うずくまるもの
「よわい よわい」
物心ついたときには、それは見えていた。
ほかの誰にも見えない、物陰にうずくまるもの。
「よわい よわい」
何かわからないものに始終見張られる恐怖に、ただ怯えた。
剣の稽古をしているときだけ、それは見えなかった。
世間には、稽古熱心な子供にみえたのだろう。
同機はどうあれ、竹刀を握る時間の長さはそれなりに力量に結び付き、剣士の誉れ高い侍の子となった。
それでも、ふとした時に
「よわい よわい」
あれはうずくまっていた。
それが妖怪というものでないかと気づいたのは、元服を迎えた時。
そういうものと受け入れ始めた時、湧いてきたのは怒りであった。
怯えなくなった。強さに自信も持ち始めた。
それでも、己の弱さを詰るように現れるそれの言葉に、いらつき、剣先は鈍る。
ある一定の水準まで伸びたが、伸び悩む。
うずくまるものの声を聴きたくなくて、ただ剣をふるい続けた。
呪いではないかと思った。
ふと、ある日。
己の弱さを受け入れる瞬間があった。
弱いといわれるのが嫌で、剣をふるっていた。
それでも、弱くてもいいのではないか?
なぜ、そう思ったのかはわからない。
それから、剣をふるう時にも、それがうずくまるものが見えた。
自分は見守られていたのではないか?
そう思った時には、それはもう見えなくなっていた。
齢童子なる怪異が、岐東藩にはあったらしいが、それと関係しているのかは、不明である。




