世間知らず
東鯉藩主の一人娘、東風姫が、お付きのものとはぐれてしまった神社の近く。
その少女は今まで出会ったことのないものであった。
衣服はほつれ、破れ。
体からは犬よりもにおいをさせており。
何より、裸足であった。
裸足で歩く人というものを、東風姫は初めて見た。
「そなた、足は痛くないのか?」
誰何もせずに、そう訊いてしまった。
炭売りの一人娘、たきが、歩き売りの最中に通った神社の近く。
その少女は今まで出会ったことのないものであった。
話にも聞いたことのない、美しい着物。
これだけ離れているのに、花よりもなお芳しいにおい。
高そうな、履物。
「そなた、足は痛くないのか?」
ぶしつけに訊くにも、程がある。けれど、礼もないが邪もないその問いが、嫌いではなかった。
世間知らずにも程のある姫と、炭売りの娘が二人きりで何を話したのかは、二人しか知らない。
しかし、しばらくして東風姫付の女中に、垢ぬけていない作法もへったくれもない世間知らずの娘が増えていた。
出自からの蔑みと足の皮の厚さから、黒足と仇名される女中を、姫は臆面もなく使った。
面の皮の厚い姫様だと嘆息をついて、黒足はその後ろを守り続ける。