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神祭り
江戸にいられなくなって逃げてきた痩せ浪人である自分を、匿い面倒を見てくれたお人よしの、おタツ。
他所からの流れ者である自分を警戒しながらも、飯を食わせてくれた、ガンゾウ。
金釘流のひらがなを教えてやったクワ坊。
この村が、自分を人間でいさせてくれた。
祭り囃子が遠くに聞こえる、村の外れの夜。
あいにくの曇り空で、まあるい月は見えない。
ふと、雲の切れ目から月影が差しこんで、照らされる石祠と産まれて初めて、拝むことをしている自分。
そして、祭りの夜を狙って村に這い寄った山賊共。
「去ね」
悪党からの最後通牒に
「ならぬ」
刀を抜いて、応答した。
今更、まっとうぶっても流してきた血の総量には抗えない。
けれど、今、しなければならぬと、誰かが囁いたのだ。
あるいは、お前か。神様。
身命を賭したところで、盗賊二十八人と斬り結び追い返すには、神懸りでもなければ足りまい。
ならば、観ていてくれたのだろうか。
一人ぼっちではなかったのだろうか。
「かみさま、ありがとう」
太鼓の音も、笛の音も、もう聞こえない。
返事もない。




