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五百剣  作者: 伊藤大二郎
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太鼓退治


 昔々、山で悪さをする魔物を退治して、そいつの腹の皮を張りつけた太鼓というものが、氷見神社に安置されている。

 神社が開放される祭りの夜でも、その太鼓が鳴ることはない。撥で叩くと、魔物のような唸り声をあげて聞いたものは呪われるというからだ。


 村の悪ガキ共が神社に忍びこもうとして、薄暗がりの倉の中に、眠るように鎮座する魔太鼓を怖がって、結局逃げ出した。

 何かしらの魔性を帯びているのだろう。不気味すぎて処分することもできずに、大切に扱われ、封印されてきた。


 村祭りに太鼓の音が響かなくなって、十数年となる。


 ある刻、旅の侍が訪れた村で一宿の恩を受け、呪われた太鼓の話を聞いた。

「なんとも。その魔物、退治されてからの方が村を支配しておるな。村の真ん中に居座って、皆を平伏させておる」

 君子怪力乱神を語らぬものと弁えた侍は、そのまま村を出てもよかったが、あまりに村の者の生気のなさになんとかできるならしてやりたいと、神社へ行く。


 怖がる宮司を宥めすかして、魔器を見る。

 

「なんと、見事な長胴太鼓だ。下手な者では音は出せぬ」


 諸肌脱いだ豪傑は、立派な樫から撥を二本切り出すと、その夜、篝火の下に太鼓を引っ張り出させた。


 村中の者が神社を囲んで恐る恐るに中を見やる。


 炎は月影をかき消し、二刀を構えるがごとき侍を照らす。


 目の前には、人々を恐れさせる太鼓の化け物。


 それはまるで、立ち合いのようで。


 男が気合を一つ発して、振りかぶる。


 全身全霊を込めた、一太刀は。



 天地のすべてを揺るがすような、響きとなって、村中の人間の肚を揺らした。


 見事、太鼓の化け物は、天下に恥じぬ大名物と化した。


 ただし、それほど見事に太鼓を鳴らせるのはその侍だけだったので、村人に懇願され、その村に住み着く次第なれば。

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