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五百剣  作者: 伊藤大二郎
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河童切時貞

 柘植藩七万石に仕える水地家に、「河童切時貞」という銘刀がある。

 昔々、藩祖と御息女が物見に出られた際、姫が河童に誘かされそうになり、御側役が河童を切りつけ、難を逃れたという。その際、殿より名刀「時貞」を拝領し、その場で捕まえた河童の腕を切り落としたそうだ。

 そんな馬鹿なと思うが、実際にその刀がある以上、それは事実なのだ。

 五代目当主、水地小文吾は毎朝、床の間に飾られた時貞とその河童のものだと言う、木乃伊の腕を拝んでいる。


 小文吾の仕事は城中の酒と味噌を切らさないように管理し、発注をかけること。目立たぬが真面目に堅く務めることが、彼の性にあっていた。薄暗い蔵の中で黙々と務める彼の姿はどこか暗く、家名と家宝と共に、彼自身が気味悪がられる時もあった。

 そういう、それだけの男だった。


「小文吾、また河童を切って欲しい」

 蔵の向こうから、誰とも知れず声がした。小文吾以外に聞いてはいない。小文吾も余計な口は挟まない。

「祭祀奉行の平田政次の長子、政則に怪我を負わせて欲しいのだ。殺す必要はない、指の一つも切り落とし、跡を継げなくしてくれればそれでよい」

 理由を訊いたりはしない。ただ、言われた通りに河童を切ればよいのだ。それは、父より水地の家名を継いだ時に、十分に言い含められている。

 そうやって、藩と藩主に害為す河童を切る。

 水地大悟が、実の己の娘を手込めにした藩祖から、姫を逃がそうとした若侍の腕を切り落とした日から、そうなっている。

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