第2話:スキル パーティ作成
「それで、申し訳ないのじゃが……ユウイチ殿のユニークスキルを教えては貰えぬだろうか?」
モブ王国の謁見の間で、1人の日本人にいかにもな王様が頭を下げる。
モブ王国国王、ジルド・フォン・モブ陛下。
その質問を受けた相手は、トンダ・ユウイチ35歳。
しがない人材派遣会社の事務員だった彼が、何故こんな事になっているかというと。
ここモブ王国は農業は盛んだが、国の規模が小さく軍事力というものが全くの皆無に等しい。
いや、自国であれば籠城してそれなりに戦う事が出来るが。
打って出る事も出来ない。
なんせ総人口約1000人の、とても小さな国だからだ。
一応国の重責を担う名ばかり貴族は居るが、その貴族に対して領地を分け与えるなんてこともできず、基本は王城務めでわずかばかりの農地が貰える程度。
周囲はどう見てもモブ王国を落とそうと考えている、敵対国といっても過言ではない国が3ヵ国もあり、まさに四面楚歌。
モブ王国はその3ヵ国に等しく農作物を格安で融通することで、お互いに牽制をさせ侵略を辛うじて免れているといった状態。
この3国が手を取り合って、モブ王国を3等分にするような行動に出てしまったら一瞬で吹き飛ぶような小国だ。
そしてここに来て問題が起こる。
今まで目立った動きを見せてなかった、海の向こうにある魔族の王国。
魔国が、ここモブ王国を人間の国への侵略の足掛かりとして狙っているのだった。
現に何度か襲撃を受けたが、それらはことごとくモブ王国を狙いつつも、友好的な態度を見せている周囲の3ヵ国によって、どうにか退ける事が出来た。
その見返りは凄く高い物についたが。
そこで、モブ王国は過去に3度ほど行った記録がある、勇者召喚を行う事にした。
切羽詰まっていたのだ。
他の世界の人の都合など、考えられない程に。
それに救ってもらったら、それ相応の見返りを用意するつもりであった。
向こうの世界への未練が、少しでも和らぐような。
それに、帰る手段まで用意して。
そして、彼等が行った勇者召喚の儀において……彼等が願ってやまなかった存在を手にすることが出来た。
それが、いま国王ジルドの前で所在無さげに、目をせわしなく動かしているいかにも小物な男。
そう、トンダ・ユウイチである。
いわゆる、巻き込まれた一般人だ。
彼の他に召喚されたのは、職業勇者のヤマト・メグミ(17)と職業賢者のヨシダ・カズキ(17)だ。
どう考えても、彼等こそがこの国を救う救世主だろう。
現に召喚された3人はそう考えていた。
が、今回国王に呼ばれたのはユウイチのみ。
当の本人は、スキルについて話すべきだとは考えている様子。
ただ、国王なんて人種を相手にすることなど、現代日本ではまずありえないので、そこで迷っている様子だ。
しかも、その国王に頭まで下げさせている。
これは、居心地が悪い。
「その、私のスキルは……パーティ作成です」
「パーティ作成?」
聞きなれない言葉に、ジルドが首を傾げる。
「はい、このスキルは現在10人までの人間をパーティ……いわゆる、共に冒険をしたり仕事をする仲間の集まりですね」
「なるほど……パーティか」
まずは、そこからの説明だった。
そして、このスキルの核心を伝える。
「そして、このパーティ登録された者達は、倒した魔物や生物から得られる恩恵を等倍配分します」
「どういう事じゃ?」
「そうですね……もし仮に、パーティの誰かが経験値1の魔物を倒したすると、パーティ全員が1の経験値を得ることが出来るのです」
「なっ!」
ユウイチの言葉に、ジルドの目が見開かれ言葉に詰まる。
そして、ゆっくりと深呼吸したあとで、自分の理解した内容を繰り返す。
「そ……それは、パーティの誰かが魔物を狩れば、家で寝てても経験値が入るというのか?」
「ええ、もっとも、半径10km以内のパーティメンバーにのみ反映されるという、条件付きですが」
「10km! いや、そのくらいあれば、魔物の住む場所などいくらでもある」
その有効範囲の広さに、ジルドは思わずヨロヨロと後ろに後ずさり、椅子にドスッと音を立てて腰かける。
そして、こめかみのあたりを指で押さえつつも、考えを纏める。
「その……デメリット的なものはないのか? 例えば、お主の命令に絶対服従とか?」
「いえ、特には。ただ、私の意思で解雇できることと、当人達が望めばいつでもこのスキルの庇護から外れることが出来るくらいですかね?」
「なるほど……それは、デメリットというほではないな」
「あとは、パーティメンバーに悪意をもって害をなそうとした場合……強制的に分担分の経験値が没収され、自動解雇となるみたいですよ?」
「そ……そうか」
これほどの恩恵を受けて、そんなことを考える奴が居るか? と言いかけた言葉をどうにか飲み込み、簡単な返事を返す。
が、いまジルドの頭の中ではこのスキルがいかに凄いものかというのが、凄い速さで色々な事を考えさせている。
「そ……それで、パーティメンバーは考えているのかな?」
「今のところ、同郷の2人は確定ですね……他に、魔物を狩るのが得意な人を紹介頂けたらと」
「わ……我が国で、そのスキルを使って頂けるのか?」
ジルドが興奮した様子で椅子から身を乗り出して問いかけると、思わずユウイチが後ろに下がる。
「す……すまぬ」
「いえ……」
それから色々と打ち合わせをしたのち、7人の人物が紹介された。
そのうち5人が王国の騎士で、2人がC級冒険者だった。
全員レベルは10~12。
この国では強い方だが、他の国で戦いを生業としているものからしたらとても劣る。
だが、国王から簡単に説明を受けた7人は、全員がユウイチに忠誠を誓いパーティに加わることを希望した。
「いや、パーティって仲間みたいなものだから忠誠とか誓わなくても」
「いえ、ユウイチ様方は、異世界からの英雄たらん方々です。敬意を払って当然のお方です」
代表して答えたのは、この国の騎士団長のニコライだ。
筋骨隆々としており、武器も良く使い込まれていてとても強そうに見える。
見えるのだが、この世界の基準からすれば全然らしい。
他の国ではレベルが20を超えてから1人前とされるらしい。
が、この辺境の地ではレベルが低いのは仕方のないとと言える。
何故なら、特に脅威となる魔物もいないこの地では、騎士達も剣ではなく鍬を持って、土と戦う日々の方が多いからだ。
故に基礎能力は高いのだが、戦闘技術やレベルがからっきしなのだ。
冒険者も、せいぜいが周囲の害獣駆除程度の仕事しかこなしてきていない。
この国の最高レベルは31で、ジルド国王だ。
幼少期から英才教育にレベリング、他国への留学等をへてようやくこのレベルに達したらしい。
現有戦力最強が国王ってどうなのよ、とも思わなくもないが。
そんな野暮な事は言わない。
――――――
それから1週間過ぎた。
「富田さん、私達これで良いのかな?」
「いや、王様が良いって言ってるんだから、良いんじゃない?」
「大和は、何が不安なんだ?」
「いや、和樹には分からないかも知れないけど、勇者って……こう、世界を救うために最前線に立って魔物や魔族を倒すもんじゃ」
「ははは、大和夢見過ぎ! ゲームじゃねーんだから」
勇者であるメグミがソワソワしているのを見て、職業賢者のカズキが鼻で笑う。
ユウイチも、少し居心地が悪そうではあるが。
「いや、俺のスキルがあるから、俺たちは危険な事はしなくて良いって言われたし」
「富田さんのスキル……ズルすぎですよね?」
「おっ、大和もついに認めたか」
「あっ……レベルがまた上がった」
そう、いま町の外では兵隊さん達が、魔物退治に勤しんでいる。
冒険者達はダンジョン探索だ。
今のユウイチのレベルは51とかなり強くなっている。
メグミとカズキは27と、差が開いているがこれはユウイチのスキル特典があるから仕方ないだろう。
得点、メンバー1人につき8%の経験値ボーナス。
レベル10でパーティメンバーが20人有効範囲が20kmになり経験値ボーナスは160%……2.6倍に。
そしてレベル50でパーティメンバーが40人、有効範囲が40kmに経験値ボーナス320%……4.2倍になった。
ユウイチだけポコポコレベルが上がるのは仕方ないだろう。
現在一応国王もパーティに加わっているので、36人の兵士や冒険者が魔物を狩っているのだ。
そう、36人が経験値1の魔物を倒したら、36の経験値の、さらに4.2倍。
つまり、1人だけ約150の経験値を手にすることになるのだから。
ユウイチ達は、モブ王国にあてがわれた部屋で今は寛いでいる。
というか、ずっと寛いでいた。
街へは自由に行き来して良いとのことだし、特に不自由は無いのだが。
「あっ……レベル上がった」
こうしている間にもポコポコレベルが上がる。
――――――
それから、特に魔族の侵略を受けることなくレベル上げが捗る。
ユウイチのレベルは520。
メグミとカズキは共に51。
この国の人達の平均レベルも30を超えている。
それもそうだろう。
レベル100でパーティメンバーが80人の有効範囲が80km。
200で160人の160km。
300で、320の320km。
そして400で640の640km。
現在500で、有効人数1280人の有効範囲1280kmなのだ。
いまや国民全員をパーティメンバーにしている。
その過程で、スパイ等のはじき出しにも成功したが。
現在ユウイチのボーナスポイントは約1000人掛ける8%で約8000%。
すなわち、80倍……
そりゃ、1人だけレベルがおかしくなるというものだ。
ちなみにレベル500越えは、本当に伝説の人の部類に入るらしい。
当の本人にその自覚は無いが。
レベルが上がれば上がるほど、次のレベルアップに必要な経験値が増えるため、レベルが80倍とはならなかったが。
レべル80倍なら、メグミとカズキの80倍で、レベル4080とか……
神クラスだ。
こうしてモブ王国民は、国王から赤子に到るまで世界最強の人種になりつつあった。
次で終わるかな……
分かりません。
まあ文字数にこだわらず、次で終わらせますw
アイデアのメモ書きみたいなものなので(;^_^A