちから「めぐちゃん」と呼ばれている。誰か近くにいるのではないか。そう思って辺りを見渡し、

「だあれ?」

と声をかけるが、辺りに人の気配はなく、シンとしている。

「気のせいかな?」

 少女はぽつりと呟くと、荷物を片付けてその場を後にした。

 夏だというのに、涼しく、とても気持ちのいい風が吹いていた。


『めぐちゃん、ばいばい』


 その日から、少女は度々そのような声を聞くようになった。それは帰り際、中学校を出るか出ないかというところで、そっと囁くのだ。よく聞けば、少女の知る友達の誰のものでもない声だった。


『ばいばい、めぐちゃん』


 少女はその声に振り返りつつも、目をそらして帰る日々が続いた。


 暫くして、少女は友人から、学校で噂される怖い話というものを聞いた。人によって段数の変わる階段や、美術室の目が動いて見える肖像画など、先輩や先生から新入生へと伝わっていくそれらの話は、ほとんどがどこかで聞いたようなつまらないものであった。しかしその中に、一つだけ少女の興味を引くものがあった。三階の一番奥の教室の話だ。その教室は、他の場所と違って床が一段高い。友人の話によると、昔、その教室で一人の女の子がいじめを苦に、首を切って自殺した。そのとき床に飛び散った血がとれなかったために、その上に新しい床板を敷いた。それで不自然に一段高くなっているというのだ。

「あの子だ」

 それは直感でしかなかったが、少女はその女の子こそ、声の主であると思った。なんとなく気になって、その子の名前を尋ねてみたが、「知らない」と笑われた。


 放課後、友人と別れ、校門を過ぎた瞬間、少女は声を聞いた。


『めぐちゃん、ばいばい』


 少女はいつものように振り返った。そこにはいつも、誰もいなかった。いつもならば、少女はそのまま外の世界へと戻っていく。しかしその日、少女は意を決して、見えない女の子へと手を振った。

「ばいばい、また明日」

 私の名前を呼んでくれてありがとう。

 いつもさよならを言ってくれてありがとう。

 できることなら、君の名前を呼びたい。

 でも、それができないから、せめて――


 また、明日。


 その次の日から、少女は声を聞かなくなった。ただ、とても気持ちのいい風が吹くのだ。


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