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五百剣  作者: 伊藤大二郎
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刀工・石動竹光


 竹を刀身のように削り形を整えたものを竹光と呼ぶことは、皆が知るところである。

 生活に困窮する浪人が刀を手放し、代用品として扱うこともある。


 石動藩に、腕のいい竹光職人がいた。名は竹蔵。彼の竹削りは、まさに研ぐと言った有様で、ただの模造品に魂を込められている。

 それを必要とするのは、武士の魂を捨てようという者達であるにも関わらず。

 誰もが無駄と笑った。


 子供の頃からの親友だった侍の子だけは、笑わなかった。

「竹蔵。俺にはわかるよ。魂が、金がない、なんて理由で捨てられていいはずがない。だから、刀以上に刀らしい竹光を、持たせようという気概」

 親友は、梅木松陰は、藩の重役で、竹光なんぞ必要としない男だった。二人の身分の違いは、同情にも受け取られかねない隔たりだったけれど、竹蔵はそんな歪みは持たない。


 

 松陰が、長患いで足を悪くした。

 まっすぐに立つことも彼に、腰に刀を差して歩く力などなかった。

 登城すらできず、禄を失う男を、だれもが哀れんだ。


 竹蔵、いや、刀工・石動竹光のみが彼を訪ねた。

「松陰様、この刀を」

 その竹光は、重さが全くなく、腰に差しても、重心が揺らがない。張り付けた銀紙の照り方は、刃の重さを持っていた。

 さすがに、竹光を差して、登城することははばかられた。まして、まともに歩けるかもわからない。

 しかし、竹蔵はその刀を抜きはらうや、己の腕を切って見せた。

 

 血が、滴る。


「刀の鋭さを持たせております。病ごときで、あなた様の魂が捨てられていいはずがありませぬ。いざ粗相あれば、お腹を召していただけます」


 梅木松陰が石動竹光を手にした瞬間、力が溢れた。




 それから五年。

 梅木松陰は病を押しているとは思えぬ力強さで、藩政に関わり続け命数を使い切った。

 彼の刀のあまりの美しさに、それが模造品であること、ついぞ誰も気づかなかった。





 竹には、魔除けの力があるという。

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