ただのこども
作り話を広めた。
夜な夜な人気のない小道で人を襲う、化け犬の話。
本当のことのように嘘を言うのが得意で、寺子屋友達を怖がらせて楽しんだ。
字を教えてくれる浪人の先生や、長屋の女衆らにもおかしくおどろしく伝えたら、みんなすっかり嵌ってしまい、話の続きを求められた。
人気のない小道で、人が死体で見つかった。
いつの間にか、それは化け犬に殺されたことになっていた。
気分が悪い。
人をおっかなびっくり怖がらせることが楽しかった。
本当に人が死ぬわけがない。
何か、大切なものが汚れた気がした。
数日後、お侍が現れた。
南町同心寒川喜蔵曰く。
「下手人が、自分の犯行を隠すために、わざとそんな怪談を捏造して広めている」
力を貸してくれと言われた。
数日後、化け犬が本物の下手人を探しているという話が広まった。
被害者から盗んだ財布の匂いをたどって、化け犬が追いつくと。
助かるには、盗んだ物を盗んだ場所に捨てて、匂いを断つしかないと。
夕暮れ、寺子屋の先生に呼び止められた。
「あの噂を広めたのはお前か。俺が下手人だとなぜ気づいた」
おちよは答えた。
「先生が人殺しするところを見ました。だから、化け犬が殺したって嘘を広めました。でもお侍様が現れました。だから今度は、下手人が現場に戻りたくなる話を広めました。お侍様は現場に張ってます。このまま先生が何にもしなければ、お侍様は目星を失います」
怪談を操り、大人を煙に巻く少女に恐れをなして、浪人がおちよを殺そうとした。
間一髪。間に合った喜蔵。
最後に、おちよに何故浪人を庇ったのかを問うていた。
「あたしに字を教えてくれたのは、先生だから」
おそろしくても、まだ、ただのこどもなのだ。




