父の思い出
うだつが上がらない男。
その息子にとって、父ははそう言ったものの体現者だった。
早隠居して務めを継ぐ時も、父を超えてやろうとやっきになっていた。
いざ、城勤めを始めると、覚える仕事の多さ、普段からの所作、身だしなみ、人間関係の軋轢、くたびれることだらけだった。
そんな右も左もわからぬ自分を助けてくれた上役の湯浅は、何につけても準備のいい男で、困ったことを相談したら、あらかじめわかっていたかのように、指導してくれた。
何故、わかるのかを尋ねたことがある。
どうすれば、そうなれるのか教えてもらおうとした。
上役は、答えてくれた。
普段からの心掛けがいい者だけが、いざという時にいい仕事ができる。
普段からの振る舞いや作法を整えることは、日頃の心掛けがよくないと続かない。
よい仕事をしたいのならば、よい人間でなければならない。自分を鍛えることだ。
「おぬしの御父上が教えてくれたことだ」と上役は笑った。
父はそんなことを言ってくれたことはない。そうぼやくと「息子は俺の言うことなんて聞きたがらないだろうから、教えてやってくれ」と言われたことを、そっと、教えられた。
それからしばらくして、父は上意討ちの刺客となって、死んだ。