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五百剣  作者: 伊藤大二郎
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無能者吉隆

 栗坂藩に、目立たぬ男がいた。

 名は熊谷吉隆。初代より数えて三代に渡り仕える老臣である。

 彼には取り柄がなかった、これと言って大きな功を為した話も残っていない。

 誰よりも長く主家と共にあった。それだけである。

 家中の若い者たちは侮り、古い者達は嘲っていた。

  

 三代広宣公が四代藩主を選ぶ段になって、候補が数名いた。

 病身の長子、放蕩者の二男。働き盛りの藩主の弟、聡明だが幼年の三男。

 多くの者が自分の栄達のために、誰かに付き、それを推して、藩主に迫った。

 困った広宣公は、熊谷吉隆に意見を求めた。

 広宣公は、自分が産まれる前から城に務め、他人を悪く言ったことのない吉隆の言葉を求めた。

 多くの者が自分の栄達のために、吉隆に取り入り、自分の推す候補を藩主に推挙するように頼んできた。屋敷は常に客が訪れ、贈り物が届くようになる。


 吉隆の息子は、その有様を見て、言った。

「父上の一言で、藩の行く末が決まるわけですね。愉快なことで」

 それを聞いて、吉隆は厳しい眼をして、応えた。

「息子、父はな。無能だ。忠義しか持たない無能なのだ。なんで、権力を弄ぶようなことができようか」

 その言葉に、息子は己の不明を恥じたが、父はよいと嗤って、そして首を傾げた。

「しかし、どうしたものか。こんな大それた話、ワシにはよう決められん」

 

 その後、吉隆がいかに答えたという話は残っていないが、栗坂藩四代藩主は、そこそこに藩を栄えさせて、平和に過ごしたと言う。

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