冥友、郷田甚八。
雪深い佐久田藩の奥地、藩士の子は雪山を越えて藩校に通わねばならない。
その日も坂根小太郎は、二つ年長の友である郷田甚八と共に、積雪に沈む足を引き抜きながら進んでいた。
雪崩に見舞われたのは小太郎が十五の頃である。
雪山で山頂より押し寄せた白は体中にのしかかり、身動きも、呼吸も奪う。先祖代々受け継がれた時貞の大小二振りだけは守ろうとして、白い波にとらわれ、意識と共に、簡単に手放してしまった。
冷たい静寂の中で、酸欠に酩酊し、それでも小太郎に聞こえたのは、必死に自分を掘り出し、安否を確認する甚八の声。
冷え切って、感覚のない手を、同じように冷え切った甚八の手が握っていた。
感触はなくても、それでも確かに二人の手は繋がっていた。
それから、二人は力を合わせ下山し、無事に大人になった。
今ではそれぞれの務めにつき、お互い家庭も持っている。
二人の手は未だに繋がっている。彼岸で繋いだ手は、今も結ばれたまま。
見えなくても。お互いがどこにいるのかわかるし、何を考えているのかも、愛しい女を抱いている瞬間も、怨恨の果てに人を斬り殺したことも、言わなくても、知っている。
どちらかが死ねば、片方も死ぬだろうことも、知っている。