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五百剣  作者: 伊藤大二郎
22/29

仁風

 

 仁義に、殺されそうになっていた。


 父親が死に、母親に捨てられ、奪うことで生きてきて。


 暴力で身の証を立て、自分は生きていいんだと嘯いてきた。


 そんな生き方しかできなかったから、いつか誰かに奪われることで死ぬ。


 それが怖くて、仁義を求めた。



 外道には、外道の違えぬ筋道があって、それが裏社会の秩序を守っている。


 仁義が、自分を、奪う側に立たせてくれた。


 そして、別の仁義をかざした敵に追われた。


 外道と罵られ、謀られ、負けて、奪われて、終わりを迎えた時。


 このまま死にたくないと思って、逃げた。


 山を越え、谷を転げ、叢に這い、息を潜め。


 何かに振り回されて、そのまま投げ捨てられる自分の人生に涙が流れてきた時。



 男に拾われ、匿われた。


 見るからに兇状持ちのやくざ者を匿った、あまりに変哲のない男。


「お前、俺が怖くないのか。なんで、助けてくれるんだ」


 何を訊いても、返事はない。いつしかいろいろなことを口にしていた。


 やくざ者としての半生、黒縄一家との抗争。


 金で転んだ手下。街に残してきた女。


 死んだ父。多分、死んだ母。


 仁義。


 何も、返事はなかった。



 三日の後、黒縄一家の差し向けた追手が男の家にたどり着いた。


 男は自分の長脇差をひったくると、外に出る。


「なぜだ、何故お前が戦う」


 その時、やっと返事が返ってきた。


「お前のような悪党さえも、すべて失って涙を流す。それを、見捨てたくないと思った」


 男が振り返る。


「弥七」


 初めて、名を呼ばれた。


「おそらく、お前の言うアレが、答えだ」



 後の大侠、仁風の利左エ門とその右腕となる弥七が、黒縄一家と大喧嘩を行うその日の、やりとりであった。

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